こんにちは、しらすです。
カルロス・ゴーンの避難先、ベイルートの大爆発、イスラエルとの国境画定…
最近、レバノンを巡るニュースが多く流れています。
なにかと注目を集めるレバノンですが、今経済的に危機的な状況にあります。
そこで今回は「レバノンってどんな国?何で経済がやばいの?」というテーマでまとめてみました。
中東情勢の理解にも役立つかと思います!
レバノンの基礎プロフィール
レバノンは地中海の東端に面しており、イスラエルとシリアに囲まれています。
首都:ベイルート
人口:610万人(千葉県くらいです)
面積:1万㎢(岐阜県くらいです)
民族・宗教:18宗派(キリスト教とイスラム教の各宗派を合計した数)
政治的には共和制が取られていますが、宗派ごとに重要ポストが与えられています。
たとえば、大統領はキリスト教マロン派、首相はイスラム教スンニ派、国会議長はイスラム教シーア派という形で分けられています。
外交的には旧宗主国のフランスと緊密な関係にあります。
周辺国との関係で言えば、シリアとは深い関係にあり、一方でイスラエルとは建国以来の対立関係にあります。
レバノンは歴史的に大国や周辺国に翻弄されてきました。
たとえば、イスラエル建国以後、ここから逃れたパレスチナ難民を数百万単位で受け入れています。
また、レバノン人自身も移民として世界中に離散してきた過去を持ち、ヨーロッパやアメリカ、南米などに多くのコミュニティを持っています。たとえば、ブラジルには本国の人口を上回る700万人規模のレバノン人コミュニティがあります。
そういえばカルロス・ゴーン氏はブラジル国籍ですね。
レバノン経済の今
さて、ここから本題です。
レバノンの経済状況について見ていきましょう。
レバノンの主要産業は農業と観光業です。しかし、20世紀後半頃から中東戦争やイスラエルとの対立が激化したため、国土の多くは荒廃し、主要産業である観光業が大きく打撃を受けました。しかし、ここ最近は大規模な紛争はなく、治安も比較的良好だったため、経済状況も回復傾向にありました。観光資源も多く、最近では人気の観光スポットとして多くの人が訪れていたそうです。
また、レバノン人の中でも世界中に投資家や商人として移住した者もおり、彼らの送金もまたレバノン経済を支えています。
加えて、地中海と中東地域を橋渡しする立地からも、中継貿易が盛んでした。
しかし、コロナウイルス感染症の拡大は主要産業である観光業だけでなく、他の産業にも影響を及ぼしています。レバノンでは3月中旬頃からロックダウンが行われ、7月に国境や空港の閉鎖が解除されました。
しかし、これは感染症が収束したわけではなく、「もう経済活動を再開させないとレバノン経済が終わる!」という逼迫した懐事情からきまったことです。
そして、8月。
ベイルートでの大爆発が起こりました。死傷者・負傷者の総計は数千人、爆発により家を失った人の数は30万人に上ると言われています。
その結果、今やレバノン経済は危機的な状況にあります。
今回の爆発の原因について、政府による腐敗が原因ではないか、とみる国民もおり、大規模な反政府デモが実施されています。
そのため観光業を初めとした国内産業がストップし、海外からの送金に大きく依存している状況です。
しかし、そもそもレバノン経済の危機は今に始まった話ではなくて、実は昨年頃から深刻化してきた話でした。
経済危機の始まり
元々レバノンの経済状況はコロナウイルス感染症拡大以前から危機的状況にありました。さらに財政赤字の垂れ流し状態でした。
レバノンの主要な産業は、観光業や海外からの送金、アラビア半島と地中海を結ぶ中継貿易などです。そして、現状これら全てが壊滅的な状況です。
まず2011年頃からのシリア内戦やサウジアラビアとイランの対立の激化などで、中継貿易がストップ。
次に海外からの送金についてですが、これも減少傾向にあります。
世界中に離散したレバノン人はレバノンの銀行にお金を預けていました。というのは、レバノンの銀行の金利が高いから。そして、民間銀行はそれを中央銀行に貸し出し、さらに中央銀行は財務省にそのお金を渡し、それを国債返済の原資にしていたわけです。
ただし、こんなことは経済成長がうまくいき、税収が増えて国債返済が行われれば可能なだけであって、2011年頃からのシリア内戦でレバノンの経済成長はほとんど停滞しています。
したがって、政府は利子すら払えない状況に陥り、レバノンの国債残高はみるみるうちにふくれあがっていきました。
残高は900億ドル、GDPの170%です。
レバノン、初のデフォルトへ 首相「国債返済を延期」 (写真=ロイター) :日本経済新聞
政府は利子すら払えない、となると中央銀行は民間銀行に返せない、となれば民間銀行は預金者に支払えない。
当然、銀行は高金利を維持できないので、海外からの送金は減少。
加えて、預金を下ろされると倒産する可能性もあるので、銀行は預金引き出しを制限しました。
手術や学費の支払いなど大きなお金を支払えない人が続出し、銀行に対する抗議デモも起こっています。
また、レバノン経済の悪化によりレバノンの通貨の信用度が下がり、価値が下落しています。通貨の価値の下落は物価の上昇を意味します。つまりインフレです。
インフレは生活苦をもたらします。今まで出していた金額よりも多く出さなければならないので、手持ちが変わらなければ生活は困窮するようになります。
インフレに伴って給料が上がればいいのですが、レバノンの場合は不況に伴う物価上昇なので、もう目も当てられない状況です。
そして、赤字財政に困った政府は課税の対象を増やすことでこの事態を乗り切ろうとしました。
2019年の11月頃、レバノン政府はワッツアップという通話アプリへの課税を表明しました。
ワッツアップとは、LINEのようなものです。
失業や貧困に苦しむ大多数の国民にとっての娯楽はワッツアップでした。
しかし、その最後の命綱に課税をすると言うことに、さすが国民の堪忍袋の緒が切れたのか、大規模な反政府抗議デモに発展。
これ以降、レバノンの政局は非常に混乱しています。
さらに、この大規模デモにより観光業がストップ。
経済悪化にさらに拍車をかけてしまいました。
レバノン政府は2020年4月デフォルト(債務不履行)を宣言。借金返せません!と言ってしまったわけです。
国民生活は非常に危機的状況にあります。
コネと金と権力で回る不公正な社会
そもそもなぜレバノンの経済が悪化してしまったのか。
その背景には、レバノン社会がコネがないと回らない社会構造をしているからです。
レバノンでは、キリスト教やイスラム教の各宗派が利害集団を形成し、それぞれに権力が配分され、集団内の人間に仕事が回るようになっています。
たとえば、大統領はキリスト教マロン派、首相はイスラム教スンニ派、国会議長はイスラム教シーア派となっています。
キリスト教マロン派であるカルロス・ゴーンの逃亡を助けたのも同じマロン派の人間とされています。
各集団に所属すれば良い地位にありつける機会もありますが。逆に言えば集団に関わっていなければ、まともに就職することすらできない。
大学院を卒業しても職があるかどうか、まったくわからないのです。
このような不公正な社会構造がレバノンの現状をもたらしています。
権力層には政治腐敗が起こり、私欲を肥やしている者もいます。
レバノンは腐敗認識指数という政治腐敗の世界ランキングでワースト137位です。
腐敗認識指数 国別ランキング・推移 – Global Note
放漫財政、政治腐敗、インフレによる生活苦、そしてそこにワッツアップへの課税ときて、国民の不満が大爆発し、大規模反政府抗議デモに発展。
そして、新型コロナとベイルートの大爆発が直撃。
こうした惨状にようやく国際社会が支援の手を差し伸べるようになりました。
歴史的に関係の深いフランスが呼びかけ、2.5億ユーロの拠出が8月に決まりました。
しかし、大爆発以前、なかなか国際社会は手助けしてくれませんでした。
なぜか?
それは国際的にテロ組織とされている[ヒズボラ]が政府と近い関係を持っていたため。
[ヒズボラ]についてはまた別の機会にお話しします。
以上、皆様のお役に立てれば幸いです。
それでは!
▼完全聞き流し用で動画も作りました。通勤などスキマ時間にご活用ください。
聞き流し【大人のための政治経済】レバノンで今起きていること〜デフォルト、コロナ、インフレ、大爆発…崩壊寸前の経済状況を解説
▼複雑な中東理解のお供にオススメです。
参考
- レバノン基礎データ|外務省
- レバノンとイスラエルが歴史的合意に~「敵の敵は味方」ということ|ニフティニュース
- レバノンの大爆発事故、その背後にある混沌の政治情勢 | スペクティ(株式会社Spectee)
- 爆発事故のあったレバノンはどんな国?3つの絶望とヒズボラの存在感 WEDGE Infinity(ウェッジ)
- カルロス・ゴーンどころではないレバノンの経済危機とコロナの影響 WEDGE Infinity(ウェッジ)
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