金融政策?ふーん?
めまぐるしく届くニュースの中でも、金融政策ほど生活から遠く離れたものもないかもしれない。
難しいニュースを見たところで、出てくる言葉は「ふーん」という人も多いだろう。
けれども、金融政策の最終決定者は我々国民であって、その動向を注視することは極めて重要なことなのだ。そんな戒めを述べているのが今回紹介する「金融政策入門」である。
筆者は述べる。
金融政策というと、中央銀行のだれか偉い人が決めているというような感じを持たれているかもしれませんが、実は(間接的ながら)国民自身が決定し、その結果はみずからが引き受けるという覚悟で臨んでいる。そうした感覚を常に持ち続けることの重要性を、最後に改めて強調しておきたいと思います(P240)。
大原則は、主権者である国民自身が国のかじ取りを決めることである。国民の生活から乖離した政策決定は正当性をもたない。
では、金融政策とはそもそもなんなのか。また、国民生活にどのような影響をもたらすのだろうか。本書は初歩的な用語も丁寧に説明しながら、金融政策の大枠を提示してくれる。筆者の親切な人柄が垣間見える一冊である。
金融政策とは何か? 国民生活にどんな影響があるのか?
金融政策を定義する前に、金融の定義をしたい。
本書によれば、金融とは「手元に資金が余っている個人や組織が、資金を必要としている経済主体にそれを提供して利用させることである」(P2)。
こうした金融の機能を健全な状態に保つことも金融政策の役割の一つである。
さて、本書の中で金融政策は次のように定義されている。
政策担当者が、一定の意図をもって通貨・金融面から経済主体の行動に働きかけ、その意図を実体経済面に実現させるべく努力する一連の行為である(P22)。
金融政策の目的は物価の安定と景気の調整の2つである。
物価や景気の状況は国民生活に大きな影響を及ぼす。たとえば、不動産価格などが急激に上昇したバブル時代においては、勤労者が都市部の住宅に手を出せないほど、住宅や土地の価格が高騰した。また、不況になれば企業は採用人数を絞るため、多くの大学生が就職活動で苦戦するようになる。就職氷河期世代と呼ばれる世代は悲惨な状況にある。
マクロの経済動向が人々の生活を左右する。そうした経済動向を調整するために、政府は財政政策を、中央銀行は金融政策を行っているのである。
ただし、その具体的な手法は金政策の担当者によって異なる。
そうした意図を知り、その流れの中で合理的な行動をとれば、生活を豊かにすることもできるだろう。
たとえば、政策金利を下げれば、預金をしていても大してリターンがないため、投資や消費が活発になる。そうすると、金融商品の価格が上昇し、配当金を多く得ることができるかもしれない。
現在、日本には1000兆円以上のお金が存在する。このお金の流れに働きかけるのが日銀であると考えれば、金融政策を理解し、その流れを読むことは自立にとって非常に重要だろう。
そして、政府と日銀が一体的に動いているとすれば、国民が金融政策のかじ取りを決めるのが理想的な姿といえよう(ただ、中央銀行は政府から一定程度独立すべきなので、デリケートな問題ともいえる)。
主権者教育として
日本証券業協会には以下のような記述がある。
2017 年 10 月、衆議院議員総選挙が実施されました。その際、読売新聞は「投票する候補者や政党を決めるとき、とくに重視したい政策や争点は何か」などを問う「電話全国世論調査」を実施しました。この調査では、有権者が投票する上で重視する「政策や争点」の上位3つが、「景気や雇用」「消費税など税制改革」「年金など高齢者向け社会保障」であるという結果が明らかになりました。すべて経済関連です。景気がよくて、雇用が安定している。これは、誰にとっても望ましい状態です。この点については争点はありません。
では、この状態を政策的にどう実現するか。「金融を緩和しながら、財政支出を拡大する」のか。「いや、その政策では、財政赤字が拡大して、将来不安が高まるから、人びとが消費を減らしてしまい、景気が悪化する。
むしろ、消費税率を上げて財政赤字の解消を図ることこそ必要だ」。さて、どちらでしょう。政策をめぐる争点です。このような政策をめぐる争点に、主体的に判断できる能力こそ「主権者として求められる力」です。これは、ある政策を採った結果を、短期的だけではなく、長期的にも見通せる力、と言い換えてもよいかもしれません。
読売新聞のアンケート結果にあるように、投票の際、重視したい「政策や争点」の上位は経済関連の事項が占めています。だとすれば、「主権者として求められる力」の育成には、金融経済教育が重要になります。
まさに「今日の経済活動に関する諸課題について着目し、主権者として、よりよい社会の構築に向けて、その課題を解決しようとする力を養う」ための金融経済教育が必要とされているのです。
http://www.jsda.or.jp/gakusyu/edu/web_curriculum/images/mailmagazine/Vol.59_20180329.pdf
結局、金融における政府の比重は極めて大きく、したがってその動向が金融の先行きを左右するわけである。
それゆえ、政策がどのような意味を持つのか理解し、それに対して意見を持つ経済金融的な見方・考え方が重要なのである。
授業アイデア
「デフレの原因は何か」というMQに対して、①労組の組織率の低下、②非正規雇用の増加(労働者派遣法改正の歴史)、③労働分配率の低下など、の視点からジグソーができるか(ただ、これだと金融からのアプローチがない)
これを社会的な文脈に結びつけるのならば(真正な学習)、新聞記事の社説を書いたり、政策提言をするなどのパフォーマンス評価が可能か。
本書の特徴
専門用語を丁寧に説明してくれるが、経済理論や経済について政治経済の教科書程度の理解があった方が楽しく読めるかと思う。逆に言うと、それ以外の方はちんぷんかんぷんになる可能性が。まったくの初学者にはちょっと難しいかもしれません。
金融をめぐる様々な立場の紹介など、基礎的な理論をめぐる対立などは中々面白いなと感じると同時に、ジグソー法で使えそうだなと思えた。
個人的には、高度経済成長期の金融政策に遡って、現在のデフレに対する状況までを解説してくれたのは非常にためになった。
日銀が何をしているのか、金融や経済などのニュースを理解したい方にはぜひ手に取ってもらいたい1冊である。