Shiras Civics

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「人生をどう生きるか」がテーマのブログです。自分を実験台にして、哲学や心理学とかを使って人生戦略をひたすら考えている教師が書いています。ちなみに政経と倫理を教えてます。

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【書評】日本のルール=行政を知ろう-新藤宗幸『行政って何だろう』

 

水道事業の民営化が決まりました。

政府部門の民営化はイギリスが先行していますが、かの地では格差が拡大したことで社会的排除が問題となっています。

日本でも、特に2000年代から新自由主義的改革が進み、政府規制が緩和されていきました。行政の仕事がどんどん市場に任され、政府の規模が小さくなっていく。果たしてそれは何をもたらすのか。

そうした行政の問題を知るのにうってつけの本がこちらです。

 


行政ってなんだろう (岩波ジュニア新書)

岩波ジュニア新書は中高生向けの本ですが、タイトルからは想像できないほど厚みのある内容です。

私たちの日常生活のあらゆる部分に行政活動は関わっています。この本は、日本の政治のルールブックともいえるかもしれません。

 

  

おすすめポイント

行政に関するスペシャリストの筆致は重厚ですが、一方で非常に分かりやすい言葉で書かれています。

日本の行政がいかに官僚の影響力が大きいか、そして国民の声を反映するためにはどうなるべきか、それを筆者は丁寧に伝えてくれています。

 

おすすめの方

教材研究で行政の仕組みをさっと知りたい方

行政の仕組みが複雑でよくわからないけど、関心がある方

高校生で行政学政治学を将来勉強しようと思っている方/公務員試験で行政学が試験科目で出題される方

 

ざっくり内容

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日本では行政の影響力が非常に大きいです。

憲法65条によれば、行政権は内閣に属します。内閣は議会の統制を受ける、つまり法的な根拠を基にして行政の権限や組織が規定されるわけです。

しかし、実際は公務員の裁量は非常に大きく、法律だけでなく、政令や省令、内規、そして現場の公務員の裁量(判断)など民主的な統制を免れてしまうわけです。

 

戦後、GHQの占領を経ても戦前から行政の影響力は温存されてきました。

戦前は公務員は「天皇のための官吏」でした。しかし、戦後は「国民のため」の組織に生まれ変わり、議会の統制を受けるようになります。また、戦前は中央省庁の出先機関に過ぎなかった地方も「地方自治体」として地方自治の主体になりました。

ですが実態は依然として戦前のような強い中央政府の影響力が保持されていました。それが最も現れていたのが中央と地方の関係です。

2000年に施行された地方分権一括法で、機関委任事務が廃止され、法定受託事務自治事務、国の直接執行事務の3つに再編されました。機関委任事務とは、中央政府の業務を地方自治体が代わりに行うというもので、高度成長に伴って増加の一途をたどっていきました。たとえばパスポートの発行は外務省の管轄ですが、実際の業務は各都道府県が担っており、地方自治体は戦後においても出先機関とされたのです。

これが廃止され、法定受託事務になりました。以前のように省庁の通告・通達にただ従うだけではなくなったのです。そうなれば、その解釈が中央と地方で分かれますから、紛争が起こりえます。そのためにできたのが国地方係争処理委員会でした。国と沖縄県が国地方係争処理委員会で対立を繰り広げる現在において非常に示唆的に思えました。

 

こうした改革が進められている中で、特に小泉内閣以降進んでいるのが新自由主義的な改革、小さな政府への回帰です。

成長部門と衰退部門を分け、成長部門にお金が流れるような仕組みを作りました。ただ、格差が拡大する中で果たしてその改革の流れは正しいのか、と著者は疑問を呈します。

そして、大事なことは政府の業務をいたずらに減らすのではなく、公正なルールの下に行政を置くことだと言います。

民主的統制を受け、国民の声を反映する行政にすることが大事だ、そう筆者は言うのです。

 

こうした内容に加えて、行政の概念や行政と国家の関係の変遷、行政の権限などを具体的な事例を交えて書いています。

 

少し古いのは残念

新版ですが、2008年に書かれているので、10年以上の情報のギャップがあります。そこは別の本で埋めるといいかと思います。

 

まとめ

行政は日常生活と密接にかかわっています。その仕組みを知ることは、我々の生活を改善するはじめの一歩だと思います。その歩みを助けてくれるこの本を強くお勧めしたいと思います。

最後に筆者の言葉で締めくくりたいと思います。

行政の活動は複雑な制度に支えられており、また、法律や政令、予算といった読み解くことが容易でない数々の規範を駆使しながらおこなわれています。それだけに、行政を理解することはむずかしいといわれるのですが、読者のみなさんが行政の意味を考え、それをコントロールすることに、この本が役立つならば幸いです。(230頁)

  

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