Shiras Civics

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「人生をどう生きるか」がテーマのブログです。自分を実験台にして、哲学や心理学とかを使って人生戦略をひたすら考えている教師が書いています。ちなみに政経と倫理を教えてます。

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【書評】地方自治の時代へ-村林守『地方自治のしくみがわかる本』

 

修了式が終わりました。教員一年目は終わりましたが、勉強が終わることはありません。積読の消化にまいります。

 

 

今回はこちら。

地方自治のしくみがわかる本 (岩波ジュニア新書)

地方自治のしくみがわかる本 (岩波ジュニア新書)

 

 

岩波ジュニアは高校生向けのシリーズですが、侮るなかれ、大人が読んでも十分読み応えのある内容を備えています。

本書も例にもれず、非常に丁寧に説明がなされており、非常に優れた入門書と言えます。

 

おすすめポイント

1.難しい地方自治の制度が丁寧に説明されている

2.歴史的な変化を踏まえて現代における地方自治の在り方を描いているため、今後の変化の見通しができる

 

地方自治とは地域的な政治システムのことです。ここでの政治システムとは法律など強制力で人々をまとめ上げる仕組みを指します。もっといえば地方自治体による地域統治のことです。

 

筆者の主張は「地方に裁量を!」というもの。つまり地方自治体の権限を増やす地方分権の推進を訴えています。

 

ではなぜ地方の裁量を増やすべきなのか、また地方自治の現状はどうなのか、といった疑問が浮かぶかと思います。

 

地方と中央の関係はどう変化してきたか

 

地方自治体は住民との距離が近いため行政サービスなどに対して住民の声が反映されやすいことが特徴です。ですが、行政サービスの内容は中央政府の意向が長らく反映されてきました。そして、それは社会の動態に連動して変化していったのです。

 

戦後すぐの焼け野原、多くの人々は貧困にあえいでいました。ですから行政サービスの主眼は安定的な食糧供給に置かれました。

 

やがて高度経済成長期になると全国一律での発展が求められます。土建国家と揶揄されることもありますが、金融規制や公共事業をはじめとした政府による産業振興策によって経済成長が図られました。国民全体が豊かになる中で一部の低所得に苦しむ人のために社会保障政策が整備されました。

こうした中で自治体に求められたことは公共事業と社会保障の地方における国の出先機関的な役割でした。そのおかげで全国一律の水準のサービスが提供され、日本全国が格差を縮めていきましたが、地方自治に政策決定の余地はありませんでした。

 

しかし、バブル崩壊後の1990年代に突入すると、経済成長も停滞するようになります。

1990年代は自由化の時代でした。日本版金融ビックバンやコメの関税化など日本が国際経済の荒波に飛び込み、グローバル経済に飲み込まれていきます。

そうなると終身雇用や年功序列の給与体系では日本企業は戦えません。企業は中央政府に働きかけ、これらの制度が崩れていきます。労働規制が緩和され、非正規雇用が増加しました。特に生産性の低い教育や福祉業界では非正規雇用の問題は深刻です。

 

また重化学工業からサービス産業へと中心産業が変化したことで働き手にも変化が起こります。肉体的な労働を中心とする男性が働き手の時代から、頭脳労働が中心となったことで女性にも活躍の道が開かれていきます。

こうした雇用の変化は家族にも変化をもたらしました。共働き世帯が増え、また核家族で、しかも専業主婦が消えたことで地域での支え合いもなくなるようになりました。

 

こうした中で福祉サービス、すなわち保育や高齢者サービスの充実が求められています。

これらの行政サービスは地域によって事情が全く異なります。たとえば、人口が50万人弱の鳥取県と1300万人ほどの東京都では全く異なるでしょう。だからこそ、全国一律のサービスの提供ではなく、地方に裁量を与えることが求められているのです。

 

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地方自治体と中央政府の仕事の変化

 

地方には裁量はないんでしょうか?

否、2000年以降は着々と地方にも権限が委譲されています。

それまでの流れも観てみたいと思います。

 

中央政府が全国一律にサービスを提供できたのはなぜか。

それは機関委任事務というものの存在が背景にありました。

機関委任事務とは本来は国の仕事だけども地方自治体が代わりにやる仕事のこと。

 

全国的に格差を縮小し、経済発展を目指す高度経済成長期には有効に作用しました。しかし、成長が停滞すると地域課題が様々に噴出してきます。地方の権限増加が求められるようになりました。

 

そこで1999年地方分権一括法が制定され、翌2000年に施行されます。

機関委任事務法定受託事務自治事務、国の直接執行事務に分けられ、地方に大きく裁量が任されます。

権限の委譲に伴い、税源の移譲も議論されます。

これまでは国の仕事を自治体がやるということで地方交付税や国庫補助金など財源保障を国が行っていました。

しかし、真に裁量を任せるのならお金もなければならんということで行われたのが三位一体の改革でした。

地方へと税源を移譲するという目的で、国庫補助負担金が4兆円、そして地方交付税5兆削減、そして地方税が3兆円増加することとなりました。簡単に言えば、転職したら基本給は3万円増えましたが、その代わり手当が9万円減った、差し引き6万円のマイナス(6兆円のマイナス)ということです。

 

おわかりのように改革はうまくいかず、むしろ自治体間の格差を拡大させました。中央政府財政再建地方自治体の改革が利用されたのです。

 

つまり、仕事上は裁量は増えたけれども、お金の裏打ちは確保できていない、というのが地方自治体の現状です。

 

おすすめの方

地方自治に興味を持つ大学生/高校生/中学生

大学受験を控える高校生。
ちなみにセンター試験現代社会や政治経済で地方自治は頻出分野です。

社会科/地歴公民科の教員
教材研究の入門書としてぴったりかと思います。ここから発展して西尾勝先生の行政学などに手を出すのもいいかと思います。

 

授業のアイデア

 

次のようなところで使えそうな気がします。

 

中央政府と地方政府の理想的な在り方を問う

(社会のグランドデザインに関する考えを持たせる)

行政委員会の説明

(時の政権に左右されないために執政府(市長・都道府県知事)から独立している)

地方自治体と国の関係における英米型と大陸型のところ

 

まとめ

 

地方創生が叫ばれ、地方を活性化させようという施策が積極的に行われています。

ですが、国が一声号令をかければ全国が地方創生に右向け右をしてしまうのは、未だに国の影響力が強いことを物語っています。

 

今後、地方自治体の役割はどんどん増していくと思われます。

始めの一冊として手に取ってみてはいかがでしょうか。

生徒と向き合うということ-褒めて叱ってぶつかろう-

  

何気ない日常がガラッと変わって見えるような出来事。

そんな原体験は突然訪れます。

 

僕にとっては今日はそんな日だったようです。

 

 

その時、僕は補習の監督をしてました。

寝ている生徒がいて、1度目は注意しましたが、2度目からは放置していました。

 

廊下を通り過ぎる時に、たまたまそれを見た先輩の先生が

 

なんだよ~お前寝ちゃダメだろ~

 

とその生徒に話しかけました。

 

他の生徒にも

 

ちゃんとやってるか~?頑張れよ~

 

と教室を回っていったのです。

 

ニコニコと話しかけ、眠そうだった生徒たちの雰囲気が変わったような気がしました。

 

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補習後、その先生にお礼を告げました。

 

するとこういわれたのです。

 

彼らは相当やばい成績をとってます。だから、進級のために補習を受けてます。でも本来1年間の積み重ねをこの短期間で埋めようというのは無理な話なんです。それでも彼らは毎日朝から学校に来て補習を受けている。彼ら自身もまじめに受けなきゃやばいということはわかっているんですね。

でも、元々がだらしないから、だらけちゃう。だけど、寝ているのを起こせばやばいなと思ってしっかり勉強に向かう。

 

 

社会って叱ってくれる人も褒めてくれる人もあんまりいません。

でも、彼らの姿勢を直さないと社会に出た時、大学に行ったとき、専門に行ったとき、今と社会とのギャップにやられちゃうと思うんです。だから、褒めて、叱って、ちゃんと見てあげることが大事だと思うんですよね。

 

なんとない会話でした。

でも、その先生のその言葉が僕にとってどれだけ響いたか。

 

授業準備は半端なくしてきました。様々な場で授業は褒められてきました。

でも、生徒とのコミュニケーションという授業の基盤たるものは避けてきました。

 

しっかり生徒と向き合おう、そう思える原体験が不意に訪れた瞬間でした。

 

 

ステキな方の下で働けている。

人に恵まれたことに感謝です。

 

やっと100記事!-過去の人気記事は?-

 

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昨日書いた記事でやっと100記事に到達しました。

www.yutorix.com

 

このブログも実は2014年からやっていますから、ブログ歴は4年以上になります。

(整理せずに次々と食材を買ってはぶち込まれた冷蔵庫の中くらい放置していました。本格的に稼働したのは去年頃です)

 

節目ということで、アクセス数の高い人気の記事を振り返ってみたいと思います。

ワクワク…

 

 

第5位 哲学対話を授業でやってみた

 

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第5位の記事は哲学対話の授業に関するもの。

 

哲学対話を実際に授業で実施した様子をレポートした記事です

生徒が予想以上に考えを深め、自分自身も大いに刺激を受けました。

 

新年度で哲学対話を実施しようか迷っている方の参考になればと思います。

 

第4位 なぜ自律的である必要があるのか-教育目標としての自律-

 

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中学校学習指導要領の「道徳」には教育目標として「自律」が掲げられています。

しかし、学習指導要領に書いてあるからという理由だけで受け入れるべきではないと僕は思っています。

自分の中で反芻して血肉にしたものが教育目標たるにふさわしい。

 

そういう視点で自律を考えると、どういう社会を背景にしているのかが見えてきました。

社会的な背景から教育目標の意義を突き詰めていきます。

 

第3位 「普遍的な」人権思想、ヨーロッパで生まれた人権思想

 

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この記事は私の考えをかなり反映しています。

 

普遍的という言葉はフィクションでしかないと思っています。

現代社会において基本的人権や法の支配は普遍的なものとして語られています。

しかし、それらは特殊ヨーロッパ的な条件の中で生起したものです。

たまたまヨーロッパが国際的な覇権を獲得したから人権の概念が広まったに過ぎない。

 

もちろん人権は否定していませんし、重要であることは重々承知しています。

ですが、そもそもの生まれが異なる概念をおいやすやすと受け入れていいのか、とも思うのです。

 

無批判にある概念の「いいとこどり」をしていないか、そういう自己批判の思いも記事に込めています。

 

第2位 歴史を学ぶ意義

 

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歴史の授業を担当して戸惑う毎日でした。

というのは、生徒から聞くのは「何の役に立つの?」という言葉ばかり。

実用性ブーイングの嵐でした。

 

けれども、それに対して納得いく説明ができない。

もどかしく時間は過ぎていきました。

この記事は、夏休みの直前になり、考える時間を十分に手に入れた自分が行き着いた結論です。

 

番外編 お気に入りの記事

 

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8月31日。

新学期を直前にして超絶憂鬱でした。

 

あ~学校やだな~

 

という無気力状態でネットサーフィンをしていたらあるブログの記事を見つけます。

そして、その記事に勇気をもらって…という話です。

 

第1位 貨幣、通貨、資金の違いについて

 

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まさかのこれが一位。

言葉の違いをまとめたこの記事が、意外や意外、最も多くのアクセスを集めていました。

 

考えることは言葉を通して行われます。だからこそ、言葉は定義されてこそ、正確に思考が進んでいきます。

そういう意味でwikipedia的に使われたのかもしれませんね。

 

まとめ

あらためて過去の記事を見てみると、面白いですね。

自分ってこんなこと考えていたのか~、という意味でブログは巨大な備忘録に思えてきます(笑)

 

見苦しい記事もあったかと思います。

文章が下手であったり、デザインが見づらかったりとまだまだ発展途上ですが、今後も書き続けていきたいなあと思います。

次なる目標は300記事です。

 

セーフティーネットがガチャっておかしくない?っていう話

 

 

カルチャーショック

 

僕は今年度から社会人になりました。

初任給という形で給料をいただいています。

 

ですが、正直かつかつです。

大学と大学院の奨学金の返済がはじまり、車のローン、そして月々の生活費が迫ってくる…

残りはほんの僅かになります。

正直、あんまり給料日は楽しみじゃないですね(笑)

 

同僚と話をするとこんな話が出てきます。

 

「車買うときに親に半分だしてもらった」

「親に買ってもらった」

 

こういう時に!!??となります。ええ、カルチャーショックを感じます。

 

我が家はあまり裕福ではなかったこともあり、家訓が放任主義でした。好きなこと・やりたいことがあるなら、最低限の応援はする。けれども、必要を超える分は自分でまかないなさい、というもの。

 

当然、車に関しても「買いたいなら自分の金で買いなさい、その代わり何も干渉はしないから」という放任主義でした。

もちろん、それを当たり前として育ってきた僕としては貯金を切り崩して購入したわけです。

 

ですが、隣の芝は青い。

他の家庭は子供に経済的な支援をしている。彼らは浮いたお金で何か別のことをする。

いいなぁと思う。

 

思えば大学時代もそうでした。

ある程度の偏差値の大学に行ったためか富裕層が多い。社長や大企業の幹部、弁護士の子息などなど…

経済的に恵まれた友人は奨学金などに頼りはしません。家庭で授業料を賄えますから。

こう書いていると恨み節でもあるかのようですが全くそんなことはありません。彼らはとてもいい人ですし、僕も凄くお世話になりました。

ですが、ひしひしと格差を感じていた僕がいたことは事実です。

 

日本全体で格差が広がっている

 

いま、日本の社会では格差が進んでいるといわれています。格差を表す指標として相対的貧困率ジニ係数があります。

 

相対的貧困率とは、所得の中央値の半分未満で暮らす世帯の割合のことです。

 

平成27年度調査によれば、中央値は427万円ですから、213.5万円未満で暮らす人の割合が相対的貧困率にあたります。

https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa15/dl/16.pdf

 

ここに厚生労働省の資料があります。

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図表2-1-18 世帯構造別 相対的貧困率の推移|平成29年版厚生労働白書 -社会保障と経済成長-|厚生労働省

 

青い線が相対的貧困率です。年々上昇しているのがわかります。

 

一方、ジニ係数とは所得がどれくらい均等に分配されているかを表す指標です

1に近いほど格差が大きく、0に近いほど平等に分配されています。

 

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日本のジニ係数推移 1962~2014

当初所得は何もしない状態でのジニ係数で、再分配所得とは政府による再分配(生活保護や手当などの再分配)を行った後の数値です。

当初所得に注目すると格差が年々拡大していることがわかります。

ただ、日本政府の頑張りのおかげで一定程度格差は縮小しています。ですが、格差大国のアメリカが0.38程度ですから再分配後の数値も国際的には高い水準にあります。

 

セーフティネットとしての家族

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再び僕の話に戻ります。

 

僕は今、親元を離れて一人暮らしをしています。

ですが、全てを自分だけで賄えているわけではありません。

 

たとえば、アパートを借りるとき親の力を借りています。

普通、入居する何か月前には家を借りなくてはなりません。すぐ埋まってしまうからです。

修士論文の執筆に追われていた自分はバイトを減らしていましたから、当然数か月分の家賃を払えるわけもありません。

 

親に頭を下げて肩代わりしてもらいました。

 

母は何かしら食料を送ってきてくれます。

 

父は帰省の度にいくらか餞別をくれます。恥ずかしがり屋の父ですから、別れ際に「ほれっ」と渡してくれます。

 

そういう時に家族の大事さ、ありがたさを凄く感じるわけです。

 

「ああ、家族がいなきゃ生きてけないな」と。

 

つまるところ何が言いたいかというと、家族がセーフティーネットとして機能しているということです。

 

生活に困っても、家族が助け舟を出してくれるから生きていける。

 

でも、僕のようなケースも先ほどの統計を見ると恵まれているんだと思うんです。

 

ましてや大学の授業料を出してもらったり、ポンと自動車代を出してくれるような親はかなり余裕のある層だと思うのです。

 

最後の砦がガチャで決まる時代

  

セーフティネットというのは最後の砦です。

誰も頼る人がいなくなって、最後に頼れる人ということです。

 

市場でもなく、政府でもなく、それが家族だと思っています。

 

ですが、この家族ですら所得格差が拡大する時代においては頼りになるか定かではありません。

 

たまたま親の経済状況が許す限りで僕は支援してもらえました。

同僚もそうです。たまたまその家に生まれたから親に補助してもらったわけです。

 

ですが、セーフティネットって偶然に左右されるものでしょうか?

 

家族ってガチャみたいなものだと思ってます。

ガチャを引いたらノーマルかレアが一生決まってしまう。

 

偶然性で生活が、キャリアが、将来が決まってしまう。

 

しかも、初めに引いたガチャの出によってその後もガチャを引けるかどうか決まってしまう。

もはや人生ですら運ゲーですね。

 

誰も頼る人がおらず、不安を抱えて生きている人がいるのです。

 

政府のすること/市場のすること

 

いま日本政府は、政府の仕事を徐々に市場原理に任せています。

 

しかし、市場と政府では対象とする仕事の性質が異なります。

政府は人々が必要とすることを、市場は人々が必要以上に求める欲求に対するものを扱うのが得意です。

たとえば、人々が必要とする水は政府が供給してきました。

一方で、お菓子やお酒などの嗜好品は活きる上では必ずしも必要ではありません。ですから、市場で扱われてきました。

しかし、水道が民営化され、市場原理にさらされることになりました。

 

こういう市場原理の行き着く先が果てしない競争です。

その結果、リストラや倒産などで職を失う人が大量に出ました。

また、市場競争は価格の引き下げを伴いますから、必然的にコストのカットを求められます。そのしわ寄せは人件費に行きますから、そのあおりを食らった人も多くいたと思います。

 

こういう困ったとき、貧困に直面した時、政府機能が縮小している今、政府は有効に動けているんでしょうか。

 

確かに僕は上にあげたような状況ほど困ってはいません。ですが、家族がいなければきっと生活はできなかったでしょう。

消費者金融という道もありましたが、あれはセーフティネットではありません。

 

格差が拡大しているという事実は政府のセーフティネット機能が弱まっているということを意味しています。

 

そしてセーフティネットがない人が日本にどれほどいるのでしょうか。

 

ガチャのように偶然で生活が決まるのではなく、きちんと政府が機能する。やみくもに市場原理に任せるのではなく、必要としている人の声に耳を傾け、適切なサービスを供給する、そんな社会が理想的だと思います。

 

【書評】財政は社会の設計図-神野直彦『財政のしくみがわかる本』

 

ひたすら積読を消化しています。

 

今日紹介する本は、神野直彦先生の書いた『財政のしくみがわかる本』です。


財政のしくみがわかる本 (岩波ジュニア新書)

 

 

おすすめポイント

 

こちらの本、平易な言葉で書かれていますが、内容はとても深いです。

財政が必要になるのはそもそもどういう背景からなのか、意義や理念、そして実態がスラスラ頭に入ってきます。

 

通常、財政は中学校社会科の公民や高校の現代社会、政治・経済などで扱われます。

重要なトピックであるにもかかわらず扱える時間数は限られています。

制度を教えたいけれども、消費税や国債費など時事的なテーマなどで議論もできる。それから社会保障政策も考えさせたい…!

でも結局制度の説明に終始しがちですし、時間も少ないため、要点の説明で終えてしまうこともしばしば。

 

ですが、この本では一つ一つの財政制度の「意味」が説明してあるため、単純な丸暗記を回避し、かつ様々なトピックを網羅しているので幅広く考えることが可能です。

たとえば、直間比率をどうするかが金持ちの負担を大きくするか、貧しい人の負担を大きくするか、という社会観に関わっているということであったり、財政赤字財政破綻は全く性質が異なることであったり、単なるワードに過ぎなかったものが意味を持ち始めます。

 

おすすめの方

 

そういう点で中高生にとてもおすすめしたい一冊です。

特に「一度財政を勉強した」けども、つながりがよくわからない生徒さんには非常に重宝するんではないかと思います。

財政分野は受験でも頻出です。特に私大の上位や国公立の二次試験を受けるのなら論述問題も出ますから深い理解が必要です。受験期ではなく、高2までに読んでおくといいのかなと思います。

 

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また社会科・公民科の先生にもおすすめです。

こちらの本には授業で使える問いであったり、説明の際に使える例が豊富にあります。

たとえば、借金は悪いことなのか?という発問。

僕たちは借金は悪いことだと考えています。しかし、それは僕らが家計として経済活動をしているから。家計は消費こそすれども生産をしません。ですから、収入の中でやりくりしないといけませんから、それを越えて消費するのはダメなんですね。一方で企業は借金しても大丈夫。なぜなら生産して収入を大きくすれば、そこから返済できるから。では、政府の借金はどうなのか…

本書を読めば、経済の3主体と財政がきっちりと関連をもって理解できるはずです。

また、本書の随所に出てくる財政を考えることは理想の社会を考えることという箇所は、授業でも使える題材だと思います。

 

経済学に興味がある方・財政に興味がある方・国の仕事に興味のある方にもおすすめです。

 

人によっては?かも

出版が2008年と10年以上前ですが、原理原則を知るには最適かと思います。

あとこの本は筆者の主張・思想が出ています。時々政府を批判したりするので、ある程度財政を勉強した方が読むにはちょうどいいかと思います。

ただ私個人は神野直彦さんの主張には賛同しますし、原理原則から批判しているのでまっとうな本だと思います。

 

まとめ

財政とは国民の共同の財布です。

僕らは税金を納め、それを政府は公共サービスなどを通して国民に配っています。

ですから、財政を考えることは社会の在り方を考えることなのです。

それに関してこの本が示唆するところはとても多いので、また別の記事で紹介したいと思います。

 

それにしても岩波ジュニア新書は中高生向けとはいえ、大人が読んでも物凄く勉強になります。

ああ、積読を減らさねば…(あと100冊くらい)

【書評】戦後の歴史をコンパクトに-中村政則『戦後史』

 

積読の消化期間に入っています。

 

統治機構を勉強するなら日本の現代史はもう一度おさらいしよう!ということでこちらの本を手に取りました。

 


戦後史 (岩波新書 新赤版 (955))

 

出版は2005年。およそ15年のロスは最近ブームの「平成史」関連の書籍を手に取っていただければと思います。

 

 

おすすめポイント

 

若干古いとは言えども、サクッと戦後の歴史を俯瞰するにはうってつけの本です。

本書の特徴は2つ。「貫戦史」「1960年体制」を基軸に据えているところです。

貫戦史とは、戦争がその後の社会にどのような影響を与えたか、戦前との連続性に重点を置いて著述することです。戦争のインパクトがいかに大きいかがわかります。

また筆者は一般的な1955年体制ではなく、1960年体制を用いています(あるいは経済的には1940年体制が一般的です)。その理由は1960年代に戦後日本の基本的枠組みが形作られたからです。

 

著述の方法としては、日本の戦後史を政治・経済・社会・文化に分け、その時の筆者の記憶を交えながら書き進めていきます。

歴史上の事象に立ち会った人間にしか書けないであろうリアルな感覚が読んでいくうちに伝わってきます。

 

おすすめの方

 

これから戦後史を勉強しようと思っている方

政治や経済を勉強したけども、それらが日本の現代史でどのように動いてきたかを知りたい方

手っ取り早く戦後の歴史を知りたい方

 

※筆者は左寄りな思想で、かつ記憶史という方法によりリアルさのある文章が書かれています。

勉強を目的とするのであれば、ある程度思想の方向性を理解した上で、それを相対化しつつ読み進めることをお勧めします。

 

ざっくり内容

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戦後のイメージは何でしょうか?

筆者は反戦・平和・民主主義・貧困からの脱出としています。

 

そして筆者は戦後を4つの時期に区分します。

第1期が1945年から1960年

第2期が1960年から1973年

第3期が1973年から1990年

第4期が1990年から現在(2005年)

 

第1期は講和問題と日米安保で日本が揺れに揺れました。

日本は国際社会の動向に大きく左右されてきました。

アメリカに占領された当初は非軍事化と民主化が主眼に置かれていましたが、朝鮮戦争の勃発と中華人民共和国の成立により対日政策が180度転換します。

当時ヨーロッパでは冷戦構造がほぼ確立していました。

冷戦下において日本の地政学的重要性を鑑み、アメリカは再軍備と経済復興に注力します。

そうした中で日本を自由主義陣営に引き入れるため、アメリカは講和の準備を進めていきます。

そして朝鮮戦争のさなかである1951年、サンフランシスコ平和条約が締結されました。同時に日米安保条約も締結されます。

約10年後、岸信介首相が日米安保条約の改定を行いました。激しい安保闘争が繰り広げられ、また三池炭鉱での激しい労働闘争も行われていました。

筆者は1950年代を政治闘争の時期としています。

 

個人的に面白かったのは憲法第1条と9条、そして沖縄との関係です。

憲法1条で象徴天皇制が取られたのは、天皇の戦争責任を問う諸国に対する配慮であり、また再び天皇大元帥として再軍備を行わないように、憲法9条で武力放棄が定められました。

そして不戦を高らかに掲げ独立する一方で、沖縄はアメリカの委任統治領とされ、米軍基地がずっと置かれています。

本土の平和主義と象徴天皇制は沖縄の軍事的な犠牲の下にあったのです。

 

第2の時期に戦後日本の基本的な枠組みが決まっていきました。

たとえば、GATTIMFなどへの加盟がそれを象徴しています。

池田隼人首相は戦後の日本は開放経済の中で、つまり諸外国との競争の中で経済発展をしていかなければならないと説きました。

でも、世界銀行からの借款で新幹線や高速道路が作れらたり、先進国からの技術供与があったことは間違いなく高度経済成長を促進する要因となりました。設備投資の近代化が進み、重化学工業が進んでいきました。

また政治的にはベトナム戦争沖縄返還日中国交正常化などがありました。

ベトナム戦争では日本だけでなく韓国にもアメリカは協力を求めます。当時の韓国経済はボロボロで、大量の失業者がいました。戦後の日本は未だに講和条約を結んでいなかったのですが、ベトナム戦争をきっかけに急速に交渉が進みました。結果、1965年に日韓基本条約が結ばれ、賠償金ではなく経済協力の名目で韓国にお金が支払われました。

ちなみに日韓基本条約を締結した佐藤栄作首相のねらいは、アメリカに貸しを作ることで沖縄返還交渉を有利に進めることでした。頭いいですね。

時の米大統領ニクソンは中国を訪問します。これは中ソにくびきを打つと同時に、沖縄返還を遂げた日本が台頭しないようにアメリカに接近する中国の意図もありました。

こうして次の田中首相は中国との国交正常化を政治課題とするのです。1972年に日中共同声明、1978年には日中平和友好条約が結ばれました。

また田中角栄と言えば列島改造計画です。この計画で日本中で投機ブームが起き、地価が高騰します。そこにオイルショックが起きたわけですから、インフレが加速します。教科書に書いてあるオイルショックによるインフレは前段階としての列島改造計画による投機ブームが裏にあったのですね。

※高度経済成長期以前は主婦も重要な労働力であり、高度経済成長期に家族を養えるほどの所得を夫が得るようになったことで専業主婦という家族形態が現れたという箇所は面白かったです。というかそんなに所得もらってたのか。すごい。

 

第3期はオイルショックからソ連の崩壊(1991年ですが)までです。

オイルショックを機に、企業の減量経営がはじまります。また政治的にはサミットが開催され、ここで日本は金持ちクラブの仲間入りを果たしました。つまり、戦後のイメージの一つである「貧困からの脱出」を果たしたのです。

1985年のプラザ合意と翌年の前川レポートによりバブル経済に突入し、日本経済は絶頂期を迎えていきます。バブル経済の説明は詳しかったですね。

ですが、バブルは崩壊し、冷戦も終結します。ここに昭和天皇崩御が重なり、一つの時代が終わったと筆者は言います。

 

第4期はポスト冷戦の時代です。

湾岸戦争は日本の安全保障政策を大きく変えました。

金だけ出すのか、という国際社会からの批判に日本はPKO協力法を制定して遂に自衛隊を海外に派遣できるようにします。

その後、9・11直後に小泉首相は、クウェートに感謝されなかった日本の赤っ恥を繰り返さない、湾岸戦争の轍を踏まないということで、テロ対策特別措置法を制定し、後方支援を可能としました。

こうした対米従属を筆者は強く批判します。

 

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筆者は言及していませんが、個人的には小泉首相あたりの規制緩和をはじめとした新自由主義的改革は第5の岐路なのではないかと思っています。

郵政民営化規制緩和など市場の影響力を強めることで経済の活性化を図ろうということですが、所得の中央値が下がり、生活保護世帯が増加し、格差が大きく拡大している状況を見ると日本社会は大きく変わったのではないかと思うのです。

本文中に引用されていた山田昌弘氏の「希望格差社会」という言葉が胸に刺さりました。

 

甲乙つけがたい

 

60年の歴史をおよそ280頁にまとめているので、さっと読める一方で薄いところは本当に薄いです。

たとえば、高度経済成長やバブル経済の要因について詳しく述べられている一方で、金融ビックバンや小泉首相構造改革についてはサラッと書かれている程度です。

ただ貫戦史を叙述方法として採用しているだけあって、戦争に関してはそれなりに詳しく書かれています。もちろん、戦争の経緯ではなく戦争の影響についてですが。

また、参考文献が随所に書かれていますので発展的に勉強することも可能です。

 

まとめ

 

やはり歴史は面白いですね。

私自身の信条としては、「今の社会を相対化すること」に歴史の意義があると考えています。

特に近現代史は現在の社会の枠組み・仕組みが多く作られた時代ですから、多くの人に学んでほしいところです。

 

「へ~そうだったのか!」となる、

まさに今の日本を相対化するきっかけになる一冊です。

  

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二次試験で公民系科目を利用できる国公立大学

 

※2020年8月21日に再更新しました。一橋大学が倫政を廃止します。

 

国公立大学の二次試験で公民系科目が受験科目となっている大学は非常に少ないです。

地理歴史はほとんどの大学で受験可能ですが、公民科は本当に少ない。受験生にとっても教員にとっても悩みどころですよね。

なかなかまとまったサイトもなく困っている方も多いと思うので、まとめてみたいと思います。

 

 

一橋大学-倫理・政治経済 ※2022年度から廃止

※2022年度入試から倫理、政治・経済が入試科目として廃止されます。

 

商・経済・法・社会学で倫理・政治経済が選択できます。

指定字数以内での論述問題が課され、内容としては定義の説明や事象の背景などの説明が聞かれます。

殆どの問題は教科書のレベルを超えているので、対策はかなり大変かと思います。

 

東京学芸大学-倫理、現代社会、政治経済

東京学芸大学は公民系科目すべてを選択できます。

ただし教育学部のA類 初等教育教員養成課程〈社会専修〉か〈環境教育〉、B類 中等教育教員養成課程〈社会専攻〉を受ける場合に限られます。

 

信州大学-倫理、現代社会、政治経済

信州大学でも公民系科目すべてを選択できます。

ただし、教育学部の社会科教育コースのみ受験科目として設置されています。

 

埼玉大学-政治経済

埼玉大学でも公民系科目だけではないですが、政治経済を受験科目にできる学部があります。

それが教育学部・学校教育教員養成課程・中学校コース・社会です。

ただ政治経済独自ではなく、総合問題という形で出題されます。

※総合問題は日本史、世界史、地理、政治経済から2つを選択して解答

 

高崎経済大学-政治経済

経済学部・地域政策学部(前期)で受験可能です。

傾向としては空欄補充や用語の説明がほぼ毎年出題されています。私大(早稲田)に似ていると思いますが、やはり書く力が求められているんでしょうか。

 

筑波大学-倫理

人文学類、比較文化学類、教育学類、心理学類、知識情報・図書館学

のいずれかで倫理での受験ができます。

傾向としては、時代を越えた思想家の比較や自由に論じるタイプの問題などかなりハイレベルですね。教材研究する上でも勉強になります。

 

まとめ

社会科教員を養成する学部では入試問題に全ての公民系科目が課されているところもありますが、それでも少ないですね。

将来の目標が決まっている人行きたい大学・学部が決まっている人には公民系科目の選択は一つの手ですが、まだ決まっていないのならより多くの大学を受験できる地理歴史の選択がいいのではないでしょうか。

 

【書評】日本のルール=行政を知ろう-新藤宗幸『行政って何だろう』

 

水道事業の民営化が決まりました。

政府部門の民営化はイギリスが先行していますが、かの地では格差が拡大したことで社会的排除が問題となっています。

日本でも、特に2000年代から新自由主義的改革が進み、政府規制が緩和されていきました。行政の仕事がどんどん市場に任され、政府の規模が小さくなっていく。果たしてそれは何をもたらすのか。

そうした行政の問題を知るのにうってつけの本がこちらです。

 


行政ってなんだろう (岩波ジュニア新書)

岩波ジュニア新書は中高生向けの本ですが、タイトルからは想像できないほど厚みのある内容です。

私たちの日常生活のあらゆる部分に行政活動は関わっています。この本は、日本の政治のルールブックともいえるかもしれません。

 

  

おすすめポイント

行政に関するスペシャリストの筆致は重厚ですが、一方で非常に分かりやすい言葉で書かれています。

日本の行政がいかに官僚の影響力が大きいか、そして国民の声を反映するためにはどうなるべきか、それを筆者は丁寧に伝えてくれています。

 

おすすめの方

教材研究で行政の仕組みをさっと知りたい方

行政の仕組みが複雑でよくわからないけど、関心がある方

高校生で行政学政治学を将来勉強しようと思っている方/公務員試験で行政学が試験科目で出題される方

 

ざっくり内容

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日本では行政の影響力が非常に大きいです。

憲法65条によれば、行政権は内閣に属します。内閣は議会の統制を受ける、つまり法的な根拠を基にして行政の権限や組織が規定されるわけです。

しかし、実際は公務員の裁量は非常に大きく、法律だけでなく、政令や省令、内規、そして現場の公務員の裁量(判断)など民主的な統制を免れてしまうわけです。

 

戦後、GHQの占領を経ても戦前から行政の影響力は温存されてきました。

戦前は公務員は「天皇のための官吏」でした。しかし、戦後は「国民のため」の組織に生まれ変わり、議会の統制を受けるようになります。また、戦前は中央省庁の出先機関に過ぎなかった地方も「地方自治体」として地方自治の主体になりました。

ですが実態は依然として戦前のような強い中央政府の影響力が保持されていました。それが最も現れていたのが中央と地方の関係です。

2000年に施行された地方分権一括法で、機関委任事務が廃止され、法定受託事務自治事務、国の直接執行事務の3つに再編されました。機関委任事務とは、中央政府の業務を地方自治体が代わりに行うというもので、高度成長に伴って増加の一途をたどっていきました。たとえばパスポートの発行は外務省の管轄ですが、実際の業務は各都道府県が担っており、地方自治体は戦後においても出先機関とされたのです。

これが廃止され、法定受託事務になりました。以前のように省庁の通告・通達にただ従うだけではなくなったのです。そうなれば、その解釈が中央と地方で分かれますから、紛争が起こりえます。そのためにできたのが国地方係争処理委員会でした。国と沖縄県が国地方係争処理委員会で対立を繰り広げる現在において非常に示唆的に思えました。

 

こうした改革が進められている中で、特に小泉内閣以降進んでいるのが新自由主義的な改革、小さな政府への回帰です。

成長部門と衰退部門を分け、成長部門にお金が流れるような仕組みを作りました。ただ、格差が拡大する中で果たしてその改革の流れは正しいのか、と著者は疑問を呈します。

そして、大事なことは政府の業務をいたずらに減らすのではなく、公正なルールの下に行政を置くことだと言います。

民主的統制を受け、国民の声を反映する行政にすることが大事だ、そう筆者は言うのです。

 

こうした内容に加えて、行政の概念や行政と国家の関係の変遷、行政の権限などを具体的な事例を交えて書いています。

 

少し古いのは残念

新版ですが、2008年に書かれているので、10年以上の情報のギャップがあります。そこは別の本で埋めるといいかと思います。

 

まとめ

行政は日常生活と密接にかかわっています。その仕組みを知ることは、我々の生活を改善するはじめの一歩だと思います。その歩みを助けてくれるこの本を強くお勧めしたいと思います。

最後に筆者の言葉で締めくくりたいと思います。

行政の活動は複雑な制度に支えられており、また、法律や政令、予算といった読み解くことが容易でない数々の規範を駆使しながらおこなわれています。それだけに、行政を理解することはむずかしいといわれるのですが、読者のみなさんが行政の意味を考え、それをコントロールすることに、この本が役立つならば幸いです。(230頁)

  

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地方で教員になるということ

 

今、僕は地方に暮らしています。

 

学生までは東京に暮らしていました。違う環境で1年を過ごすと、色々と見えてくるものがあります。これから地方に暮らす先生の方もいるかもしれません。

地方で働いて思ったことをつらつらと書いてみようと思うので参考になれば幸いです。

 

どれくらい地方か?

東京まで電車で1時間半くらいのところに住んでいます。

 

地方の良いところ

満員電車がない

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東京に暮らしている時は通学がおっくうでした。というのも、満員電車だからです。特に朝の中央線や地下鉄はしんどかった…。

国土交通省によれば、7~9時の間の中央線の乗車率は184%、東西線に至っては199%です。東京への人口集中が進んでいますから、今後も増加していくと思います。

 

その点、地方だとガラガラ。ストレスフリーで通勤できるのは良かったです。

www.mlit.go.jp

 

生活コストが比較的安い

都心の家賃は高いですよね。

僕の住んでいる地域であれば、都心の家賃に満たずに2LDKを余裕で借りられます。その代わり、周りにコンビニすらなかったりする場合もありますが…

ただ、チェーン店が多いので食料品とかの価格は都心と変わらないと思います。むしろ競争が緩やかだから激安スーパーなんかはないですね。

 

人が暖かい

店員の方が気軽に話しかけてきます。

暖かくなりましたね~とかなんでもない話題です。

東京だとダルそうな学生バイトがダルそうに対応することが当たり前だったので、ある意味新鮮でした。

 

地方の「ここどうにかならん?」ってところ

「あれ、もう良いところ終わり?」というツッコミが入りそうですが、終わりです。

ありません。終わりです。

 

文化資本が東京よりも圧倒的に少ない

小さな本屋や街の図書館はありますが、大規模な図書館や大型書店、また大型の文房具屋は近くにありません。

休日などに都心に行くか、県庁所在地に行くしかないわけです。

仕事帰りにふら~と本屋に寄るのは物理的に不可能です。

 

で、それが不満なわけはこちら。

 

面白い本との出会いは不意にやってきます。アマゾンは目的があれば最高の書店ですが、リアルな書店は未知の本との出会いの場だと思っています。ふらふら目的もなく寄って、良い本に出会うことで知的にアップデートできる。そんな機会を日常的に作るためにも大型書店が近くに帰り道にあるといいなあと思う次第です。

 

研修の機会が少ない

自主的に勉強会や研究会などに月に2,3回は行くようにしています。

魅力的な内容の勉強会を見つけると次のように書かれている時が結構あります。

 

開催地:東京 平日開催

 

へ゛い゛し゛つ゛う゛う゛う゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛!!!!

 

こんな時は心の中のニャンちゅうが泣き叫びます。行きたいけど行けない、そういうことが何度となくありました。

自分はやる気で動いているタイプです。けれども感情は保存できないらしく、定期的にやる気を出す機会を作るようにしています。

ですので、スキルアップの機会が都心に偏在しているのはなかなか辛いです。

 

プライベートがない

地方の私学は地域密着型が多いのかなと思います。

僕は学校の近くに住んでいるんですが、近隣の市町村から通っている生徒が大半です。

ですから、ご飯を食べようにも買い物をしようにも高確率で生徒に出くわします。

昨日もスーパーに行ったら会いました(笑)

 

採点しがたい地方の特徴

車社会

地方は車がないと生きていけません。買い物も通勤も全て車があればこそ充実します。

車での通勤が一般的です。この点は学校も同じです。

通勤のストレスがないですね。大体の車内はカラオケボックスですし。

一番びっくりしたのは居酒屋に車で行く人がいるということでした。

 

私立と公立の位置づけ

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東京には220以上の私学があり、名門私立も多く存在しています。

けれども地方の場合、公立高校が一番で私学は仕方なく行くという場合も多く、軽くカルチャーショックでした。

私立と公立の位置づけは地域によって異なるみたいなので比較は面白いですね。

地域密着という学校が多いのかな~と思いました。

 

まとめ

教員として地方で暮らす、というより東京出身者が地方で暮らしてみたら、という感じのレポートになっちゃいました。

最低限暮らしには困りませんが、やっぱりカルチャーショックは大きいですね。

これから地方で教員になる方がいれば参考になればと思います。

【書評】公民を教える先生におすすめ-牧野淳子『投票に行きたくなる国会の話』

 

公民を担当される先生、この本すごいおすすめです。

社会をより良くするためにどうすればよいのか、具体的な政治参加の在り方が書かれています。新科目「公共」で強調されている「政治参加の手法や原理」、特に国会への働きかけの方法について「そんな方法があったのか!」と視野が広がりました。

 

 

 投票に行きたくなる国会の話

 

 

本書の内容

日本は国民主権の国です。ですから、原理的には統治機構は国民全体の意見を反映するためのものです。でも、実態はどうかを見ると、まあひどいわけです。国民全体ではなく一部の人にいいように制度が「つくられている」か。そして、いかに一部の人の意見「だけ」を吸収する仕組みを作っているか。

 

なんだか王制のような仕組みですが、そもそも権力の暴走を防ぐために、日本国憲法では三権分立が制度化されています。

まず国会は政治を行うところ。次に、行政府は立法を実行するところ。そして、裁判所は立法・行政へのチェックをする。なぜ三権分立が取られているかというと、人間が時には間違いを犯し、暴走するから。つまり、プレコミットメントの発想です。

そして、三権だけではなく、国民も同様の監視を求められるのです。憲法12条に書かれている「不断の努力」がまさにそれなのです。

その手段にはデモや議員への働きかけなどがあります。本書で強調されているのは、いかに日本の制度が非民主的であろうとも、あきらめてはいけない。よりよくしていこう、より国民の声を反映していこうと行動することが大切であるということです。

 

国会のしくみ

国会は政治を行うところであり、政治とは結論を出すために意見調整を行うこと。民主主義国家だからこそ、全国民の意見が調整されなければなりません。しかし、現状は省庁や業界など一部の人の利益が優先されてしまいます。

そのわけは立法の仕組みにあります。

法案には2種類あります。まず内閣提出法案、そして議員提出法案。

日本では内閣提出法案の成立率がものすごく高いです。さらに法案の審議は出した順ではなく与野党で合意ができたものから。ですから、たいていの議員提出法案は時間切れで廃案となってしまいます。しかも、国会で審議される段階でもう与党では法案への了承が済んでいますから、どうしても成立させたい法案の場合は野党の反対を押し切って強行採決に臨みます。

そもそも内閣提出法案の起草は官僚によるものです。で、官僚での合意形成がなされた後に、内閣法制局という法律のプロである官僚が憲法に違反していないかなどをチェックします。そして与党への説明がなされ、党が了承すれば閣議にかけられ国会に提出されれます。この時点で何段階ものチェックを受けており、もし問題点が見つかっても、国会で修正されることは滅多にありません。

与党議員は賛成のために一票にすぎず、修正はもちろん否決もされないことが多いために国会では居眠りが多い。つまり、もうかなりの程度でチェックを受けているため、国会でその法案をチェックする余地が与党にはないし、そもそも閣議にかける前に与党がOKサインを出しているから、党議拘束で動く与党議員がそれをチェックするはずもないわけなんですね。

 

予算も同じ

こうした非民主性は予算も同様です。

税制や予算編成については各業界団体の意向を受けて官僚が起草します。こういう予算を作ります~と言って、それに従わない自治体には予算配分を恣意的に減らすなど、非公正な予算配分が行われたこともありました。

ちなみに国会の仕事は3つあります。1つが立法、2つ目が予算の審議、3つ目が行政の監視です。予算の審議はほとんど行われていませんし(メディアで放送する予算審議会くらい)、行政へのチェックも甘いです。

 

 

行政のチェック

行政をチェックするのが国会の仕事です。ただ、身内に甘いのは人の性です。ですから外部である国民が監視する必要があるんですが、その仕組みが十分になかったのが日本の行政制度でした。

たとえば、行政手続法。これは行政の仕組みの透明性を確保するための法律でしたが、成立したのは1993年。しかし、成立しても意見を反映する仕組みがない形式的な法律でした。それが2005年の法改正でやっとパブリックコメントが導入されます。ただ、実際の運用面は「しかたがないからやっている」だけになっている自治体が多いようです。

 

また、公文書(行政文書)についても日本の民主主義の未熟さを示唆しています。

 

原則として情報公開法は公文書管理法とセットで意味を持ちます

なぜなら、情報公開をしても、公開をする公文書がなければ何も見ることができないからです。

日本の場合、情報公開法にだいぶ遅れて2009年に公文書管理法が制定されました。けれども、官僚が抵抗したため、公文書の範囲が狭いことが問題となっています。行政を縛るためには国民の意見を反映するルール作りをしなければならない、そのための立法の役割の大きさを感じずにはいられません。

 

 

大事なことは国会の監視機能を生かすには国会議員を使って民意を反映させる事です。

その手段として、行政に問題を提起し、認識させるために一般質問やヒアリング、請願(憲法86条)があります。

 

裁判所

裁判所は立法・行政の暴走をチェックする機能を持っています。

しかし、行政に対するチェックは甘く、たとえば公共事業において計画段階での是非を問う裁判は起こせません。

また、国会にもチェックが甘く、違憲立法審査権はほとんど講師されません。日本の場合、具体的な事件に際して違憲審査権が行使される付随的違憲審査制が取られていますが、それが1952年の判例から定着していくわけでございます。

 

おすすめポイント

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社会をより良くしたい、という思いを現実化するにはなんだかんだ行動することが大切です。

けれども、いざ行動するとなると、「どうすればいいの?」となってしまう。だから、本書はそういう思いにこたえて、政治参加の方法が書かれています。

政治は複雑でよくわからないことが多いです。でも本書では統治の原理に即して「本来の姿」と「現実の悲惨さ」、そして「どうして現実はそうなってしまうか」という背景を描いているため、冷静にどこをどう変えていけばよいのか具体的な課題が見えてきます。

 

やさしい言葉で

本書は極めて平易な言葉で書かれているため、中高生にも理解しやすい内容です。

これを足掛かりにして別の本へと進むのもありかと思います。

 

本を取ろうと思った動機

授業をしていて統治機構に苦手意識を感じていました。仕事柄過去問を解いていて問題を間違えた時に、「よし!統治機構の本を読みまくろう!」と思い、まず手に取りました。

この分野は制度なので単純な知識の羅列に感じてしまう。けれども、実は制度の背後にはその正統性たる原理があって、それを実体化すれば制度になるんだと、そして原理と運用(実態)にどれほど乖離があるのかと、そういうことが本書を読んで見えてきました。

 

ぜひ手に取って

公民を担当される先生はもちろん、中高生にも読んでほしい本です。

選挙の有効性が疑問視されても、結局社会をより良くするには立法の役割が大きいです。

問題が何かを知り、どうすれば改善できるか、それを知るはじめの一歩として本書はうってつけだと思います。

 

最後に本書の終わりに書かれた言葉で締めくくりたいと思います。

一票を投じたら終わりではありません。おかしなことが起きているなと思ったら、なぜかと問い、正しく知って、議員やメディアや、少なくとも周りにいる人たちに伝えることで、その不完全な一票は充実し始めます。

少しずつ、国会や行政や裁判所の使い方がわかっている一部の人だけが利益を得る社会から遠ざかり、「みんな」のための社会に近づくのです。政治はあなたが過ごす毎日の積み重ねです。(207頁より)