Shiras Civics

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「人生をどう生きるか」がテーマのブログです。自分を実験台にして、哲学や心理学とかを使って人生戦略をひたすら考えている教師が書いています。ちなみに政経と倫理を教えてます。

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表層的な禁止~「人返しの法」と「大学定員抑制策」の共通点~

 

 

10年間ながらも東京23区内の大学定員抑制が閣議決定された。東京への人口一極集中を是正し、衰退が叫ばれる地方大学への進学者を増やすことを狙いとしている。人材育成等に取り組んだ地方大学などへ補助金を支給するそうだ。

ある政策との類似性~江戸時代版定員抑制策~

この政策を見て「人返しの法」に似ていると感じた。「人返しの法」は江戸時代の終わりごろ、水野忠邦による天保の改革の一環として出された法令である。江戸に流入してきた人々を強制的に農村に返し、同時に農民の出稼ぎや副業を禁止した法令である。

飢饉などで農村に仕事がなくなったため江戸に流入した農民を、再び農村に閉じこもらせ、年貢収入の安定化をもくろんだわけである。しかし、江戸時代の終わりには商業が大いに発展し、農村にまでその余波が及んでいたから、農民が副業として商品作物を栽培したり、出稼ぎをしたりすることを禁止したのは時代に逆行していたといえるだろう。そもそも農民だって鋤や鍬、肥料などの生産手段を用意するのに、金銭が必要だったのだから、本業である農業が立ち行かなくなれば出稼ぎ等に手を出すのは不可避だったのだ。

当然、人が戻ったところで農村の荒廃は防げなかった。つまり、人返しの法は、水野忠邦が社会現象の原因を見ずに、ただ表面的に「現象を禁止するぞ」と叫んでいることを示している。

 なぜ若者は上京するのか

同様に、23区内の大学定員抑制政策も社会現象に対する表面的な対策に過ぎないと思う。若者が東京の大学に進学するには、それなりの理由があるからだ。まず、研究環境の違いがあげられる。2004年に国立大学が独立行政法人化し、国が国立大学への予算を徐々に削っていった。東大などの一部のトップ校に資金が偏る一方で、地方国立大学の研究者は自ら予算獲得に奔走するようになり、その分研究に割く時間が減少した。研究時間の減少は論文数を減少させ、それが国からの予算をさらに減少させ、研究環境の負のスパイラルをもたらしたのである。

次に、大学のブランド価値の問題がある。学歴(正しくは学校歴)が就職活動において大きく関係することから、若者は多少無理をしてでも都心の有名大学へ進学を希望する。もちろん、地方にも面倒見の良い大学(国際教養大学や金沢大学など)はあるが、全体的な傾向としてブランド力のある大学が都心に集中しているのだ。学校歴社会である以上、学生の志向は今後も変わらないと思う。本社機能が23区内に集中する企業も多く、就職活動をしやすいことも都心への人口集中をもたらす一因だろう。

また、地方にも問題があると思う。地方はよく閉鎖的と言われる。地方に在住する人自身も自分たちの(自治体のことを含めて)閉鎖的だと自虐するそうだ。そうした場所で若者が輝ける場があるのかと思う。つまり、商店街の活性化であったり、選挙啓発などを行うために、若者が学生団体を創設したり、街の事業に参画した際、その地域の人たちに若者の意見を尊重する気風があるのかということだ。若者の感性を認めない「閉鎖的な」空気が若者の東京流入に拍車をかけているのではないか。

どちらにも共通するのは根本的な背景を見ずに、表層的な対策をするところ

若者の東京流入にはこうした背景がある。確かに地方大学の衰退は問題だとは思う。しかし、人返しの法のように、社会現象の根本的な背景にメスを入れず、単純に現象自体を禁止しようとしても、抜本的な解決にはならないと思う。ただし、天保の改革が3年ほどで終わり、それに伴い人返しの法も効力を失った一方で、新法案は今後10年間は法的効力を持つ(まだ国会で成立してはいない)。人の流れに対して強制力が働く中で、これから地方大学と地方はどう変化していくのだろうか。

 

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