Shiras Civics

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「人生をどう生きるか」がテーマのブログです。自分を実験台にして、哲学や心理学とかを使って人生戦略をひたすら考えている教師が書いています。ちなみに政経と倫理を教えてます。

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【大人のための哲学】ソクラテスの生き方と哲学①~信念をもって生きるということ~

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今回はソクラテスに学ぶ人生論です。

 

www.businessinsider.jp

 

せっかくたくさんのお金を稼いでも、人を傷つけるお金の使い方をしてしまうこともあります。理想がなければ、道具は凶器になり得ます。

 

強靱な腕力も、自衛隊に入れば人の役に立ちますが、一方で人を傷つけることもできます。

達者な弁論術を持っていれば、弁護士として人を救うことも出来ますし、政治家として人を動かすスピーチが出来るかもしれません。

けれども、その口八丁手八丁で詐欺を働くことも出来るかもしれません。

 

正しさが心になければ、正しい行動もできません。

 

でも、そもそも正しさって何なんだろうか。

 

現代でも悩ましいこの難問に対して、一緒に考えよう、と言ったのがソクラテスです。

 

  

ソクラテスって誰?

 アテネの芸術学校, ラファエル, イタリアの画家, フレスコ画, 1509-1512, 絵画

 

今から約2500~2400年前の古代ギリシャアテネ)で活躍した哲学者です。日本はまだ弥生時代あたりですね。

父親は石大工、母親は助産師で、奥さんは悪妻として有名なクサンチッペです。クサンチッペについて、ソクラテスは次のような言葉を残しています。

 

ともかく結婚せよ。

もし君が良い妻を持てば、幸福になるだろう。

もし君が悪い妻を持てば、哲学者になるだろう。

 

この格言からわかるのは、ソクラテスが後世に名を遺すのにクサンチッペが多大な貢献をしているということです(この発言はソクラテスが残したかはわかりません。後世に創られたという説もあります)。

 

ただ残念ながら、ソクラテスは著作を一切残していません。ソクラテスの言動を詳しく知るのは、彼の弟子プラトンの著作からなのですが、それはまた別のお話で。

 

元々ソクラテスは自然哲学(今でいう自然科学、世界は何からできているのかな~ということを探究する学問)に興味がありました。しかし、40歳ごろから関心が人間の生き方にシフトさせていきます。

その中心的な活動は、ポリス市民の知的な態度を改めさせようという、コーチングのようなものでした。これを問答法といいます。

しかし、こういった活動が人々から反感を買い、死刑判決を受け、最後は刑死しました。


ja.wikipedia.org

 

当時のギリシャ社会の様子

 

ソクラテスが生きた古代ギリシャにはポリスという小さな共同体が点在していました。

現在でいうと、市区町村が一つの国としてまとまっているイメージです。渋谷国や名古屋国、京都国って感じでしょうか。

 

その中でもソクラテスアテネというポリスに暮らしていました。

 

さて、当時の古代ギリシャではある考えが浸透していました。

それは、「人それぞれ考え方は違うよね」という思想です。相対主義といいます。

そして、この相対主義というロジックで金儲けや権力闘争に明け暮れていた人たちがいました。ソフィストと呼ばれる弁論家です。

彼らはたとえ正義に反して財を成しても、それは自分たちの幸福につながるから問題がないと主張しました。

 

もちろん多様性を認め合う寛容の哲学なら全く問題はないのですが、当時のアテネは荒廃していたこともあり、互いを尊重するというよりかは、自分さえよければいいじゃん!相手を出し抜こうぜ!という身勝手な考え方・生き方をとっているソフィストが多かったそうです。

 

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では当時のアテネでは何が起こっていたか。

それはペロポネソス戦争という約20年以上にわたる戦争にアテネが負けたことで、人々が大きく疲弊してしまっていたこと、長期にわたる戦闘で多くの人が経済的基盤を失ってしまったこと、加えて疫病(ペストか天然痘という説があります)が蔓延し多くの人が亡くなっていたことなどがあげられます。

こうした社会的混乱から人々の精神は荒れに荒れてしまいます。当然、相対主義は多様性や寛容を求める哲学ではなく、自分が最優先の考えになってしまいます。

 

なんだか現代も似たような側面がありますね。

格差が大きくなり、感染症が蔓延しているという中で、社会不安が拡大しています。時には心が荒んでしまうこともあると思います。

自分さえよければいい、という発想には古代ギリシャも今も通じるところがあると感じました。

 

そうした物質的な荒廃だけでなく、精神的な荒廃に異を唱えたのがソクラテスでした。

 

相対主義は違う!人それぞれの生き方は確かにあるだろうが、それでも絶対的に善い生き方がある!

 

ソクラテスは、人々に渇を入れ、この世の真理を追い求めようと活動を始めます。

 

ソクラテスが大切にしたもの~知の追求=魂の配慮~

 

ソクラテスは知的に荒廃した状況に対して、真の「知」を求めることが重要だと考えました。

ここでいう「知」とは、人としての善い生き方です。古代ギリシャでは「善美のことがら」と呼ばれていました。

 

こうした考えを持つきっかけは、デルフォイの神託と呼ばれる出来事でした。

デルフォイの神殿と呼ばれる、日本でいえば〇〇神社という由緒正しい場所です。

 

ある日、最も賢い人物はソクラテスだという神様からのお告げがありました。

 

信心深いソクラテスは戸惑います。なぜなら、ソクラテスは自分は全く賢くないと考えていたから。

それなら賢いとされている人たちに色々聞いてみよう!ということでソクラテスは学者や政治家、軍人など様々な専門家にインタビューしまくります。

 

ソクラテスは彼らに問います。

 

「正しさって何ですか?」

「勇気って何ですか?」

「美しさって何ですか?」

 

それは~ペチャクチャペチャクチャ…〇※△×!!!!

 

ソクラテスは、問い返します。

 

そして、専門家は返答します。

 

問答の繰り返しで最終的に専門家は詰まってしまいます。

 

色々聞いてみてわかったことは、彼らはそれらしく言うことはするが、決して正しさや勇気の概念を明らかにはしていないということでした。

専門的な知識は豊富にあるけれども、正しさや勇気などの人生において重要な知は持っていない。

 

ソクラテスはこの経験から次のような結論に至ります。

『他の人は「知」にいて知らないのに知っていると思い込んでいる』、一方で『自分は「知」について無知であることを理解している』、「その点において自分は他の人よりも賢いということなのだろう」

ソクラテスデルフォイの神託をそのように解釈しました。

これが有名な無知の知と呼ばれる考え方です。そして、自分が無知だからこそ、知を追い求めようとする。つまり、無知の知を自覚することが哲学の出発点になるのです。知っていると思ったら、それ以上は知ろうとは思いませんもんね。

 

ここから、ソクラテス無知の知を自覚させ、より善い生き方を追及させようと様々な専門家に問答を仕掛けます。

 

確かに彼らの持っている知識は生活に役に立つだろうが、それは善い生き方につながるとは限らない。

だからこそ、人生において大切なことについて無知ということを自覚させ、知を求める生き方に改めさせようと行動しました。

 

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少し余談ですが、、、

ソクラテスはポリスを非常に愛していました。愛国主義というか、パトリオティズムというか。

そして、ソクラテスはポリスの全盛期に育ち、その黄金期と比較して現在のポリスの惨状を嘆いていたのです。

その荒廃の原因を人々の知的な態度・あり方に求め、それを改めることで愛するポリスを、かつてのように善くしていこうと考えたんじゃないのかなと思います。「知」という側面から社会を良くしていこうと考えたわけです。

この辺は教師の仕事に通じるな~さすがソクラテス先生だな~という感じです。

 

さて、戻ります。ちょっと複雑な話になります。

 

無知の知を出発点に知を求める生き方をソクラテスは称賛しました。

繰り返しになりますが、「知」とは人としての善い生き方のこと。つまり、何が正しくて、何が不正なのかを判断できることです。

そして、その判断は魂において行われます。当時、魂は人間の本体とされていました。現代風にいえば、マインドです。

ソクラテスは魂が善い状態になっていることを「徳」と表現しました。

ここではマインドがいい感じの状態という意味だと思ってください。

 

つまり、知=善悪を判断できること=徳=魂が善い状態、という関係です。

 

また、ソクラテスは「知っているなら、行動できるよね!」という発想だったので、知を求めて善悪を知れば、それに従って実践できるよね、と考えました。

さらに、正しいことを実践する生き方は幸福だよね、と。

 

まとめるとこういうことです。

 

知を知っている➡知を実践できる➡知に従う生き方はハッピー

 

そのために、自分の行動が正しいのか、しっかり向き合いなさいと言いました。これを魂の配慮といいます。

自分のマインドセットが正しいのかを振り返りなさい、ということですかね。

何か行動する前に、自問自答する。「その行為で誰かが損を被らないか」「この発言で誰かを傷つけないか」…

 

死に代えても守り抜いたもの

 

さて、ソクラテス無知の知を起点にして、あらゆる人に問答をしまくりました。

 

しかし、こうした方法は人々の反感を買いました。

それもそうですよね。だって、自分は賢い、と思っている人がみんなの前で「あなたは知らないじゃないか!」と追及されて、しかも何も答えられなくなってしまえば、プライドはズタズタにされますし、怒りを買います。

 

もちろん素直に自分を振り返って、知的な探究生活を始める者もいましたが、多くの専門家はソクラテスに対して敵意を抱くようになりました。

ただし、ソクラテスの意図は無知の自覚を促そうというもので、プライドをへし折ろうといった魂胆はありませんでした。

 

結果的にソクラテスは民衆裁判にかけられ、死刑になります。ただ、当時の監獄は今と比べてガバガバだったので、簡単に脱獄できるものでした。

 

しかし、彼は脱獄を拒否し、死刑を選びます。少し長いですが、ソクラテスに話しかける国法(擬人化されたものです)とのやり取りを引用します。

 

お前がこの世を去るなら、今ならお前は不正をーわれわれ国法からというよりも、人間から-加えられた者としてこの世を去るのだ。しかるにもしお前が脱獄して、無恥千万にも、不正に不正を、禍害に禍害を報い、かくてわれわれに対するお前の合意と契約を蹂躙して、また最も禍害を加えてはならない者ーすなわちお前自身と友達と祖国とわれわれとーにこれを加えるなら、その時、われわれはお前の存命中を通じてお前に怒りを抱くだろうし、またあの世ではわれわれの兄弟なる冥府(ハデス)の国法も、親切にお前を迎えてはくれまい、なぜといえば、力の及ぶ限り、お前がわれわれを滅ぼそうとしたことを、彼らは知っているから。だからお前はその説を実行せしめんとするクリトンに説得されぬようにして、むしろわれわれに従うがいい。(プラトン『クリトン』)

 

ソクラテスは逃亡の勧めを断固として退けます。

 

ソクラテスにとっての正しさとは、ポリスの法でした。

愛するポリスで育ち、愛するポリスの復権を願い活動してきた。それなのにもかかわらず、都合の悪い時だけポリスの法に背くことはできない。彼にとって重要なことは、国法に背いて生きることよりも、国法に従って死ぬことでした。

 

彼は死よりも、最後まで善く生きることを大切にしました。

 

ソクラテスは死刑になろうとも自説を曲げて助けを乞うことはせず、今まで自分がしてきたことへの信念を最後まで貫き通したのです。

その最期は誇りに満ちた安らかな姿だったといいます。

 

ソクラテスは今の社会で何を思うか

 

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ソクラテスは絶対的な正しさがあると考え、それを追及する生き方を善いことだと考えました。

しかし、それはあくまでも古代ギリシャ、さらにいえばアテネという一国内における正しさです。

さらに、正しさの定義も明確にしていません。

 

しかし。それでも彼の思想は現代でも示唆に富んでいます。

 

現代社会はかつてと違い、様々なコミュニティ、組織、個人が交流する社会です。グローバル化の進展はそれに拍車をかけています。

個人の数だけ正義があります。競争の激化や格差の拡大、テロリズムの台頭は社会不安にもたらし、自分さえよければいい!相手を出し抜こう!という態度を生むかもしれません。

そういう時代だからこそ、ソクラテスが実践した対話が重要なのでしょう。対話を通じてみんなが納得できる正しさを作っていく。

 

しかし、作り上げた正義を実践するのは個人です。

時には自分自身の行動が正しいのかどうか振り返る習慣が必要です。

内なる心の声、もっといえば内なるソクラテス先生の渇に耳を傾けてもいいかもしれません。

 

君が今からやろうとしていることは正しいのか?

 

魂への配慮を欠かさず、善く生きること。

ソクラテスが現代のわれわれに投げかけるのは、自分が正しさについて知らないという知的に謙虚な姿勢、それを出発点に正しさが何なのかを追い求め、自分の行動が正しいかどうかを振り返ることが大切である、ということでしょう。

 

ソクラテスには、教師として大切なことを教えてもらった気がします。

僕らは目の前の雑事に忙殺されて本当に大切なものをみうしなってしまっているのではないだろうか。

 

以上、今回の記事が皆さんの役に立てば幸いです。

それでは!

 

▼入門書としてオススメ

 

 

 

ソクラテスが現代に蘇ったら?というテーマの本。池田さんの文章は読みやすいです。

 

 

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