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「人生をどう生きるか」がテーマのブログです。自分を実験台にして、哲学や心理学とかを使って人生戦略をひたすら考えている教師が書いています。ちなみに政経と倫理を教えてます。

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【学校・教師の役割とは?】アマルティア・センに学ぶ教育格差への処方箋

 

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先日のこちらの記事では、教育格差がなぜ問題かについて考えました。

簡単に言えば、自由を根本的な理念とする社会にもかかわらず、初期条件によって、その後の人生において享受できる自由の程度に差があるから問題だという話でした。

だからこそ、自由の配分等しくすべきなのです。

 

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選択肢の配分

 

では、どうすれば格差を是正できるのか。

 

前提として、格差をなくそうとは考えていません。また、格差にも様々な種類があります。

資本主義社会を競争を核としていますから、結果的に経済格差が生じ、それに伴う文化資本や教育格差が生じるのは仕方ありません。自由を重視すれば、格差は必ず生じます。

しかし、スタート地点に差があっては競争は公正に行われません

ですから、どんな出発地点であれ、誰しもが自らの可能性を追求できるよう、その後のレールにおける機会は平等であるべきなのです。

つまり、競争が公正に行われるために人々の自由(選択肢)を適切に配分することが教育格差是正の一つの方法といえましょう。

 

では、どのように配分すれば良いのか。

 

それについて、アマルティア・センの考え方が参考になると思います。

 

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アマルティア・セン

 

 

 

アマルティア・センの思想-機能と潜在能力

 

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アマルティア・センはインド出身の厚生経済学者です。

彼の思想の中でも「機能」と「潜在能力」が思考の整理に役立ちます。

 

  • 機能とは、個人がなし得ること、なり得るもの全てを表わします。たとえば、「栄養を摂取すること」、「自由に移動すること」、「他人をもてなすこと」、「文字が読めること」などです。
  • 潜在能力とは、各個人の生き方における選択の機会の豊かさ、あるいは選択の機会としての自由を表現する概念です。さらにいえば、ある個人が実現できる様々な機能の水準の組み合わせ全体の集合を指します。

 

ある個人にできることがどれだけあるのか、その選択肢が多いほど自由である度合いが高いといえます。

居住地域や家庭などによって、子どもの潜在能力は大きく異なります。潜在能力を平準化すべきなのか、それとも最低ラインを設けて支援すべきなのかは議論の分かれるところですが、スタートラインにおいて、子どもたちの潜在能力に大きな差があってはならないと強く思います。

なぜなら近代社会は、人々に自由があり、なんにでもなれるという社会的流動性を前提(建前)に成立しているからです。となれば、貧困世帯への支援は潜在能力を高め、人々をエンパワーする営みといえます。

 

ただ、この自由が福祉の給付水準の議論だけに還元されるなら、教育格差への示唆にはなりません。

 

教育格差は文化の問題までを射程とする幅広い教育機会の差に関する問題です。文化を作るのはSNSなどマスコミなどのメディア、学校などです。文化の差を考慮しつつ、如何に多様な選択肢の存在を知らせるか、つまり人々がもつ選択肢を増やせるきっかけを与えられるか、ここに学校や教員の役割があるんじゃないかと感じます。

 

経済的に是正できる福祉の領域は政府による施策が対応できます。けれども、知力や市民的徳性、民主主義的態度の育成などは学校や教師の役割でしょうし、社会構造を知って将来のキャリアを描けるようにすることなども学校を通じて身に付ける機能だと考えます。

 

さて、まとめです。

  • 自由を根本的な理念とする社会にもかかわらず、初期条件によって、その後の人生において享受できる自由の程度に差があるから教育格差は問題である。
  • 人々の自由(選択肢)を適切に配分することが教育格差是正の一つの方法。
  • 配分する自由とは、選択肢(機能)の多様さを意味する潜在能力のこと。この機能は種類ごとにどのセクターが配分するか変わってくる
  • 批判的思考力や市民的徳性、民主主義的態度の育成も機能であるが、それらは学校が主導で育成すべき

  

来年、経済の授業を受け持ったら教育格差を取り上げてみようかな…

それでは!

 

参考文献

  1. 末永 カツ子 他(2005年)「公共性理論についての論考」東北大学大学院教育学研究科『東北大学大学院教育学研究科研究年報 第53集・第2号』
  2. 柴田 謙治(2015)「アマルティア・センの正義論― 潜在能力の平等と共感、公共的推論」金城大学金城学院大学論集 社会科学編 第12巻第 1 号』
  3. 蓼沼宏一(2011)『幸せのための経済学』岩波ジュニア新書

 

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