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「人生をどう生きるか」がテーマのブログです。自分を実験台にして、哲学や心理学とかを使って人生戦略をひたすら考えている教師が書いています。ちなみに政経と倫理を教えてます。

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中東情勢複雑怪奇-高橋和夫『中東から世界が崩れる イランの復活、サウジアラビアの変貌』

中東情勢複雑怪奇。

 

 

日本だと中東の問題は宗教問題で片付けられることが多い。しかし、宗教だけでなく、他の視点からも切り込んでいるのがこの本である。

結論を言えば、中東情勢についてわかったことも多かったし、疑問も多く出てきた。

 

 

本書で気になったところ

サウジアラビアとイランの関係

2016年1月、サウジアラビアとイランが国交を断絶した。

サウジアラビアスンニー派、一方でイランはシーア派の大国だ。

ただ、サウジアラビアには少数ながらも、シーア派がおり、国交断絶はシーア派の人権問題が発端とされている。

しかし、サウジとイランは元来仲が悪い

そもそもサウジはアラブ人の国である。一方で、イランはペルシア人の国だ。

また、サウジにはメッカやメディナなどの聖地があり、自らを神州と自負している。一方、イランはペルシア文明の国であり、遊牧民のアラブ人を見下している。自らが中東の中心だという中東版「中華思想」を持っているというのだ。

さらには体制の違いも大きい。サウジは王制の国である。一方で、イランは1979年のイラン革命以降、共和制を採用している。革命がサウジに飛び火すれば、王制は崩壊しかねない。

こうした元々あった対立が顕在化して国交断絶となったというのが、筆者の見方だ。

 

シリア内戦の推移

『中東から世界が崩れる』

タイトルとして念頭に置かれていたのは「テロ」「難民」である。

シリアとイラクの混乱が多くの難民とテロリストを生む土壌となっている。

シリアの内戦はアサド政権と反政府側の対立である。反政府側は、さらに非宗教勢力の自由シリア軍、宗教勢力のIS(イスラム国)などに分かれる。

内戦のきっかけは2011年のアラブの春だった。熱狂した民衆がアサドの写真を燃やし、反政府デモを行い始めた。これに対してアサド政権が軍隊を動員して鎮圧し、内戦に発展したのだ。

なぜ政権は国民に発砲できたのか?それは宗派が異なるからである。アサド政権は少数派のアラウィー派シーア派の一派とも)であり、国民の大多数はスンニー派である。だからこそ、民主化がなされれば、少数派であるアサド政権は崩壊してしまう。体制の維持のために鎮圧に踏み切ったのだ。

 

では、ISはなぜこの地域で生まれたのか?

その原因はイラク戦争に遡る。2003年、イラク戦争終結に伴い、イラクの国家運営を担っていたバース党が解散された。戦前の日本の大政翼賛会のようなもので、国家のあらゆる組織にバース党が根を張っていた。

それをアメリカは解散させ、公の場から追放したのだ。失業した人々はISのリクルート活動に誘われ、こうしてISは拡大していった。日本の公職追放は官僚組織を温存したが、イラクの場合は徹底的に公職追放が行われたため、IS拡大の土壌となったのだ。

また、2011年にアメリカがイラクから撤退したため、マリキ首相が多数派のシーア派優遇策をとり、少数派のスンニー派を冷遇した。これもIS拡大の要因となっている。

 

この本について

良い点

歴史から紐解いて中東の現在を説明してくれるため、すんなり頭に入る。

宗教問題だけで片付けずに、地政学など国益の観点から説明してくれるため新しい視点を手に入れられる。

注意点

この本が出版されたのは2016年の6月。

それから2年ほどのブランクは別の本にあたるのがよい。

自分としても、以下のことがわからなかったので、調べるつもりである。

複雑ゆえに一筋縄ではいかない。

  1. イスラエルに関してあまり言及がないため、中東での位置づけが気になる
  2. サウジアラビアとトルコの関係には触れていない
  3. シリアと中東各国の関係にも触れていない
  4. なぜイラク戦争が起きたのか、アメリカの動機が書かれていない
  5. サイクス・ピコ協定前後からの中東の歴史的推移

中東から世界が崩れる イランの復活、サウジアラビアの変貌 (NHK出版新書)

 

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