Shiras Civics

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「人生をどう生きるか」がテーマのブログです。自分を実験台にして、哲学や心理学とかを使って人生戦略をひたすら考えている教師が書いています。ちなみに政経と倫理を教えてます。

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【書評】地方自治の時代へ-村林守『地方自治のしくみがわかる本』

 

修了式が終わりました。教員一年目は終わりましたが、勉強が終わることはありません。積読の消化にまいります。

 

 

今回はこちら。

地方自治のしくみがわかる本 (岩波ジュニア新書)

地方自治のしくみがわかる本 (岩波ジュニア新書)

 

 

岩波ジュニアは高校生向けのシリーズですが、侮るなかれ、大人が読んでも十分読み応えのある内容を備えています。

本書も例にもれず、非常に丁寧に説明がなされており、非常に優れた入門書と言えます。

 

おすすめポイント

1.難しい地方自治の制度が丁寧に説明されている

2.歴史的な変化を踏まえて現代における地方自治の在り方を描いているため、今後の変化の見通しができる

 

地方自治とは地域的な政治システムのことです。ここでの政治システムとは法律など強制力で人々をまとめ上げる仕組みを指します。もっといえば地方自治体による地域統治のことです。

 

筆者の主張は「地方に裁量を!」というもの。つまり地方自治体の権限を増やす地方分権の推進を訴えています。

 

ではなぜ地方の裁量を増やすべきなのか、また地方自治の現状はどうなのか、といった疑問が浮かぶかと思います。

 

地方と中央の関係はどう変化してきたか

 

地方自治体は住民との距離が近いため行政サービスなどに対して住民の声が反映されやすいことが特徴です。ですが、行政サービスの内容は中央政府の意向が長らく反映されてきました。そして、それは社会の動態に連動して変化していったのです。

 

戦後すぐの焼け野原、多くの人々は貧困にあえいでいました。ですから行政サービスの主眼は安定的な食糧供給に置かれました。

 

やがて高度経済成長期になると全国一律での発展が求められます。土建国家と揶揄されることもありますが、金融規制や公共事業をはじめとした政府による産業振興策によって経済成長が図られました。国民全体が豊かになる中で一部の低所得に苦しむ人のために社会保障政策が整備されました。

こうした中で自治体に求められたことは公共事業と社会保障の地方における国の出先機関的な役割でした。そのおかげで全国一律の水準のサービスが提供され、日本全国が格差を縮めていきましたが、地方自治に政策決定の余地はありませんでした。

 

しかし、バブル崩壊後の1990年代に突入すると、経済成長も停滞するようになります。

1990年代は自由化の時代でした。日本版金融ビックバンやコメの関税化など日本が国際経済の荒波に飛び込み、グローバル経済に飲み込まれていきます。

そうなると終身雇用や年功序列の給与体系では日本企業は戦えません。企業は中央政府に働きかけ、これらの制度が崩れていきます。労働規制が緩和され、非正規雇用が増加しました。特に生産性の低い教育や福祉業界では非正規雇用の問題は深刻です。

 

また重化学工業からサービス産業へと中心産業が変化したことで働き手にも変化が起こります。肉体的な労働を中心とする男性が働き手の時代から、頭脳労働が中心となったことで女性にも活躍の道が開かれていきます。

こうした雇用の変化は家族にも変化をもたらしました。共働き世帯が増え、また核家族で、しかも専業主婦が消えたことで地域での支え合いもなくなるようになりました。

 

こうした中で福祉サービス、すなわち保育や高齢者サービスの充実が求められています。

これらの行政サービスは地域によって事情が全く異なります。たとえば、人口が50万人弱の鳥取県と1300万人ほどの東京都では全く異なるでしょう。だからこそ、全国一律のサービスの提供ではなく、地方に裁量を与えることが求められているのです。

 

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地方自治体と中央政府の仕事の変化

 

地方には裁量はないんでしょうか?

否、2000年以降は着々と地方にも権限が委譲されています。

それまでの流れも観てみたいと思います。

 

中央政府が全国一律にサービスを提供できたのはなぜか。

それは機関委任事務というものの存在が背景にありました。

機関委任事務とは本来は国の仕事だけども地方自治体が代わりにやる仕事のこと。

 

全国的に格差を縮小し、経済発展を目指す高度経済成長期には有効に作用しました。しかし、成長が停滞すると地域課題が様々に噴出してきます。地方の権限増加が求められるようになりました。

 

そこで1999年地方分権一括法が制定され、翌2000年に施行されます。

機関委任事務法定受託事務自治事務、国の直接執行事務に分けられ、地方に大きく裁量が任されます。

権限の委譲に伴い、税源の移譲も議論されます。

これまでは国の仕事を自治体がやるということで地方交付税や国庫補助金など財源保障を国が行っていました。

しかし、真に裁量を任せるのならお金もなければならんということで行われたのが三位一体の改革でした。

地方へと税源を移譲するという目的で、国庫補助負担金が4兆円、そして地方交付税5兆削減、そして地方税が3兆円増加することとなりました。簡単に言えば、転職したら基本給は3万円増えましたが、その代わり手当が9万円減った、差し引き6万円のマイナス(6兆円のマイナス)ということです。

 

おわかりのように改革はうまくいかず、むしろ自治体間の格差を拡大させました。中央政府財政再建地方自治体の改革が利用されたのです。

 

つまり、仕事上は裁量は増えたけれども、お金の裏打ちは確保できていない、というのが地方自治体の現状です。

 

おすすめの方

地方自治に興味を持つ大学生/高校生/中学生

大学受験を控える高校生。
ちなみにセンター試験現代社会や政治経済で地方自治は頻出分野です。

社会科/地歴公民科の教員
教材研究の入門書としてぴったりかと思います。ここから発展して西尾勝先生の行政学などに手を出すのもいいかと思います。

 

授業のアイデア

 

次のようなところで使えそうな気がします。

 

中央政府と地方政府の理想的な在り方を問う

(社会のグランドデザインに関する考えを持たせる)

行政委員会の説明

(時の政権に左右されないために執政府(市長・都道府県知事)から独立している)

地方自治体と国の関係における英米型と大陸型のところ

 

まとめ

 

地方創生が叫ばれ、地方を活性化させようという施策が積極的に行われています。

ですが、国が一声号令をかければ全国が地方創生に右向け右をしてしまうのは、未だに国の影響力が強いことを物語っています。

 

今後、地方自治体の役割はどんどん増していくと思われます。

始めの一冊として手に取ってみてはいかがでしょうか。