学校の役割は何でしょうか。
デレックヒーターというイギリスの政治学者がいます。
彼はこんなことを言っています。
自由民主主義国家における教育は、個人の発達と子どもたちを生まれた社会に適応させるという2つの目的を持つものである。
学校に求められる役割として、子どもの成長はもちろん、社会においてふさわしい規範を身につけ、しっかりとコミュニケーションをとれる社会性を身につけることは非常に大切です。
しかし、「社会への適応」を単に現状の社会を肯定するという意味でとらえてはいけません。
教育基本法の第一章にはこう書かれています。
教育は、人格の完成を目指し、平和で民主的な国家及び社会の形成者として必要な資質を備えた心身ともに健康な国民の育成を期して行われなければならない。
社会を作るのは一人ひとりの国民です。そして、民主主義である以上は、その社会の方向をどうするかは国民が決めることです。だからこそ、国民には社会を変革する主体としての能力が求められます。具体的には、ルールを作り、不必要なルールは廃止するといった立法的作為に関する能力です。自分たちにどのようなルールが必要なのか、そしてそれを実現してくれるであろう人を選ぶ能力です。
しかし、訓練もなく、そうした高度な能力が培われるはずはありません。
とするならば、誰しもが経験する学校の中でその訓練を行うことが最も合理的なわけです。
ルール(制度)には目的があります。しかし、いつしか本来の目的を離れて、ルールは人々の行動を規制するようになります。そうして、時代を経ても残ったルールは「理不尽なルール」として人々を苦しめるようになります。
それがブラック校則です。理不尽な校則に子どもたちは苦しめられ、時には人権をないがしろにされることもあります。
社会的に見れば、こうした理不尽なルールにメスを入れるのは司法の役割です。
尊属殺重罰規定や薬事法距離制限など、憲法に違反した法律に対して裁判所は違憲判決を下してきました。それが社会を変えてきたのです。
しかし、学校には司法府の役割を持つ組織がありません。ですから、ルール策定者がいなくなっても、ルール自体はいつまでも残り続け、いつの間にかルールに沿って学校が動くようになります。本来の意義はどこかへ行ってしまうのです。
ただ、大切なことはルールは人々のためにあるということです。そして、ルール作りをするのは、最終的には主権を持つ国民です。ですから、学校現場でやるべきことは、子どもたちが自分たちを律するルール作りに参加することです。きっと自分たちが合意したルールにこそ愛着がわくでしょう。法の支配を学齢期から徹底させるのです。
そうした取り組みの例としての西郷校長の取組みは非常に注目に値するものだと思います。
校則をなくしたことで、かえって生徒の動きが良くなった
校則が割と厳しめで育ってきたからか、正直この記事を読んでもイメージがつきません。ですが、個人的には非常にいいと思ったところは次の点です。
普通、生徒総会は何も面白くない。つまらないじゃないですか。そこで何を言っても、最終的に先生が決めるのなら、総会で意見が出るはずもありません。だから、「ここで決まったことは実現するよ」と言ったんです。最低でも、決まったことを先生が実現する努力を見せる。すると、どんどん意見が出て盛り上がります。僕の考えと同じことを言う生徒がいると「シメた!」と思うんですよ(笑)。
最近実現したことは、校庭に芝生を植えたこと。ただ、野球やサッカーもしますし、植えたのは一部にしました。また、定期テストをなくしました。
生徒会は、社会で言えば国会・行政に当たる組織です。
公約を掲げ選ばれた生徒会ですが、多くの学校では教員の裁量権が大きい組織なのではないかと思います。また、公約も実現することはほとんどないかと思います。
しかし、この学校は民主主義の原則が徹底されている。
民意を反映し、それを実際に実現する、制度的な面できちんと運用がなされている。民主的な制度がしっかりと整備されていれば、子どもたちも参加する意欲をもつ。まさに、疑似社会としての学校が、社会の形成者を育てようという試みを貫徹しようとしているのです。
先生方、特に西郷校長先生の支援があってこそのものでしょう。
こうした経験をした子どもたちが民主的なマインドを持ち、社会の理不尽なルールに立ち向かう強さを持ってほしいと思います。
ですが、他の学校でいきなりこうした取り組みを行うことは困難を伴います。また、現状の社会制度がここまで民主主義が徹底されたものではなく、卒業後に生徒たちが挫折してしまう可能性もあります。こうしたところは懸念されるべきところでしょうか。
なにはともあれ、自分自身の影響力の輪を考え、まずは教室からこうした民主的な雰囲気を醸成したいですね。
子どもたちが安心、安全に意見を言える環境の整備。そこから目指したいと思います。