新卒教員の教科書

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新卒のあの頃の自分へ向けたメッセージをつらつらと書いております。『新卒教員としてのオリジナルテキスト』をつくろうという試みによるブログ。社会科のこととかビビッときた本の書評とか日常生活のこととか。

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【書評】公民を教える先生におすすめ-牧野淳子『投票に行きたくなる国会の話』

 

公民を担当される先生、この本すごいおすすめです。

社会をより良くするためにどうすればよいのか、具体的な政治参加の在り方が書かれています。新科目「公共」で強調されている「政治参加の手法や原理」、特に国会への働きかけの方法について「そんな方法があったのか!」と視野が広がりました。

 

 

 投票に行きたくなる国会の話

 

 

本書の内容

日本は国民主権の国です。ですから、原理的には統治機構は国民全体の意見を反映するためのものです。でも、実態はどうかを見ると、まあひどいわけです。国民全体ではなく一部の人にいいように制度が「つくられている」か。そして、いかに一部の人の意見「だけ」を吸収する仕組みを作っているか。

 

なんだか王制のような仕組みですが、そもそも権力の暴走を防ぐために、日本国憲法では三権分立が制度化されています。

まず国会は政治を行うところ。次に、行政府は立法を実行するところ。そして、裁判所は立法・行政へのチェックをする。なぜ三権分立が取られているかというと、人間が時には間違いを犯し、暴走するから。つまり、プレコミットメントの発想です。

そして、三権だけではなく、国民も同様の監視を求められるのです。憲法12条に書かれている「不断の努力」がまさにそれなのです。

その手段にはデモや議員への働きかけなどがあります。本書で強調されているのは、いかに日本の制度が非民主的であろうとも、あきらめてはいけない。よりよくしていこう、より国民の声を反映していこうと行動することが大切であるということです。

 

国会のしくみ

国会は政治を行うところであり、政治とは結論を出すために意見調整を行うこと。民主主義国家だからこそ、全国民の意見が調整されなければなりません。しかし、現状は省庁や業界など一部の人の利益が優先されてしまいます。

そのわけは立法の仕組みにあります。

法案には2種類あります。まず内閣提出法案、そして議員提出法案。

日本では内閣提出法案の成立率がものすごく高いです。さらに法案の審議は出した順ではなく与野党で合意ができたものから。ですから、たいていの議員提出法案は時間切れで廃案となってしまいます。しかも、国会で審議される段階でもう与党では法案への了承が済んでいますから、どうしても成立させたい法案の場合は野党の反対を押し切って強行採決に臨みます。

そもそも内閣提出法案の起草は官僚によるものです。で、官僚での合意形成がなされた後に、内閣法制局という法律のプロである官僚が憲法に違反していないかなどをチェックします。そして与党への説明がなされ、党が了承すれば閣議にかけられ国会に提出されれます。この時点で何段階ものチェックを受けており、もし問題点が見つかっても、国会で修正されることは滅多にありません。

与党議員は賛成のために一票にすぎず、修正はもちろん否決もされないことが多いために国会では居眠りが多い。つまり、もうかなりの程度でチェックを受けているため、国会でその法案をチェックする余地が与党にはないし、そもそも閣議にかける前に与党がOKサインを出しているから、党議拘束で動く与党議員がそれをチェックするはずもないわけなんですね。

 

予算も同じ

こうした非民主性は予算も同様です。

税制や予算編成については各業界団体の意向を受けて官僚が起草します。こういう予算を作ります~と言って、それに従わない自治体には予算配分を恣意的に減らすなど、非公正な予算配分が行われたこともありました。

ちなみに国会の仕事は3つあります。1つが立法、2つ目が予算の審議、3つ目が行政の監視です。予算の審議はほとんど行われていませんし(メディアで放送する予算審議会くらい)、行政へのチェックも甘いです。

 

 

行政のチェック

行政をチェックするのが国会の仕事です。ただ、身内に甘いのは人の性です。ですから外部である国民が監視する必要があるんですが、その仕組みが十分になかったのが日本の行政制度でした。

たとえば、行政手続法。これは行政の仕組みの透明性を確保するための法律でしたが、成立したのは1993年。しかし、成立しても意見を反映する仕組みがない形式的な法律でした。それが2005年の法改正でやっとパブリックコメントが導入されます。ただ、実際の運用面は「しかたがないからやっている」だけになっている自治体が多いようです。

 

また、公文書(行政文書)についても日本の民主主義の未熟さを示唆しています。

 

原則として情報公開法は公文書管理法とセットで意味を持ちます

なぜなら、情報公開をしても、公開をする公文書がなければ何も見ることができないからです。

日本の場合、情報公開法にだいぶ遅れて2009年に公文書管理法が制定されました。けれども、官僚が抵抗したため、公文書の範囲が狭いことが問題となっています。行政を縛るためには国民の意見を反映するルール作りをしなければならない、そのための立法の役割の大きさを感じずにはいられません。

 

 

大事なことは国会の監視機能を生かすには国会議員を使って民意を反映させる事です。

その手段として、行政に問題を提起し、認識させるために一般質問やヒアリング、請願(憲法86条)があります。

 

裁判所

裁判所は立法・行政の暴走をチェックする機能を持っています。

しかし、行政に対するチェックは甘く、たとえば公共事業において計画段階での是非を問う裁判は起こせません。

また、国会にもチェックが甘く、違憲立法審査権はほとんど講師されません。日本の場合、具体的な事件に際して違憲審査権が行使される付随的違憲審査制が取られていますが、それが1952年の判例から定着していくわけでございます。

 

おすすめポイント

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社会をより良くしたい、という思いを現実化するにはなんだかんだ行動することが大切です。

けれども、いざ行動するとなると、「どうすればいいの?」となってしまう。だから、本書はそういう思いにこたえて、政治参加の方法が書かれています。

政治は複雑でよくわからないことが多いです。でも本書では統治の原理に即して「本来の姿」と「現実の悲惨さ」、そして「どうして現実はそうなってしまうか」という背景を描いているため、冷静にどこをどう変えていけばよいのか具体的な課題が見えてきます。

 

やさしい言葉で

本書は極めて平易な言葉で書かれているため、中高生にも理解しやすい内容です。

これを足掛かりにして別の本へと進むのもありかと思います。

 

本を取ろうと思った動機

授業をしていて統治機構に苦手意識を感じていました。仕事柄過去問を解いていて問題を間違えた時に、「よし!統治機構の本を読みまくろう!」と思い、まず手に取りました。

この分野は制度なので単純な知識の羅列に感じてしまう。けれども、実は制度の背後にはその正統性たる原理があって、それを実体化すれば制度になるんだと、そして原理と運用(実態)にどれほど乖離があるのかと、そういうことが本書を読んで見えてきました。

 

ぜひ手に取って

公民を担当される先生はもちろん、中高生にも読んでほしい本です。

選挙の有効性が疑問視されても、結局社会をより良くするには立法の役割が大きいです。

問題が何かを知り、どうすれば改善できるか、それを知るはじめの一歩として本書はうってつけだと思います。

 

最後に本書の終わりに書かれた言葉で締めくくりたいと思います。

一票を投じたら終わりではありません。おかしなことが起きているなと思ったら、なぜかと問い、正しく知って、議員やメディアや、少なくとも周りにいる人たちに伝えることで、その不完全な一票は充実し始めます。

少しずつ、国会や行政や裁判所の使い方がわかっている一部の人だけが利益を得る社会から遠ざかり、「みんな」のための社会に近づくのです。政治はあなたが過ごす毎日の積み重ねです。(207頁より)