Shiras Civics

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「人生をどう生きるか」がテーマのブログです。自分を実験台にして、哲学や心理学とかを使って人生戦略をひたすら考えている教師が書いています。ちなみに政経と倫理を教えてます。

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【大人のための政治経済】GDPマイナス成長!アメリカ経済減速が日本経済にもたらす影響

 

 

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アメリカの四半期GDPが発表されました。

結果は前の3ヶ月に比べて32.9%のマイナスでした。

非常に厳しいところです。

 

項目別に見ると、GDPのおよそ7割を占める個人消費はマイナス34.6%、企業の設備投資はマイナス27%、それに輸出はマイナス64.1%と、軒並み大幅な悪化となりました。

 

この記事を読めば、リンク先のニュースを理解できるようになります!

 

www3.nhk.or.jp

 

 

GDPとは?

GDPというのは、国内総生産(Gross Domestic Product)のこと。

簡単に言えば、一国の経済全体をある期間で区切って、どれくらい新しいモノやサービスが生産されているのかを表わす指標です。

通常は、一年間に生産された付加価値の合計と表現されます。

その国の経済規模を示していて、国際比較を可能にするためにドルや円などの通貨で表わされます。

 

経済学では、主に3つのキャラクターしか出てきません。家計企業政府です。

GDPはこの3つの経済主体の経済活動と、海外との貿易で構成されています。

家計がお買い物などで消費した額企業がモノやサービスを生産したり、設備投資につぎ込んだ額政府が公共事業などで使った額、そして輸出から輸入を引いた分(これを純輸出といいます)から成り立っています。

  

国によって、家計の消費額が大きいのか、企業の設備投資額が大きいのか、政府の財政支出が大きいのか、それとも貿易額が大きいのかは異なります。

 

アメリカ経済の場合は家計支出が大きいです。

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アメリカの実質経済成長率」(内閣府「世界経済の潮流」令和2年2月より)

内閣府の資料で赤く塗られた部分が家計消費を示しています。

めっちゃでかい。

では、今回のGDP減速で、どの部分が減ったのか。

 

項目別に見ると、GDPのおよそ7割を占める個人消費はマイナス34.6%、企業の設備投資はマイナス27%、それに輸出はマイナス64.1%と、軒並み大幅な悪化となりました。

 

さきほどのニュースを見ると、

家計消費が約3割5分の減少、企業の設備投資が約3割減少、輸出が約6割5分の減少とかなり大きな損失です。

コロナウイルスに伴う外出制限や移動制限、また労働者が出社できませんから工場は稼働停止状態です。時期的には米中貿易摩擦も関係しているのでしょうか。

 

コロナウイルス感染症の影響が広範囲に及んだということですね。

 

ただ、GDP全体的な増減を表わしているにすぎません

米国経済全体としては生産が減少しているわけですが、今回のコロナ禍で需要を増やした業界もあります。たとえば、マスクやワクチン、ズームやチームスなどのビデオ会議ソフトなどです。

 

日本への影響

 

はっは~、アメリカ経済が停滞しても、日本には関係ないでしょ?

 

いや、わりと関係あります。

 

日本とアメリカ経済の結びつきは意外と強いです。

2019年の日本の対米輸出額は約8.5兆円。一方で、アメリカからの輸入額は約6.7兆円

輸出品目は下記の通りです。

 

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自動車などの消費財半導体等製造装置などの設備投資用機器が並んでおり、これら主要品目は輸出が減少しました。

 

日本企業の輸出停滞は生産の停滞を意味します。それは失業率の上昇や賃金カットなどで家計へ影響を及ぼします。家計が支出を減らせば、さらに企業業績が低下し、政府が経済対策や社会保障など財政出動する必要が出てきますが、莫大な財政赤字を抱える日本では反論も根強いです。

 

また、日本経済とアメリカ経済の結びつきは貿易だけではありません。近年、日本企業がアメリカに積極的に進出していました。

 

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https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000240495.pdfより

 

トヨタなどの自動車メーカーなどが現地生産をすることでアメリカの雇用を一部支えていましたが、自動車販売台数の低下や工場の稼働停止などによって、日本のグローバル企業が経営戦略を転換していく必要に迫られるかもしれません。

 

新型コロナ:日本車4社の米新車販売、5月21%減 下げ幅縮小 (写真=ロイター) :日本経済新聞

 

元々日米貿易摩擦から日本法人の現地生産は始まったのですが、多くの企業が撤退することとなれば、日米間の関係は間違いなく悪化するでしょうし、それが在日米軍の基地負担や貿易交渉における圧力をもたらすかもしれません(コメや牛肉は元々輸入制限をしていましたがアメリカの圧力で輸入の自由化が始まりました)。

 

まとめ

  • GDPとは、その国が一年間にどれくらい新しいモノやサービスを生産したかを表わす指標

  • アメリカ経済と日本経済はは貿易面・日本法人の現地生産の面で結びつきが強いので、アメリカ人がモノを買ってくれなくなれば、日本企業の業績が悪化する

  • GDPは全体的な需要を表わしているに過ぎない。コロナ禍で全体的な需要は減少しているモノの、在宅勤務や衛生管理などに関する商品は需要を増している

 

それでは!

 

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【保護者のニーズを可視化】小学生1年生の就きたい職業と親の就かせたい職業のギャップがおもしろい

 

ランドセル素材メーカーのクラレが、ランドセルを購入した親子を対象に「子どもが将来就きたい職業、親が将来就かせたい職業」に関するアンケートをしています。

 年ごとにまとめてみると結構面白いので、まとめてみました。 

 

www.kuraray.co.jp

 

 

ざっくり概要

 

2020年の全体的なアンケート結果です。

 

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子どもたちの就きたい職業の傾向として、身近にいるキラキラした人たち、頼りがいのあるかっこいい人たち、という感じです。

こういうのを見ると、6歳の段階で子どもたちの環境が想像できますね。極めて限られた環境でも、子どもたちは周りの大人(ロールモデル)に影響を受けているみたいです。

教員もぎりぎりランクインしてる!

 

一方で、大人たちは保守的なようです。

就かせたい職業のベスト3に男女とも公務員がランクインするあたり、不況の影響を受けずに安定した生活を送ってほしいという親の切なる願いが感じられます。

25歳から35歳で長子を授かったと仮定した場合、このアンケート対象者は31歳から41歳という年齢差がありますが、共通しているのは低成長ないしは不況の影響を強く受けているということです。

1991年のバブル崩壊以降、日本経済は長期間停滞していました。その後2000年代にようやく経済が回復していきますが、企業主導の経済成長で家計はあまり経済成長の恩恵を受けませんでした。そうした不況の時代をまざまざと見てきた世代であれば、安定志向が全面にくるのも納得でしょう。

ちなみに今後の社会は、高齢者がますます増加し、医療業界の人材需要はますます高まるといわれていますから、公務員に加えて医者や看護師・薬剤師がランクインするのも安定志向の表れといえるでしょう。

 

男女別のランキング

男子

まず男の子の就きたい職業トップ20です。

夢がある!まだピュアな感じがする!

(6歳の時点で教員を選んだ君はステキだぞ!先生は待ってます!)

 

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【年代別】男の子が将来就きたい職業トップ20

 

次に男の親の就かせたい職業トップ10です。

ただただ堅実です。約数十年の人生経験の差が現れているような気がします。

 

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【年代別】男の子の親の就かせたい職業トップ10

 

女子

 

こちらが女の子が将来就きたい職業トップ20です。

ケーキ屋・パン屋は、20年間変わらず4人に1人の女の子が夢見ています。

ケーキ屋・パン屋にはいったい何があるんだろうか…

10年前から芸能人も人気ですね。

 

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【年代別】女の子が就きたい職業トップ20

 

一方で、女の子の親が就かせたい職業トップ10です。

看護師や公務員がランクインするあたり、男子同様手堅く生きてほしいようです。

 

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【年代別】女の子の親が就かせたい職業トップ10

まとめ

 

以上、小学生の就きたい職業と親の就かせたい職業ランキングでした。

小学生の段階で将来の職業を現実的に考えるというのは難しいですが、やはり自分が本心からなりたいものを夢見るというのはステキな経験だと思います。

段々と社会の在り方を知って、自分の夢と折り合いをつけていくのですから。

 

教員の身からすると、保護者は安心を求めている、という傾向が見えてくるかもしれません。特に私立に勤めている身としては、様々な面で安心に対する保護者の需要があると感じています。

世相を見る意味でも、こうしたアンケートを定期的に見ることが大事なのかなあと感じます。

 

それでは。

 

 

 

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【大学受験生向け】共通テスト、現代社会と倫理政経、どっちを選べばいいの?(現役公民科教師が解説します)

 

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この記事の対象は次の方です。

共通テストで現代社倫理政経のどちらをとろうか迷っている受験生

 

現代社倫理政経のそれぞれの特徴をお伝えしていきます。

どちらを選ぶか、まだ迷っている方の参考になれば幸いです。

 

 

結論

結論はこちら。

  1. まずは受験する大学で使える科目を選ぶ
  2. まだ志望校を決めてないけど、国公立志望なら倫理政経(進路変更に対応)
  3. 公民に苦手意識があるなら現代社会でも(倫理政経の方が範囲・内容は多いため。ただ現社は難化傾向かも)

  

詳しく解説していきます。

 

現代社会の特徴

使える大学

倫理政経よりもかなり少ないです。

首都圏でいえば、東京工業大学筑波大学東京外国語大学東京海洋大学などです。

医学部に絞れば地方国公立大学が中心になります。

 

逆に東京大学京都大学をはじめとした旧帝国大学一橋大学などは受験することができません。

 

勉強内容

政治・経済倫理の一部(西洋哲学・青年期・日本思想史・源流思想)

 

従来のセンター試験では約8割が政経から、約2割が倫理から出題されていました。

共通テストの試行調査でも、出題範囲は変化ありませんでした(ただどれくらい倫理の比重が高まるかは未知数です)。

 

勉強内容と範囲は、共通テストでもセンター試験から変更はありません。

2020年の1月末に、各科目の作問方針が示されましたが、現在の学習指導要領から問題が作られます。つまり、今使ってる教科書で勉強してください、ということです。

 

▼公民以外にも地理歴史の方針についてまとめています。

www.yutorix.com

 

共通テスト現社の特徴

勉強内容と範囲は変わりませんが、出題形式は180度変わります。

 

センター試験では知識を問う問題が中心でしたが、共通テストでは知識を活用する問題が中心になります。

これは現社に限らず、すべてのテストで共通の傾向です。

 

しかも、今までは内容面で政経よりも簡単といわれていたのが、内容的に政経に匹敵する深い理解を問う問題も出題されるようになりました

 

たとえばこんな問題が出ます。

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考え方Xはロールズという哲学者の「公正という正義」、考え方Yはアマルティア・センという経済学者の「潜在能力」という思想です。

それぞれの思想に基づいて選択肢を検討するという従来にはないタイプの問題です。読解問題に近いですね。

 

倫理政経の特徴

使える大学

全ての国公立大学で受験科目として使えます。

特に志望校を決めていなければ倫理政経を選ぶのが無難です。進路変更できますからね。

ただし、範囲が膨大なこと・内容を深く理解しなければならないことが現社との違いになります。

 

勉強内容

名前の通り、政治・経済、倫理の両方を満遍なく勉強することが求められます。

センター試験では半分ずつ出題されましたが、共通テストでも変わりません。

 

共通テストの特徴

現社と同じく、知識を問う問題中心だったのが、知識を活用する問題中心になりました。

写真やグラフの読み取りや、資料を読み込んだ上でいくつかのセリフに当てはまる言葉を選ぶという問題などが出題されるようになります。

ただし、試行調査は平成30年度の1度しか行われていないので、現社など様々なパターンの問題に慣れるのがいいと思います。

 

どっちを選べばいいのか?

繰り返しですが、やっぱり選ぶ決めては次の通り。

  1. まずは受験する大学で使える科目を選ぶ
  2. まだ志望校を決めてないけど、国公立志望なら倫理政経(進路変更に対応)
  3. 公民に苦手意識があるなら現代社会でも(倫理政経の方が範囲・内容は多いため。ただ現社は難化傾向かも)

 

 

まとめ

一番大事なのは1の条件です!
それによって2や3の条件に該当するか考えていきましょう。
どちらにしても読解力が問われますので、現代文の勉強などで読解力を上げていきましょう!

 

 

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日本の現代史を勉強したい人におすすめのマンガ3選

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こんにちは、しらすです。

 

政治や経済が混迷を極め、これからの日本社会の見通しが立てづらくなっています。

そんなときこそ歴史に立ち返って、今を眺めれば、何かヒントがあるかと思います。

 

そこで、年間100冊以上のマンガを読む私のおすすめマンガを是非ご紹介したいと思います。

 

今日のテーマはこちらです。

日本の現代史を勉強したい人におすすめのマンガ3選

 

 

大宰相

 

 

いとうたかお『歴史劇画 大宰相』全10巻

 

第二次世界大戦後の日本政治史が学べます。

吉田茂から中曽根康弘まで、総理大臣ごとにまとめられているので、時代の節目が区切られている分、流れがすんなり入ってきやすいかと思います。

 

第1巻には僕の好きな白洲次郎もちょびっと出てきます!

 

日本の歴史

 

 

石ノ森章太郎『日本の歴史』全55巻

 

かなり長い長いシリーズですが、現代史は54・55巻のみです。

ところどころ説明口調の箇所が割りあるため、少し冗長かもしれません。

けれども、石ノ森章太郎の歴史理解がかなり深いため、ビジュアルと文字の両面からアプローチできます。

学校である程度勉強してきたけど、リトライで何からはじめようか迷っている方の一冊目におすすめです!

※歴史が本当に苦手だという方におすすめの一冊は小学館が出している『日本の歴史』です!圧倒的なわかりやすさ、おすすめです。

 

太陽の黙示録

 

 

かわぐちかいじ太陽の黙示録』全17巻

 

大震災が起き、そのどさくさでアメリカが支援する南側と中国が支援する北側の二つに分断されてしまった仮想の日本が舞台。

イメージは朝鮮半島の南北分断に近いです。

戦後の日本がアメリカと共に辿ってきた道に対して批判的なまなざしを向けられていて、理想の国家を考えるきっかけをくれるマンガだなあと感じました。

こちらは勉強を本格的にするためというよりも、勉強の合間に読んで、想像を張り巡らせる一冊としていいと思います。

 

以上、日本の現代史を勉強したい人におすすめのマンガ3選でした。

 

今日も最後までお読みいただきありがとうございました。

 

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【大人のための政治経済】Go To トラベルキャンペーンは地方の観光都市の救済

  

こんにちは、しらすです。

 

四連休はいかがお過ごしでしたでしょうか。

私は都民なので圧倒的ステイホームでした。おかげで筋トレが捗り、肩幅が広くなりました。

 

さて、この四連休、キャンペーンの一環でどこかへ旅行に行かれた方もいるかもしれません。

今回の記事で考えたいことは、まさにそのキャンペーンについてです。

早速見てみましょう。

 

 

ちきりんさんの記事が非常に参考になるかと思います。

 

chikirin.hatenablog.com

 

 

GO to キャンペーンとは?

 

「Go Toキャンペーン」は、新型コロナウイルイス感染収束後に日本国内の人の流れを創り出し、地域の再活性化につなげることを目的として、観光・運輸業、飲食業、イベント・エンターテインメント業などを対象に、補助金の支出により需要喚起を目指すキャンペーン施策です。

第一次補正予算にて事業総額1兆6,794億円が計上されており、旅行商品を最大半額相当補助する「Go To Travelキャンペーン(予算約1.1兆円)」や、飲食代を2割相当補助する「Go To Eatキャンペーン」、イベントなどのエンターテインメントを2割相当補助する「Go To Eventキャンペーン」などが実施される予定です。

https://www.travelzoo.com/jp/blog/go_to_campaign/

 

 

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出典:令和2年度 国土交通省関係 補正予算

 

Go to キャンペーンは需要喚起を目的に、旅行者に補助金を出そうという政策です。

そもそもコロナ以前において、日本の産業の中で観光業界が非常に伸びていました。というのも、政府は観光立国化を目指して訪日外国人観光客数4000万人を目標に掲げるなど、官民挙げて観光産業に力を注いでいたのです。貿易収支が低下する一方で、インバウンドの伸びが日本の国際収支の中で伸びつつありました。

お金の流れ・人の流れが観光業を中心に注ぎ込まれて、様々なインフラが整備されていった中で「いざこれからだ」というときにコロナウイルス感染症が拡大し、大打撃を与えたのです。

Go to キャンペーンはそうした瀕死状態にある観光業を救済しようという政策的な狙いがありました。

しかし、緊急事態宣言解除後、再び感染者数が増加し、キャンペーン自体が批判を浴びます。政府はキャンペーン自体を撤回はせず、感染者数の増大が著しい東京を除外した上で、キャンペーンが始まりました。

※東京都の感染者数は徐々に増加し、7月23日には過去最多の366人を記録しました。

 

www.bloomberg.co.jp

 

インバウンド業界のサプライチェーンは裾野は広い

 

Go to キャンペーンをめぐる対立軸は下記の通りだと考えています。

  1. コロナウイルス感染症拡大をめぐる生命の危機の問題

  2. 地方の観光都市の雇用を維持し、産業を保護しなければ文字通り瀕死してしまうという生活保障の問題

 

政府の最大の役割は国民の生命や財産の保護です。

日本国憲法第13条には次のように書かれています。

すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。

 

コロナウイルス感染症拡大によって瀕死の危機に陥った観光産業を救済しようという政策の背景には、その産業に従事している人々の雇用や生活を守ろうという生活保障の問題があります。

一方で、感染者が急増し始めたこの状況で旅行を奨励する政策をするのは、シンプルに人々の生命を脅かしうるわけです。これが問題の対立軸にあるわけですが、今回政府が強行したということは、前者の方が大きかったということです。

 

日本

 

では、なぜ強行したのか?

理由は2つあります。

  1. 感染症が数年間という長期で続いていくかもしれないということ
  2. 観光業界は裾野が広い業界=サプライチェーンが広大であるということ

 

1点目ですが、現在世界中の国々が競ってワクチン開発に取り組んでいます。

トランプ大統領はワクチン開発の爆速計画を掲げ、現在多くの企業が開発に注力しています。ワクチン企業の株価が軒並み上昇していることは投資家をはじめとした世界中の人々の期待の表れです。

けれども、これらワクチンの効果があるかどうかは未知数です。

一説には、風邪のようにウイルスが毎年変異を繰り返すためワクチンを作っても無駄だという意見もあるようです。

とすれば、人類とウィズコロナの時代はしばらく続く可能性もあるわけです。

数か月であれば観光業界も自粛できるかもしれませんが、1年以上の長期で自粛を余儀なくされればキャッシュフローも底を尽き、倒産ドミノが生じます。

そうなれば観光立国の再建は非常に困難でしょう。

 

2点目は観光業界が様々な産業と連鎖関係にあるという点です。

地方には、観光業が基幹産業である都市も少なくありません。こうした地方都市の経済は観光業が打撃を受けると、その余波が周辺産業に及びます。

たとえば、旅館や温泉が自粛を余儀なくされれば、周辺のお土産屋や飲食店などが影響を受け、さらにバスや鉄道などの交通インフラも影響を受けます。また、事業が停滞した産業に対する融資もストップし、金融業にも影響を与えるでしょう。

このように工業や農業などではなく、観光業を中心に成立している地方都市経済は観光産業が打撃を受けると周辺産業も壊滅的打撃を受け、経済全体が停滞してしまうわけです。

 

こちらは観光庁の資料です。こちらからも観光業が日本経済において徐々に割合を高め、さらには他産業と大きな関係を持っていることがわかるかと思います。

 

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観光庁「平成30年版観光白書について」

 

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観光庁「平成30年版観光白書について」

https://www.mlit.go.jp/common/001237304.pdf

 

地方観光都市の経済=地域住民の将来の生活>ウイルス対策

P9160451.jpg

結局、数か月どころではなく長期にわたるウイルスとの共存を余儀なくされる可能性が高いわけで、そうなれば地方の観光都市の経済は大きく縮小してしまいます。

 

そうなれば、そこに住み、働く人々の生活は壊滅的打撃を受けるでしょう。

僕は結構旅行が好きなんですが、この記事を書いていて確かに地方の温泉街とか門前町とか観光業の割合が大きいなと思いだしました。

温泉街とか門前町とか独特の雰囲気は好きなので、寂れてしまうのは非常に悲しいなあと思うのですが、人の命がかかっている分、どう折り合いをつけるかは非常に難しいと思います。

 

Go to トラベルキャンペーンをめぐる混乱が示唆するのは、アフターコロナ後の日本経済の在り方だと思います。

感染症に弱い観光立国の道を目指し続けるのか、それとも感染症に非常に強みを見せたテクノロジー産業を盛り上げていくのか、それとも別の道を歩むのか。

そこに住み、働く人たちの救済はもちろん極めて重要ではありますが、有限な資源をどこに投資するのか、そうした日本の未来を考えさせる機会になったのではないかなあと個人的に思いました。

 

おしまい。

 

最後までお読みいただきありがとうございました。

 

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資本主義と自由民主主義の関係は、仲が良くない夫婦と同じ

 

こんにちは、しらすです。

 

冷戦が終結して以降、「資本主義(自由民主主義)の勝利」ということが言われ続けてきました。

しかし、近年では先進国を中心に格差が拡大していることから、むしろ社会主義の人気が高まっているように感じます。

 

一方で、かつて社会主義国だった国々は冷戦終結以降、次々と資本主義体制へと転換し、中でも中国は目覚ましい経済成長を遂げました(注意していただきたいことは、これらの国々は建前としては社会主義国です)。

 

自由民主主義諸国を中心に資本主義の終焉論が叫ばれていますが、果たしてどうなんでしょうか。

今回の記事では、資本主義と自由民主主義の関係について、政治学者の知見を借りて考えてみましょう。

 

今回考えたいことはこちら。

  • 資本主義と自由民主主義の関係
  • 資本主義がもたらすいいところ
  • 資本主義がもたらす弊害
  • 今、両者の関係はいい状況なのか、悪い状況なのか

 

早速見ていきましょう。

 

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資本主義と自由民主主義の関係

資本主義が終わるといわれて久しいです。

 

近世のイタリアから始まったとされる資本主義は形を変えて今日まで存続してきました。そして、近代社会では自由民主主義と結びつき、先進国の多くで経済システムの中心に据えられています。

両者の関係性について、ロバート・ダールという政治学者は次のように述べています。

 

デモクラシーと資本主義市場経済の関係は、たとえて言えば、けんかを繰り返しながらも結婚生活を続けている夫婦のようなものである。喧嘩をしながらも、どちらも離婚をすることまでは望まないのでなんとか持ちこたえて一緒にいる、そんな関係である。(ダール『デモクラシーとは何か』P.228)

 

いついかなる時も仲がいいわけではないんですね(笑)

 

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ロバート・ダール

 

資本主義がもたらすいいところ

ダールは資本主義と自由民主主義の関係のもたらす好影響について次の3点を指摘しています。

 

①経済成長は資本主義経済によって実現されてきた。しかも、経済成長はデモクラシーにとって有利に作用する。とりわけ、きわめてひどい貧困をなくし、生活水準を改善できるので、結果的に社会的対立や政治的紛争を減らすことができるのである。…(中略)…経済成長は、分配できる資源を増やしてくれるので、個人にとっても、集団にとっても、また政府にとってもいろいろな恩恵をもたらしてくれる。たとえば、教育を充実して、識字率が高く教育の行き届いた市民たちをはぐくむことができるようになるのである。(ダール『デモクラシーとは何か』P.230)

 

社会主義経済では、経済成長が主眼のシステムが導入されませんでした。皆が労働に従事し、その分け前を等しく受け取れる、というところに美点がありますが、人口の増加や経済縮小に伴い、受け取れる分け前が減っていくので、だんだんジリ貧になっていきます。競争原理がなく、サボろうが頑張ろうがもらえるものは同じなので、みんなが手抜きで働くようになりました。生産性は落ち、経済は減速します。

ソ連はそうして皆が貧乏になり、これを見た中国は分け前を等しく配ることをあきらめ、分ける前の利益を増やす方向にかじを切りました。1978年の改革開放路線、1993年の社会主義市場経済憲法化です。

 

結局、分け前を等しく配る、という結果の平等を重視しすぎても、配るものがないと話にならないのですね。

 

②資本主義市場経済は、それがもたらす社会的ないしは政治的な成果の点でも、デモクラシーにとって好ましい役割を果たしてくれる。つまり、市場経済は財産所有者である中産階層を大量に生み出す働きをもっているのである。そういった階層に属する人々は一般に、教育、自立、個人の自由、財産権、法の支配、政治参加といったものを追求するという特徴がある。中産階層は、アリストテレスが初めて指摘したようにデモクラシーの理念や民主的な制度を本質的に支持する傾向がある(前掲書、PP.230-231)。

 

これは①の経済成長とリンクしています。

経済成長によって人々の所得水準が向上し、経済的な充足が満たされると、精神的な充足を人々は求めるようになります。法の支配や基本的人権などを重視し始め、政治体制の変革のために政治に関心を持つようになります。また、経済成長に伴い、産業が高度化していき、社会に出るまでの訓練機関としての学校教育が長期化していきます。その結果として、さらに法の支配や基本的人権に親和的な人々が生まれるわけです。

日本でいえば、特に高度経済成長期に国民全体の所得水準が向上していきました。成長の恩恵が多くの人に分配され、「明日は今日よりいい日になる」とみんなが信じていた時代でした。

中間層が民主主義には重要なのです

 

③最後にもっとも重要だと思われる点は、資本主義市場経済は、経済的な意思決定の多くを脱中央集権化し、それが独立性がかなり高い個人や社会に任せるので、強力かつ権威主義的であるような中央政府を必要としないということである。(前掲書、P.231)

  

民主主義とは、社会の構成メンバーが集団的に意思決定を行うシステムです。そして、自由民主主義の前提は、メンバー全員が自立・自律した個人であるということであって、中央政府に指図されて嫌々動くシステムではないんですね。だから、資本主義というのは極めて自由民主主義と親和性の高いシステムであるということです。

どちらも本質は自由な個人が個人として意思決定をするという点にあります。

 

けれども、先ほどお伝えしたとおり、両者の関係は仲が良くない夫婦です。いい面ばかりではありません。

 

資本主義がもたらす弊害

 

貧困, 男性, アーム, 富, 物乞い, 数字, 帝国, 意味テスト, 剥奪, お金の不足, 資金繰りが苦しい

 

ダールは、資本主義が自由民主主義にもたらす悪影響について述べています。

 

 ①民主的な国家の場合には、政府が広範囲にわたって、市場経済のもたらす有害な影響に修正を加えるための規制や介入を行わなければ、資本主義市場経済は決して存続できない(あるいは長期にわたって存続することはできない)(前掲書、P.243)

 

至言です。

野放図な資本主義は貧困に苦しむ人を大量に生み出し、市場の落伍者に対する救済もありませんでした。市場というのは、そもそも利己的な個人を前提にしていますから、少なくとも理論上は市場において助け合いは生じません。強いものが勝ち、弱いものが負ける場、それが市場です。

でも、競争のルールがそもそも不公正だったり、参加以前に資質にとてつもない格差があってはシステムの持続可能性は見込めないので、それを是正することが不可欠になります。たとえば、企業間の自由競争をフェアにするために独占禁止法が作られたり、人々の状態を良好に保つために医療が普及したり、政府は様々な領域に介入して、市場を健全に保っているのです。

政府の役割の一つは所得の再分配なのです。

 

資本主義市場経済は不可避的に経済的不平等を生み出す。そして、それは政治的資源の配分の不平等をもたらす。その結果、ポリアーキー型デモクラシー(注:自由民主主義のことと思ってください)が潜在的にもっている民主的な可能性は制限されてしまうことになる。(前掲書、PP.243-244)

 

これが、今の日本をはじめとした先進国民主主義国で超問題になってます。

 

政治的資源というのは、ある個人・集団が、社会に対して影響力を行使しようとするときに活用できる資源のことです。たとえば、武器やお金、知識、教育、法的地位など多岐にわたります。

民主主義の道徳的な原理として、すべてのメンバーは政治的に平等であるというものがあります。したがって、この政治的資源は理想的にはすべての人に等しく分配されるべきですが、現実には不平等に分配されています。ですから、民主主義という目に見えないシステムを維持するうえで、その根拠となる人々の間の平等を維持しないと、このシステムは形骸化してしまうわけです

教育格差の問題も、こうした資源配分の不適切さを象徴しています。

 

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③資本主義経済は、デモクラシーの発展にとっては好都合で、特に、ポリアーキー型デモクラシーに至るまでの発展に大きく寄与する。しかし、ポリアーキーのレベルを超えてデモクラシーが発展しようとするときには、市場経済は、政治的平等を損なう帰結をもたらすために不都合なものとなる。(前掲書、P.245)

 

これも②の問題と同じです。

つまり、資本主義は、ある一定レベルの民主化には極めてマッチしているわけです。経済成長によって、富が分配されて中間層が育つわけですから。

しかし、一定レベルの民主化が達成され、今後は成熟した民主主義国家になると、市場経済の負の側面に悩まされてしまうのです。資源配分の不平等が、市民間の政治的資源の配分に格差をもたらし、不公正な社会を作り上げてしまうわけです。

生まれや地域という本人に選べない要素によって、持ちうる資源が異なり、さらにはそれによって無限の可能性が阻害され、社会を変革する機運まで失ってしまう。そんな負の連鎖が、資本主義によって生じてしまうのです。

 

今、両者の関係はいい状況なのか、悪い状況なのか

 

離婚, 分離, 引数, 紛争, 競合, 関係, カップル, 夫, 妻, 分裂, 捨て去, 不幸です, 分割

ここまでダール教授の知見をご紹介してきたわけですが、現在の自由民主主義諸国において資本主義との関係はどのようになっているのか、最後に考えてみましょう。

 

自由民主主義諸国で問題視されているのは、格差の拡大です。

格差の拡大というのは、資源配分が偏在していることを意味しています。

その背景には、簡単に言うと政府が資源配分への影響力をかつてよりも失ったことがあげられるでしょう。

多くの国では、失業者の増加やワーキングプアなどといった労働市場の問題、高齢化などに伴う社会保障費の増大及びそれに伴う負担の増加、経済の停滞による賃金の下落など経済問題に頭を抱えています。財政的に余裕があれば、これらの多くの問題は解決してしまうのですが、1980年代以降主要国の多くは小さな政府にかじを切ったため、政府規模が縮小しています。かつての福祉国家から、労働者派遣法の解禁や民営化など市場競争を促す方向に政府が姿を変えたのです。

また、企業も経済成長が停滞してしまったため、労働者に利益を分配することが難しくなっています。そして、それにより中間層が没落し、富裕層と貧困層という形で社亜紀が分断されてしまうわけです。

 

資本主義に対する政府の介入が弱くなっています。したがって、資本主義に伴う失業や所得の再分配が機能しなくなり、資本主義が健全に機能しなくなっています

 

それに対して、政府が介入して、所得の再分配などを通じて人々の福祉を高めていくべきなのでしょうが、財政赤字が拡大する中で中々困難になっています。

 

つまり、今、両者の関係は非常に悪い。

離婚届にサインをする寸前です。

 

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これに対する解決策として考えられているのが以下の2つです。まさに弁護士の調停のような。

  1. MMTによる財政膨張
  2. 政府以外の領域での共助の促進

 

1つ目のMMTとは、現代貨幣理論のことですが、簡単に言うと、政府は(ある条件を満たせば)無限に借金ができるから、人々にお金を配ることができる。これにもとづいて、ベーシック・インカムなどを導入しようという話です。

 

2つ目は、実はすでにイギリスが経験済みなのですが、第三の道と呼ばれる解決策です。つまり、国は財政赤字で助けられないし、市場はそもそも助け合いを想定していないから、それ以外の方法を採用しよう。で、それは国家でも市場でもなく、人々の助け合いでどうにかしよう、という話です。

 

さて、どうすべきか、というところですが、それはまた別の機会に。

それでは。

 

最後までお読みいただきありがとうございました。

 

参考文献

 

過去記事

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「優秀な人は教員にならない」という意見について教員が考えてみる

 

こんにちは、しらすです。

 

「優秀な人は教員にならない」という意見をよく耳にします。

今回はそれについて考えてみましょう。

 

 

優秀な人は教員にならない?

 

 

 

結論を言うと、2つめのツイートが答えです笑

 

 

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さて、そもそもこの意見は以下の問題を抱えています。

  1. 優秀の定義が謎だから業界を超えて比較しようがない。

  2. 印象論に過ぎない。

  3. 現職教員が発信することの影響(教員の自虐による教員の価値低下)。

 

一つ一つ見ていきましょう。

 

悩むダウンコート男性

 

問題点を考えてみる

優秀の定義が謎だから業界を超えて比較しようがない

 

「優秀」って何でしょうか?

大辞林(第三版)によれば、「他のものより一段とまさっていること」と書かれています。

つまり、「何らかの基準にもとづいて比較をした上で優劣を決め、その序列がより上位にあるものが優秀である」ということかと思います(簡単に言ったら、ランキング上位のことですね)。

 

「優秀」という言葉自体には、特定の基準は含まれていないので、「優秀ではない」とか「優秀だ」という発言の背景には、発言者の意図する基準が隠されていることになります。

この基準を明示しない限り、比較することはできません。

 

そして、だいたいこの基準というのは金を稼ぐ能力(要はビジネスエリートになる能力)のことを指しているかと思います。

というのは、「優秀な人は教員にならない」という発言は、裏を返せば、「教員以外は優秀(な人が多い)」とか「優秀な人は教員以外の職に就く」という発想があるので、労働市場における供給を指していると考えられるからです。

 

就活市場でホワイト企業とか大手企業に内定を得る能力とかですかね。

でも、そういう人たちも転職して教員になっている人いますね。

 

しかし、金稼ぎの能力が基準だとしても比較は困難です。そもそも学校教育の売り上げは基本的に①受験料収入、②授業料でしか上げられないので、売り上げには構造的に限界があります。

投資銀行やGAFAMのように大規模に事業を展開し、かつ高利益を上げるビジネスモデルではないので、この比較はそもそも民間企業と学校とでは困難な気がします。

 

印象論に過ぎない

前述のように、基準が明示されないまま「優秀な人は…」言説が跋扈しています。

ですから、データもないし、あったとしてもそもそも基準の欠如から比較もできないため、発言者の経験からくる印象論に過ぎません。

そして、金を稼ぐ能力と仮定するならば、業界ごとにビジネスモデルが異なりますし、収益が青天井の業界もあれば、学校業界のように構造的に限界のある業界を比較してもナンセンスになります。

こうした業界ごとの差異についてはこちらの本が詳しいです。

 

 

現職教員が発信することの影響(教員の自虐による教員の価値低下)

さて、ここまでは「そもそも優秀かどうかなんて比較のしようがないし、印象論じゃん」という話でした。

ここからは「それ、教員が言ったら、どういう影響が起きるかわかってる?」ということを考えていきたいと思います。

 

まず先ほどのツイートを見てみましょう。

 

まず、この発言の背景には、悲惨な働き方に苦しむ教員の方々がいる、ということが上げられるかと思います。

というのも、転職市場でホワイト企業の内定を勝ち取れなかった、だから教員になるしかなかった、という労働市場での競争に敗北した後ろめたい思いがあるのだと思います。

 

では、なぜこのような発言をするのか。

ここからは完全に推測ですが、ツラすぎる働き方から逃げられないから自分を卑下する方向に持っていってしまったのではないかなと思っています。

 

人はツラすぎる現実と適応するために、認知を歪める特性があります。

たとえば、理不尽な上司がいて、でもその会社にしがみつくしか選択肢がない、という場合には、「理不尽な上司」の裏に「愛がある」とか勝手に想像して、現実に対する認識を修正してしまう、という習性があります。

 

で、非常に辛い働き方をしているけども、それ以外に選択肢がない(転職市場において営業経験や特別なスキルのない教員経験者は確かにハードルが高いといわれます)。つまり、「逃げ場がない。この環境で生き続けるしかない。どうしてツラいのに働き続けるのだろうか。それは、自分が優秀じゃないからだ!」というように、辛い現実を変えるよりも、自分の現実に対する認識を変えて、妥協してしまったからではないかなと思います。現実を変えるのは難しいですけど、自分の考えを変えるのは簡単ですからね(この場合は歪められたという方が正しいですけど)。

あるいは、これだけ働いているのに、どうしてこれだけしか給与が出ないのか、という不満かもしれません。

 

International Communications 101: Stop.

 

けれども、ちょっと待ったといいたい。

それを現職教員が発信して、教員志望者が見たらどう思うか。

間違いなく悲惨な働き方を想像してしまった学生は民間企業にシフトしますし、教員志望者は減るでしょう。

それに教育業界全体に対する一般の方々の認識は悪いものとなるんじゃないでしょうか。

 

実際現場で働いてみて思うのは、教員の方々のマルチなスキルの高さです。

例えば、授業を展開するには、授業デザインや教科への深い理解、生徒たちを観察する力などが求められますし、学校経営においては社会情勢を見極め、保護者や受験生と良好な関係を維持し、対外的に発信していく能力が求められます。学級経営では生徒たちをマネジメントする能力が求められます。

 

また、有名な大企業から教員に転職した方々も大勢います。

「優秀」な教員はたくさんいるんです。

 

結局問題の所在は何なの?

「優秀な人は教員にならない」という発言の裏には、発信者の環境があるかと思います。ツラすぎる労働環境はその一例でしょう。

 

働き方改革は急務です。

ワークライフバランスというよりもライフを重視する社会的な風潮の中で、ワーク一辺倒な働き方が未だに教員の中でも一般的かと思います(かくいう私も土日は授業準備です)。部活動の改革も重要なところでしょう。

 

業務量が削減され、余暇を得て、自由な活動ができるようになれば、先生がたの不満も減るかもしれません。

また、余暇を重視する「優秀な」就活生も民間シフトから教育業界シフトへと舵を切ってくれるかもしれません。

 

先生という職業は楽しいですし、多くの先生が他の能力は高いと感じています。

胸を張って先生をしていきましょう。

 

働き方改革はあまり注目してこなかった分野ですが、今後、注力していきたいと思います。

 

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誰しもが可能性を追求できる社会を-『教育格差』と近代社会の理念-

  

義を見てせざるは勇なきなり

 

論語の一節にある言葉です。格差が拡大し、心を痛めている人も多いかと思います。

けれども、ふと考えてみると、そもそも格差がなぜ悪いのか、望ましくないのか、私は説明できませんでした。

つまり、何が義に値するのかがわからなかったのです。ですから、今回の記事では格差がなぜ望ましくないのかについてまとめています。

 

 

教育格差とは?

松岡亮二先生の『教育格差』がベストセラーになりました。

少し前にはピケティの『21世紀の資本』が世界的に流行し、アメリカでは社会民主主義者のサンダースが人気を博しました。

それだけ格差が社会的注目を集めているわけですが、教育格差について、松岡先生は次のように述べています。

 

この社会に、出身家庭と地域という本人にはどうしようもない初期条件(生まれ)によって教育機会の格差があるからだ。この機会の多寡は最終学歴に繋がり、それは収入・職業・健康など様々な格差の基盤となる。つまり、20代前半でほぼ確定する学歴で、その後の人生が大きく制約される現実が日本にはあるのだ。

…(中略)…生まれ育った家庭と地域によって何者にでもなれる可能性が制限されている「緩やかな身分社会」、それが日本だ。

…(中略)…一人ひとりの無限の可能性という資源を活かさない燃費の悪い非効率な社会だ。(『教育格差』PP.15-16)

 

本書におけるキーワードはSES(Socioeconomic status=社会経済的地位)です。これは、経済的、文化的、社会的要素を統合した地位のことで、具体的には、世帯収入(経済)、親学歴・文化的所有物と行動(文化)、職業的地位(社会)などの指標を指します。

glancing into the studio process : santa barbara (2008)

 

親が大卒か否か、居住地域が三大都市圏か否かなどによって、子どもに教育格差が存在し、たとえば小学校入学段階で塾や英会話教室などの習い事を初めとした多様な教育の機会に触れ、学習の蓄積がある子と、放任の名の下に教育機会のなかった子との間に既に格差が存在し、それが学年が上がるにつれて拡大していくといいます。

 

学歴社会(学校歴社会)といわれるように、労働市場では学歴を重要な指標として厳格な選別が行われてきました。

つまり、選別は就職活動以前、受験競争から始まっています。

しかし、この競争過程で、生まれによって早くスタートダッシュを切れる子とそうでない子がいる。しかも、時間を重ねるごとにその差は拡大していく。

そして、労働市場の選別を受けた人たちが自分たちの子どもが有利になるように習い事などの「意図的な養育」を行って、さらに格差が再生産されていくわけです。

本人にはどうしようもないところで、人生の可能性が制限されている、まさに「緩やかな身分社会」です。

 

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何が問題か

教育現場と金の結びつきはしばしば批判対象となってきました。

日本では徳川的儒教体制の歴史から文化レベルでお金儲けが忌み嫌われ、「徳育」を重視する日本の学校においてもお金は主な教授の対象とされてはきませんでした。

したがって、学校全体が資本主義の論理から離れて運営され、子どもたちは厳しい資本主義の世界から保護されてきたのです。

 

しかし、子どもたちは学校を出たら、厳しい資本主義社会において、「労働力」として評価されます。緩いコミュニティから一転、厳しい就職活動の洗礼を受けます。

筆者はこうした教育と労働市場の乖離を厳しく批判します。

 

教育の中でどれだけ表面的な平等を取り繕い「夢」を煽ったところで、わたしたちは労働市場において冷徹な評価を受けるということだ。有名な曲の歌詞にあるように、花屋の軒先には様々な種類の花が並んでいて、価値観によってどれが美しいと思うかはここに違うだろうし、ナンバーワンを決めることは野暮だろう。ただ、花屋のたとえをするのであれば、すべての花は商品であり、異なる数字の値札が貼られているのだ。もちろんすべて同じ値段ではない。「個性」や「多様性」をどれだけ主張したところで、100円は100円であり、1万円は1万円なのだ。わたしたち一人ひとりは代替することができない存在であるはずだが、労働市場においては値札が貼られるのだ。この現実が存在しないかのように学校の中で振る舞ったところで、労働市場に出なければならない時期が来る。同様に、反学校的な若者グループの中で独自の価値体系を持ったところで、遅かれ早かれ労働市場における価値基準で評価されることになる。

学校や若者グループの小さな「世界」で「個性」を認めたり「仲間」として連帯したりすることで一時的な居場所を確保し、資本主義の現実から匿ったところで、(死が訪れるまでの外出を禁じるカルトでもない限り)何の解決にもならない。PP.279-280

 

どうして問題といえるのか?

 

次のツイートで問題の核心について述べています。

 

 

 

diego's world

 

近代社会の基本的理念は自由と平等です。

自由とは、他者から干渉を受けずに、あらゆる可能性を考慮した上で選択(意思決定)をする自己決定を根本的な価値とします。しかし、そもそも「自分で選択していない」生まれによって、自分が持てる可能性の数に限りがあるのです。

自由主義的な社会においては職業選択の自由が保障されています。子どもたちはどんな夢も持ち、それを実現する自由が「保障」されています。けれども、実は本人の決めることのできない生まれによって夢が限られ、より良い生まれの人間に有利なような社会が存在するのです。

各人がもつ自由には程度に差があり、それを埋めることができないほど乖離している。身分制を打破したはずの、自由という崇高な理念に基づいた社会で、未だに「緩やかな身分社会」が存在するという事実、すなわち教育格差は近代社会の基本的理念が嘘っぱちでフィクションに過ぎないことを暴露しました。極めて不公正なのです。

 

けれども、そもそも私たちが暮らしている社会は、自由や平等という理念にもとづいて構築されています。

憲法基本的人権が保障されているのは、人々の自由や平等がとても大切だからです。統治権が国会や内閣、裁判所というように三つに分かれているのは、権力が集中することで独裁政治が行われ,人権侵害が起きないようにするためです。

自由が保障されているから、私たちは自分が生きたいように生きることができます。

 

だからこそ、この大切な価値「自由」が形骸化しないように、教育格差は批判され是正されるべきなのです。

 

あらためて、私はリベラリストなのだなと感じました。

私にとっての義とは自由。これは永遠に完成することはありません。なぜなら観念だからです。

だからこそ、その実現のために永久に努力し続けなければならないのです。不公正な社会なら公正な社会にしよう。社会は人工物なのだから。

憲法12条には、権力者を縛る憲法には珍しく、国民に注文をつけている珍しい条文があります。ここでは、自由を守り続ける重要性が述べられています。

この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によつて、 これを保持しなければならない。 又、国民は、これを濫用してはならないのであつて、 常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負ふ。

 

『教育格差』は冷静に現実を見つめ、それを是正するにはどうすればよいのか、考えるきっかけを与えてくれた良書だと思います。

願わくば社会に生きるすべての人の自由に差がなく、誰しもが自分の生きたい人生を歩める社会であってほしいと強く強く思います。

  

 

 過去記事紹介

 

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【大人のための政治経済】香港の自由と民主主義は失われてしまうのか?

 

香港で国家安全維持法が成立しました。

世界で何が起きているのか、民主主義の研究者として、公民科教員として注視しなければならないと感じ、この記事を書いています。

 

 

香港国家安全維持法の成立

16 June 2019 antiextradition 111


 

香港国家安全維持法が成立しました。

明らかになっている法の内容は下記の通りです。

  1. 国家からの離脱、転覆行為、テロリズム、香港に介入する外国勢力との結託といった犯罪を犯した場合、最低3年、最高で無期懲役が科される
  2. 中国中央政府と香港の地方政府への憎悪を扇動する行為は第29条違反となる
  3. 公共交通機関の施設を損傷する行為はテロリズムとみなされる可能性がある。長期にわたるデモでは、抗議者たちは市内のインフラを標的にすることが多かった
  4. 有罪となった者は公職に立候補できない
  5. 中国中央政府は香港に新たな保安施設を設立し、独自の法執行官を配置する。施設も法執行官も香港の地元当局の管轄外となる
  6. 香港特別行政区行政長官国家安全保障事件における裁判官を任命できる。香港の法務長官が陪審員の有無を決定できる
  7. 地方自治体が設置した国家安全保障委員会の決定に対し、法的な異議申し立てはできない
  8. 中国が「非常に深刻」とみなした事件の起訴を引き継ぎ、一部の裁判は非公開で行う
  9. 外国の非政府組織や通信社の管理を強化する
  10. 同法第38条に基づき、非居住者が海外から同法に違反したとみなされる可能性もあるとみられる
  11. 6月30日の施行以前の行為については適用されない。

出典:「香港国家安全維持法」が施行 最高刑は無期懲役 - BBCニュース

 

自由と民主主義の観点から、香港国家安全維持法の制定が何を意味するのか、考えてみたいと思います。青の太字部分は、特に自由・民主主義にとって関係のある個所です。

 

自由の大幅な制限と治安権限の委譲

先進国の多くは自由民主主義国家です。

香港も一国二制度の下で高度な自治を認められ、自由や民主主義を謳歌していました。

 

しかし、今回の法改正でそれらはもはや過去のものとなるかもしれません。

 

自由民主主義を研究したロバート・ダールという政治学者がいます。

 

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https://www.google.com/url?sa=i&url=https%3A%2F%2Fja.wikipedia.org%2Fwiki%2F%25E3%2583%25AD%25E3%2583%2590%25E3%2583%25BC%25E3%2583%2588%25E3%2583%25BB%25E3%2583%2580%25E3%2583%25BC%25E3%2583%25AB&psig=AOvVaw3XkLA19fWZKObdBF7mRk2B&ust=1593694389717000&source=images&cd=vfe&ved=0CAIQjRxqFwoTCOiLvbOMrOoCFQAAAAAdAAAAABAD

彼によれば、自由民主主義とは政治参加(自由)異議申し立て(民主主義)の度合いが高いレベルにある政治体制を指します(彼はポリアーキーと呼びました)。

政治参加のレベルが高いかどうかは、普通選挙の有無でわかります。一方で、異議申し立てというのは、政治に不満がある場合は、請願や世論という形で不満を表明することができるかどうかを指します。

香港の場合は、トップである行政長官を選ぶ仕組みとして間接選挙を導入しています。具体的には、指名委員会という組織が候補者を2~3名に絞り、その中から住民が一人一方で決めていくシステムです。

候補者選定の段階で住民の意思が反映されず、密室政治になってしまう、親中派の行政長官しか当選しない、といった懸念がありました。

政治参加の度合いは普通選挙に比べて低く、2019年から続くデモでは、普通選挙の導入が求められていました。

 

一方で言論の自由が保障され、異議申し立ての度合いは高いといえます。

その他、資本主義や司法の独立が認められ、中国とは異なる政治経済体制が敷かれていました。

 

今回の立法では、この異議申し立ての部分が大きく制限されます。

つまり、抗議活動や政府批判などの言論の自由が大きく制限されるということです。

たとえば、冒頭に箇条書きしたリストの1・2によれば、香港政府に対するデモに対しては最高刑が無期懲役となっています。

さらには5では、中国政府管轄の治安維持組織・法執行官の設置が規定されていますが、これにより香港の自由民主主義活動は確実に停滞し、ゲシュタポよろしく監視国家(地域)へと変化していくと思われます。

というのも、中国政府の管轄であるため、香港住民の意向が反映されることはありませんし(そもそも政治過程に住民の意思を吸収する回路もありませんが)、法執行官も中国共産党から派遣されているため、厳格に法の執行を行っていくと思われます。

こうした抑圧が、香港市民に対する委縮効果を招き、抗議行動が沈静化していくでしょう。歴史の教訓として、権力者は警察権力を必ず確保しました。戦前の内務省特高警察しかり、東ヨーロッパしかり、強力な警察権力の下で多くの人権侵害が行われました。

※記事を書いている途中にニュースが舞い込んできました。

www3.nhk.or.jp

また、6で国家安全保障事件については行政長官が裁判官を任命できること、8で一部非公開の裁判が可能になったことで、判決過程がブラックボックス化し、さらには裁判官が行政権力と結びつくことで、冤罪などの人権侵害が生じる恐れが高まります。

日本の歴史を学んだ方であれば、戦前の大日本帝国で行政権と司法権が結びついて人権侵害が行われた例を知っていますね。だから、日本国憲法では、基本的に公開裁判の原則が採用され、政治犯罪や出版犯罪、基本的人権に関する裁判については必ず公開しなければならないのです。

 

自由民主主義の素晴らしい点は、自浄作用が働く点にあります。

構成員間で合意を図り、進路を決め、社会のかじ取りを図る、もし進路を間違えれば、自分たちで修正できる、それが自由民主主義の称賛されるべきところです。

 

しかし、自浄作用が働かないときもあります。

そうした時に外からの圧力が大きく事態を改善させることがあります。

たとえば、南アフリカアパルトヘイトは国際社会の圧力によって変更を余儀なくされました。

日本においても人権状況改善を目指す立法措置は国際条約の批准が背景にあります。

戦争だって止める力があります。ベトナム戦争は最前線の悲惨な状況がカラーの映像でアメリカ国民のお茶の間に届いたから、自分たちの正義に人々が不信感を抱いたことで、反戦運動が大きく展開されるようになりました。

 

けれども、香港において今後NGOや外国メディアの活動に対する管理が強化されれば、国際社会が香港で何が起きているか、知る機会を失います。

そうなれば、圧力をかける以前の話です。外圧も働かず、異議申し立ての機会もないため自浄作用も働かないならば、香港の自由民主主義は死んでいくしかないでしょう。

 

立法の影響

 

知る権利や表現の自由は民主主義の根幹である権利です。

何か不正が行われていれば、その不正を糾弾することができる。

そして、その不正の過程や背景を明らかにし、自ら浄化していく、そうしたサイクルを働かせるためにも不可欠だったのです。

けれども、香港国家安全維持法の成立によって、香港市民の表現の自由は制限され、改善の契機は失われました。もう不可逆的な流れです。

 

ダールの分析枠組みによれば、香港の民主主義(政治参加)はすでに形骸化し、今回の法改正では自由(異議申し立て)を失ったといえます。

 

今後、起こりうることとして、香港の多くのビジネスエリートがイギリスやアメリカ、日本などの先進自由民主主義国家に移住するかもしれません。

 

すでにイギリスが香港市民に対する市民権付与を表明しています。

www.bbc.com

 

10年後の子どもたちは、「かつて香港には自由と民主主義が認められていました」と、歴史の一部として学ぶのかもしれません。

 

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参考

 

社会派の先生に圧倒的におススメしたい雑誌3選【社会科教員向け】

 

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こんにちは、しらすです。

 

今日は教材研究や社会情勢の理解に大きく役に立つ雑誌をご紹介します。

アカデミック寄りの内容ですが、ニュースを深掘りしたり、社会問題について考察する上できっと有益な材料を提供してくれるかと思います。

 

それでは、ご紹介します。

 

 

中央公論

中央公論新社が発行する月刊誌。価格は864円+税

各巻ごとに特集を取り上げ、最前線で活躍する大学教授や政治家など、様々な論客の記事が掲載されています。

たとえば、7月号の特集は「コロナ・文明・日本」

 

特に注目したい記事は、早稲田大学教授の松岡亮二先生の記事です。

タイトルは「『やった感』はもういらない!ICT、九月入学…教育格差を是正するには?」

コロナ禍に伴う全国一斉休校で教育格差はどのような状況になっているのか?現状把握をする上でも有益な記事だと思います。

 

また、現在連載中の沖縄返還交渉の真実」という記事は社会科教員にとって非常に面白いのではないかと思います。

「沖縄の各密約をお膳立てしたのは私だ」-1960年代後半、沖縄返還交渉に深く携わった元米国国家安全保障会議NSC)上級委員のモートン・ハルペリン氏が回顧録をまとめた。「沖縄返還」と題された章では、米政府内の議論の経緯や、佐藤栄作首相の密使として知られる国際政治学者、若泉敬氏との交流が描かれている。「核抜き・本土並み」の返還、有事の核再持ち込みの「密約」は如何に実現したのか。回顧録の内容を紹介する。(本誌P.180より)

 

最近、トランプ大統領大統領補佐官を務めたボルトン氏が暴露本を出版しましたが、いつの時代も政権の内幕はエキサイティングですね。政治の世界がいかに本音と建前で動くかを象徴しています。

 

 
 
 

世界

こちらは岩波書店が発行する月刊誌です。価格は850円+税

中央公論よりもアカデミズム寄りの内容かと思います。

 

こちらも各巻ごとに特集が組まれるのですが、主に大学教授がジャーナリストなどが執筆の中心となります。

たとえば7月号の特集は「転換点としてのコロナ危機」です。

 

政治学者の吉田徹先生の「コロナ時代のデモクラシー」では、コロナウイルス対策をめぐる各国の統治体制に焦点を当てて考察をされています。次の一節は非常に示唆的です。

公文書の改竄や国会審議を迂回し続けてきた日本の現政権が信頼を欠き、死者数の少なさにもかかわらず不信感を蔓延させているのは、自ら招いた禍でもある。民主主義における信頼は、政治家の一貫性と真実を語るという資格なくして達成されない…(中略)…日本の自粛要請が法的強制力を持たず、政治的・社会的な同調圧力によってでしか達成できないのであれば、そしてそれゆえに緊急事態条項が要請されるのであれば、デモクラシーをより厚いもの、すなわち政治と社会のより緊密な相互作用と相互信頼による統治様式の創出が求められる。(本誌P.49)

 

その他、財政学者の神野直彦先生や中東政治の専門家である酒井啓子先生の論考は非常に面白かったです。

毎号、こんな感じで様々な論客の記事が掲載されています。

 

 

フォーリン・アフェアーズ・レポート

最後になりましたが、こちらはフォーリン・アフェアーズ・ジャパン

が発行する月刊誌です。価格は2300円と、ちょっとお高めです。

 

日本ではなく、アメリカの雑誌の翻訳版なので、基本的には海外の学者の論文が掲載されています。

ただ、社会科学の分野においては海外の方が研究が進んでいます。

ですから、英語は苦手だ、という人でも海外の最新情報に触れ、かつ重厚な論考に触れる機会になりますので、非常におススメです。

 

たとえば、7月号には『歴史の終わり』の著者フランシス・フクヤマ氏がパンデミックと政治、何が対応と結果を分けたのか」という記事を書いています。

 

まだ7月号は発売されていないのですが、非常に楽しみですね。

 

ただ、こちらの雑誌は価格が若干高い点と、一般の書店ではあまり見かけない点がネックかと思います。大学生や大学院生は大学の図書館を積極的に活用しましょう!

可能であれば、推薦図書として学校の図書館においてもらうこともありですね。

社会科学を志向する高校生にもおすすめかもしれません(小論部対策とかに使えるかも)。

  

 

読書

 

以上、社会派の先生にお勧めしたい雑誌3選でした。

教材研究は旬のものも仕入れなくてはなりません。

新聞やニュースはもちろんですが、こういった学術的な雑誌も旬のものを解剖して、調理するのに有益かと思います。

生徒のためにもなりますので、学校の予算で図書館においてもらったりすれば、生徒も先生も読めます。 

是非ご一読を!

 

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