新卒教員の教科書

私立高校一年目。『新卒教員としてのオリジナルテキスト』をつくろうという試みでブログを書いてます。社会科のこととかビビッときた本の書評とか日常生活のこととか。

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アメリカ外交の重層性-村田晃嗣『アメリカ外交 苦悩と希望』講談社現代新書

 

中東情勢においてアメリカの果たす役割は大きい。

しかし、アメリカという国がどういう行動原理で動いているのか、いまいちわからない。そこで手に取ったのが本書である。

  


アメリカ外交 苦悩と希望 (講談社現代新書)

 

 

アメリカ外交を見る眼-アメリカ外交を分析する視点-

 

第1章はアメリカ外交を分析する視点について書かれている。

 

著者はアメリカ外交分析に際して、3つのレベルを意識する必要を述べる。

  1. 国際システムのレベル
  2. アメリカ国内社会のレベル
  3. 大統領など指導者個人のレベル

 

次にアメリカに固有の4つの潮流である。これは大統領の性質を分析する分類枠組みである。

  1. ハミルトニアン
  2. ジェファソニアン
  3. ジャクソニアン
  4. ウィルソニアン

 

最後の視点としてアイデンティティがある。

 

3つのレベル

 

1.国際システムのレベル

ジョセフ・ナイによれば、国際システムはシステムとプロセスから構成される。

構造とは国際政治におけるパワーの分布状態であり、現在のようにアメリカ一国が突出していれば一極構造、米ソ冷戦期のように二つの超大国が対峙していれば二極構造、十九世紀のヨーロッパのようにいくつもの大国が競合していれば多極構造、ということになる。

 

一方でプロセスとは、プレーヤーがどのように行動するか、ということを意味する。国際政治におけるプレーヤーとは国家を指し、その行動如何によって展開は異なる。

主要な大国が現状維持を願って穏健に振る舞うか、現状打破を求めて過激に行動するかで、構造は同じでもプロセスは異なってくる。また、同じ国でも時代によって現状打破的であったり現状維持的であったりする。1930年代の日本は全社であったが、今日の日本は後者である。

 

構造とプロセスは相互関係にある。互いに影響を受けつつ、国際政治は進展していく。

一国にパワーが集中する過程では、他国はこれに反発して団結するか(バランス)、迎合ないし強調するか(バンドワゴン)の選択を迫られる「一極に完全にパワーが集中すれば、前者の選択は無意味である)。

 

国際システムの構造はパワーの分布状態といった。

では、パワーとは何か。

パワーは国家の有する軍事力(力)と経済力(富)と情報や文化、規範(価値)の複合体である。

  

3つ目の価値とはソフトパワーのことである。

近年においては、中国やロシアなどの権威主義国家が自国の影響力を高める際にシャープパワーを行使する、といった議論もある。 

ただIT革命がアメリカ発であり、GAFAなどのプラットフォーム企業を有するところからも依然としてアメリカのソフトパワーは強い。

 

アメリカはこれら3つのどのパワーにおいても、冷戦終結後は圧倒的な優位にあった。

ただし、2019年現在においてはアメリカの相対的なパワーの低下により、国際システム構造は多極構造となった。イアンブレマーはG0と表現している。

 

ただ、対外的な要因だけで外交政策が決まるわけではない。

それに対して国内勢力が歯止めをかけることもある。なにしろアメリカに最も批判的なのはアメリカ国民自身と言われるのだ。ゆえに視点は国内に向かう。

 

2.国内社会のレベル

 

国内社会を見る視点として、社会における宗教色の分布、またリベラルと保守的価値観の分布状況がある。

たとえば、1980年代以降アメリカでは宗教的右派や保守派の影響力が強まった。

 

また、人種構成や世代の変化も重要な視点だ。

たとえば、人種が多様化して多文化主義が台頭すれば、その反動として白人層が保守化する。

 

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3.指導者個人のレベル

 

アメリカの大統領権限は絶大である。

理想主義者なのかリアリストなのか、主教色が強いのか、国威の発揚に熱心なのか、大統領の性質によってもアメリカ外交は大きく左右される。

 

1つのレベルのみで分析してはアメリカの外交政策を見誤る。

その点で、この文章は非常に示唆的だった。

(1) 国際的要因と国内的要因が一致して同じ方向に働く時、大統領をはじめとする指導者層がこれに反して外交に果たす独自の役割は限定されよう。

(2)逆に、国際的要因と国内的要因が相反する方向に働く時、指導者層の役割は増大しよう。

(3)現在のように、国内的要因が矛盾を内包しており、その一方の潮流が国際的要因と親和性の高い場合、指導者層はその潮流に迎合しがちだが、(1)の場合ほど行動の自由を制約されるわけではない。

 

この枠組みを使って分析すれば、以下のようになる。

アメリカ外交は、19世紀には総じて内向的な小国として(1)、20世紀前半は国力を急増させながら依然として内向的な大国として(2)、第二次世界大戦後1950年代までは自覚的な超大国として(1)、そして、ベトナム戦争の本格化後、特に冷戦後は(3)の傾向にある、と言える。

 

こういう視点でトランプ政権の動向を分析すれば、色々と見えてくるものがあろう。

 

先ほどの分析レベルは他国にも当てはまる汎用的なものだった。

しかし、各国には独自の歴史や文化がある。

当然アメリカ外交にも独自の潮流がある。

 

アメリカ外交の4つの潮流

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アメリカの対外的行動には4つの潮流がある。1つがハミルトニアン、2つ目がジェファソニアン、3つ目がウィルソニアン、4つ目がジャクソニアンである。

 

ハミルトニアン国際協調を重視する海洋国家志向である。北東部の利益を代弁し、企業と連邦政府の協調を重視する。

ジャクソニアン国内の発展と安定を第一義的に考える大陸国家志向である。建国の父ジェファソンに由来し、また彼は独立自営農民が民主主義の核であるとしていた。だからこそ、連邦政府の権限は弱小であるべきだとしたのである。

ウィルソニアン民主主義的な理念を世界中に拡大することをアメリカの指名と考える理想主義である。

ジャクソニアンアメリカの物質的な安全と繁栄を最重要視し、そのためなら赤裸々な実力行使を辞さない立場であり、国威発揚に熱心な立場だ。

 

これらの関係は同列でもなく複合的である。また単体でもない。

たとえば、クリントン大統領は内政重視の点でジャクソニアンであり、人権や民主主義的価値観を重視していた点ではウィルソニアンと言える。

 

根底にはジャクソニアンがあり、国家の危機に際してはこれが浮上するため、アメリカは国益を最重視して強く連帯するのである。ただし、逆に言えば、国家的危機が起きない場合は、ジャクソニアンは影をひそめることがある。

 

ちなみにハミルトニアン共和党の、ジャクソニアンは民主党の源流となっている。

北東部の企業家が共和党の、南部の農家が民主党の元々の支持者だった。

 

アイデンティティについて

 

自己イメージという言葉がある。

自分がどんな人間なのか、という自己認識によって自らの行動を規定するのは、自己イメージによる。これがアイデンティティに基づく分析である。

 

たとえば、アメリカは元々ヨーロッパから逃れてきた人々が建国した。

権謀術数のはびこる旧世界(ヨーロッパ)には関与しない、という自己イメージを持つ人がいれば、孤立主義を選ぶし、一方で世界をアメリカ化しようというインターナショナリストがいれば、積極的な対外関与へと進むだろう。

あるいは帝国という自己認識があれば、その通りに行動するかもしれない。

 

以上の3つのレベルを筆者はこのようにまとめる。

アメリカ外交の歴史を概観しようものならば、国際システムと国内政治、個人という三つのレベル、パワーを構成する力、富、価値という三要素をヨコ軸に、四つの歴史的潮流をタテ軸に、さらにはアイデンティティーまで意識しながら、アメリカ外交を考察するという難題が、われわれを待ちかまえている。

 

本書の価値

 

本書はこうした視点を懇切に解説したのちに、アメリカの歴史を建国からブッシュ政権時代まで分析の枠組みに基づいて描いている。

国際政治学における理論を現実の事象に当てはめて丁寧に解説しており、手ごろな新書でそのエッセンスを味わえる点で非常に価値がある。

 

ただ惜しむらくは出版が2005年と古く、14年前の情報だという点である。続編を出してくれないだろうか。

ただ、ある視点をもってブッシュ政権時代を眺めてみると、すでに現在のトランプ政権の萌芽がみてとれる。

 

トランプの行動の背景は何なのか?

そうしたことを考える視座をもたらしてくれる点で有益だと思う。

 

何より筆者の洗練された文章力にあっと引き込まれる。

 

また、中東政策の背景を様々な視点から眺めることができた。

たとえば、キャンプ・デーヴィッド合意の背景には「人権外交」を掲げるカーター大統領のウィルソニアン的な人格があった。その一方でイランの人権抑圧に目をつむったのは当時の国際システムが要因としてあった。

世界が結びつく体験を味わえた。

 

ある事象は連鎖反応的にさらなる事象を誘発する。

世界は有機的に結びついている。

 

最後に本書冒頭の言葉で結びとしたい。

「一つの国についてしか知らない者は、実はその国についても知ってはいない」-アレクシス・ド・トクヴィル