積読の消化期間に入っています。
統治機構を勉強するなら日本の現代史はもう一度おさらいしよう!ということでこちらの本を手に取りました。
出版は2005年。およそ15年のロスは最近ブームの「平成史」関連の書籍を手に取っていただければと思います。
おすすめポイント
若干古いとは言えども、サクッと戦後の歴史を俯瞰するにはうってつけの本です。
本書の特徴は2つ。「貫戦史」と「1960年体制」を基軸に据えているところです。
貫戦史とは、戦争がその後の社会にどのような影響を与えたか、戦前との連続性に重点を置いて著述することです。戦争のインパクトがいかに大きいかがわかります。
また筆者は一般的な1955年体制ではなく、1960年体制を用いています(あるいは経済的には1940年体制が一般的です)。その理由は1960年代に戦後日本の基本的枠組みが形作られたからです。
著述の方法としては、日本の戦後史を政治・経済・社会・文化に分け、その時の筆者の記憶を交えながら書き進めていきます。
歴史上の事象に立ち会った人間にしか書けないであろうリアルな感覚が読んでいくうちに伝わってきます。
おすすめの方
これから戦後史を勉強しようと思っている方
政治や経済を勉強したけども、それらが日本の現代史でどのように動いてきたかを知りたい方
手っ取り早く戦後の歴史を知りたい方
※筆者は左寄りな思想で、かつ記憶史という方法によりリアルさのある文章が書かれています。
勉強を目的とするのであれば、ある程度思想の方向性を理解した上で、それを相対化しつつ読み進めることをお勧めします。
ざっくり内容
戦後のイメージは何でしょうか?
筆者は反戦・平和・民主主義・貧困からの脱出としています。
そして筆者は戦後を4つの時期に区分します。
第1期が1945年から1960年
第2期が1960年から1973年
第3期が1973年から1990年
第4期が1990年から現在(2005年)
第1期は講和問題と日米安保で日本が揺れに揺れました。
日本は国際社会の動向に大きく左右されてきました。
アメリカに占領された当初は非軍事化と民主化が主眼に置かれていましたが、朝鮮戦争の勃発と中華人民共和国の成立により対日政策が180度転換します。
当時ヨーロッパでは冷戦構造がほぼ確立していました。
冷戦下において日本の地政学的重要性を鑑み、アメリカは再軍備と経済復興に注力します。
そうした中で日本を自由主義陣営に引き入れるため、アメリカは講和の準備を進めていきます。
そして朝鮮戦争のさなかである1951年、サンフランシスコ平和条約が締結されました。同時に日米安保条約も締結されます。
約10年後、岸信介首相が日米安保条約の改定を行いました。激しい安保闘争が繰り広げられ、また三池炭鉱での激しい労働闘争も行われていました。
筆者は1950年代を政治闘争の時期としています。
個人的に面白かったのは憲法第1条と9条、そして沖縄との関係です。
憲法1条で象徴天皇制が取られたのは、天皇の戦争責任を問う諸国に対する配慮であり、また再び天皇が大元帥として再軍備を行わないように、憲法9条で武力放棄が定められました。
そして不戦を高らかに掲げ独立する一方で、沖縄はアメリカの委任統治領とされ、米軍基地がずっと置かれています。
本土の平和主義と象徴天皇制は沖縄の軍事的な犠牲の下にあったのです。
第2の時期に戦後日本の基本的な枠組みが決まっていきました。
たとえば、GATTやIMFなどへの加盟がそれを象徴しています。
池田隼人首相は戦後の日本は開放経済の中で、つまり諸外国との競争の中で経済発展をしていかなければならないと説きました。
でも、世界銀行からの借款で新幹線や高速道路が作れらたり、先進国からの技術供与があったことは間違いなく高度経済成長を促進する要因となりました。設備投資の近代化が進み、重化学工業が進んでいきました。
また政治的にはベトナム戦争や沖縄返還、日中国交正常化などがありました。
ベトナム戦争では日本だけでなく韓国にもアメリカは協力を求めます。当時の韓国経済はボロボロで、大量の失業者がいました。戦後の日本は未だに講和条約を結んでいなかったのですが、ベトナム戦争をきっかけに急速に交渉が進みました。結果、1965年に日韓基本条約が結ばれ、賠償金ではなく経済協力の名目で韓国にお金が支払われました。
ちなみに日韓基本条約を締結した佐藤栄作首相のねらいは、アメリカに貸しを作ることで沖縄返還交渉を有利に進めることでした。頭いいですね。
時の米大統領ニクソンは中国を訪問します。これは中ソにくびきを打つと同時に、沖縄返還を遂げた日本が台頭しないようにアメリカに接近する中国の意図もありました。
こうして次の田中首相は中国との国交正常化を政治課題とするのです。1972年に日中共同声明、1978年には日中平和友好条約が結ばれました。
また田中角栄と言えば列島改造計画です。この計画で日本中で投機ブームが起き、地価が高騰します。そこにオイルショックが起きたわけですから、インフレが加速します。教科書に書いてあるオイルショックによるインフレは前段階としての列島改造計画による投機ブームが裏にあったのですね。
※高度経済成長期以前は主婦も重要な労働力であり、高度経済成長期に家族を養えるほどの所得を夫が得るようになったことで専業主婦という家族形態が現れたという箇所は面白かったです。というかそんなに所得もらってたのか。すごい。
第3期はオイルショックからソ連の崩壊(1991年ですが)までです。
オイルショックを機に、企業の減量経営がはじまります。また政治的にはサミットが開催され、ここで日本は金持ちクラブの仲間入りを果たしました。つまり、戦後のイメージの一つである「貧困からの脱出」を果たしたのです。
1985年のプラザ合意と翌年の前川レポートによりバブル経済に突入し、日本経済は絶頂期を迎えていきます。バブル経済の説明は詳しかったですね。
ですが、バブルは崩壊し、冷戦も終結します。ここに昭和天皇の崩御が重なり、一つの時代が終わったと筆者は言います。
第4期はポスト冷戦の時代です。
湾岸戦争は日本の安全保障政策を大きく変えました。
金だけ出すのか、という国際社会からの批判に日本はPKO協力法を制定して遂に自衛隊を海外に派遣できるようにします。
その後、9・11直後に小泉首相は、クウェートに感謝されなかった日本の赤っ恥を繰り返さない、湾岸戦争の轍を踏まないということで、テロ対策特別措置法を制定し、後方支援を可能としました。
こうした対米従属を筆者は強く批判します。
筆者は言及していませんが、個人的には小泉首相あたりの規制緩和をはじめとした新自由主義的改革は第5の岐路なのではないかと思っています。
郵政民営化や規制緩和など市場の影響力を強めることで経済の活性化を図ろうということですが、所得の中央値が下がり、生活保護世帯が増加し、格差が大きく拡大している状況を見ると日本社会は大きく変わったのではないかと思うのです。
本文中に引用されていた山田昌弘氏の「希望格差社会」という言葉が胸に刺さりました。
甲乙つけがたい
60年の歴史をおよそ280頁にまとめているので、さっと読める一方で薄いところは本当に薄いです。
たとえば、高度経済成長やバブル経済の要因について詳しく述べられている一方で、金融ビックバンや小泉首相の構造改革についてはサラッと書かれている程度です。
ただ貫戦史を叙述方法として採用しているだけあって、戦争に関してはそれなりに詳しく書かれています。もちろん、戦争の経緯ではなく戦争の影響についてですが。
また、参考文献が随所に書かれていますので発展的に勉強することも可能です。
まとめ
やはり歴史は面白いですね。
私自身の信条としては、「今の社会を相対化すること」に歴史の意義があると考えています。
特に近現代史は現在の社会の枠組み・仕組みが多く作られた時代ですから、多くの人に学んでほしいところです。
「へ~そうだったのか!」となる、
まさに今の日本を相対化するきっかけになる一冊です。