27日、カフカス地方のアルメニアとアゼルバイジャンで軍事衝突が起こりました。
今回はこの問題について解説します。紛争がどういう影響を及ぼすのか、日本にどういう影響があるのか、見ていきましょう!
そもそもアルメニアとアゼルバイジャンってどこにあるの?
地図で確認すると、このあたりにあります。ロシアの南、イランの北、トルコの東という大国に挟まれた地域です。
今回軍事衝突が起きたのはナゴルノ・カラバフという地域です。
ここはアゼルバイジャンの領土内にありますが、実効支配しているのはアルメニア人です。
元々両国ともソ連の構成国でしたが、1991年にソ連が崩壊すると共に独立。以来、両国間でたびたび軍事衝突が起きており、特に90年代に起きたナゴルノ・カラバフ戦争では100万人以上が避難し、3万人以上がなくなったとされています。1993年に停戦合意がなされましたが、それ以降も緊張状態が続き、2016年にも軍事衝突が起きています。
2020年7月から小規模な軍事衝突が断続的に生じており、今回の軍事衝突もそうした文脈で生じたものといえるでしょう。
そもそも両国は歴史的・民族的にかなり異なる国家です。簡単な国家プロフィールを見ていきましょう。まずはアルメニアから。
アルメニア
首都:エレバン
人口は300万人、面積は約3万㎢(岩手県と福島県を足したくらいです)。
宗教はキリスト教でロシアとの関係が非常に強いです。ロシアの軍隊が駐留しているほどです。一方で隣国のトルコとは非常に仲が悪い。なぜかというと、第一次世界大戦中、トルコ領内にいたアルメニア人を虐殺した歴史があり、その関係から現在でも国交を持っていません。
またイランとも良好な関係を持っています。
アルメニア自体は古来よりこの地域にありました。ローマ帝国の時代には、世界で最も早くキリスト教を国教化しています。
しかし、この地域はイランやトルコ、ロシアなど大国に翻弄されてきたため、結果としてアルメニア人は世界中に離散してしまいました。ただし、彼らは世界中に離散しても、アルメニア教会を核として文化的一体性を保ち続けてきました。これはユダヤ教を核として結びついたユダヤ人と同じですね。
欧米諸国を中心に経済的な成功を収め政治的に強い影響力を持った人物も多く、フランスやロシア、アメリカなどではアルメニア人は一定の影響力を持つ集団とされています。ロシアのラブロフ外相もユダヤ系とされています。
経済的にはロシアとの結びつきが強いため、ロシア経済の景気に左右されてしまう側面を持っています。
さて、次はアゼルバイジャンを見てみましょう。
アゼルバイジャン
首都:バクー
人口は1000万人、面積は86600㎢(北海道より若干大きいくらいです)。
同じイスラム教のトルコとの関係が深く、またアゼルバイジャン人が多く住むイランとも良好な関係を持っています。ロシアとも良好な関係を築いています。
国内に油田(バクー油田)を抱えており、基幹産業であり、ヨーロッパなどへパイプラインを通じて輸出しています。
アルメニアとアゼルバイジャンで何が起きたの?
今回起こった軍事衝突は、元々両国の関係が非常に悪く、その小競り合いが大規模な衝突に発展したという見方が一定程度妥当なのかなと思います。
民族的・宗教的にはキリスト教とイスラム教ということもその背景にあるようです。
また領土に対する認識が両国で異なっており、アゼルバイジャンは国連総会でもナゴルノ・カラバフはアゼルバイジャン領と認められていると主張し、一方でアルメニアはナゴルノ・カラバフの住民の8割がアルメニア人であることから自治権を尊重すべきだと主張しています。
この地域は関係する国が多く、関係性が非常に複雑なことが理解を難しくしています。
Twitterにわかりやすい画像があったので拝借させていただきました。
▼関係図
今回のアゼルバイジャン、アルメニア、ナゴルノ=カラバフとロシア、トルコの関係を可能な限り簡単に示した図
— ᡩᡝᡵᡤᡳ ᠨᡝᠴᡳᠨ / Kubaani 🌺🍵🔺 (@Kubani_Kubanius) 2020年9月27日
(ここにさらにシリア、アメリカ、トルクメニスタン、ジョージア、ウクライナ、ルーマニアなどが絡んでくる) pic.twitter.com/4XixGXE1ji
こちらの図はカスピ海沿岸部の国々を中心にまとめた相関図です。わかりやすく整理されています。(わかりやすいとは…?)
頑張って地理的に正しく追加してみたけど……何だこの、アルメニア、アゼルバイジャン周りのドロドロ関係
— N.(はるさん) (@haru9629) 2020年9月28日
昼ドラか?() https://t.co/v7qyspSWzm pic.twitter.com/nQnioPv7ty
国際社会の反応~争いの背後にいる国々~
そもそもなぜこの地域が世界的な注目を集めているのかというと、カスピ海からのパイプラインがアゼルバイジャンを通ってヨーロッパへ供給されているからです。
File:Baku pipelines.svg - Wikimedia Commons
カスピ海のバクー油田からアルメニアを迂回する形で、トルコやヨーロッパにパイプラインが敷設され、石油や天然ガスが共有されています。
ヨーロッパにとってはロシアへの資源依存度を減らしたいという思惑があり、この地域からの資源供給は経済活動を維持する上でも非常に重要となっています。
トルコやヨーロッパにとっては、パイプラインが通っているこの地域で紛争が生じれば、資源の供給が止まってしまう可能性があるため、一刻も早く戦闘停止を望んでいるわけです。
両国の軍事衝突に対しては多くの国家・国際機関が反応しています。NATO(北大西洋条約機構)や国連事務総長、アメリカが即時停戦を呼びかけています。
その一方で、トルコはアゼルバイジャン支援を表明。エルドアン大統領は以下のようなツイートをしています。
「アゼルバイジャンに対する攻撃を新たに起こしたアルメニアは、地域で平和と平穏の前に立ちはだかる最大の脅威であることを改めて示した。トルコの国民は常にそうであるように、今日も全力でアゼルバイジャンの同胞と共にいる」
ロシアは双方に停戦を要求しています。
今後の見通しは?日本との関係はどうなる?
人口規模ではアゼルバイジャンがアルメニアの三倍を誇り、アルメニアの隣国には強大な軍事国家であるトルコがアゼルバイジャン支援を表明しています。
アルメニア、絶望的では…?という感じですが、
アルメニアはロシアやベラルーシなどの旧ソ連諸国と軍事同盟を結んでいます。
また、国内にはロシア軍が駐留しているため、ロシアが参戦する可能性はあります。しかし、仮にロシアが参戦すれば、それに応じてトルコも参戦する可能性が高く、大規模戦争に発展してしまう可能性から、ロシアは双方に停戦を要請するに留めています。
また、カスピ海からのパイプラインには日本企業やアメリカ企業も出資しており、そのため国内企業の保護という観点からもアメリカや日本が介入する可能性もありますが、その際どちらの国につくのか?という問題が生じるかと思います。
パイプラインが通っているのはアゼルバイジャンなので、企業保護の観点からはアゼルバイジャン側を支援するかもしれませんが、アメリカの場合、国内にアルメニア系のコミュニティがあり数十万人規模での人口を抱えているため、大統領選挙を控えた今、動き出す可能性は低いでしょう。
日本はこの地域に対して植民地支配などの負の歴史を抱えていないため、近年経済協力などが進んでいました。
ただし、日本政府は未だ声明を発していません。
現在も被害は拡がっています。一刻も早い戦闘の終結を望みます。
それでは。
参考
- アゼルバイジャンとアルメニアの戦闘に、世界が振り向いた 日本も無関係でないその背景:朝日新聞GLOBE+
- 3分で分かる「ナゴルノ・カラバフ」 旧ソ連の隣国同士で泥沼の争い | ハフポスト
- 係争地で大規模戦闘、複数の死者 アルメニアとアゼルバイジャン:時事ドットコム
- ナゴルノ・カラバフ:国家のようで国家でない地域 – GNV
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