今回はプラトン哲学第二弾、国家の理想的なあり方です。
▼これまでのシリーズです。
プラトンのイデア論をおさらい
▼気になる方はこちらでおさらいを!
ソクラテスは人生における「真の知」を追い求めて、ソフィストと呼ばれる有識者を論破しまくるも、「真の知が何か」は明らかにしませんでした。
あくまでも、みんなが追い求めることが大事なんだよ、という啓発活動で終わってしまったわけです。結局、論破された人たちから怒りを買い、死刑に…。
プラトンが考えた「イデア」は、ソクラテスの「真の知」に該当します。
イデアとは、普遍的で、完全無欠な物事の本質のことです。
ざっくり言ってしまえば、理想のこと。
ソクラテスの場合は、人の生き方が主な考察の対象でしたが、プラトンはこれをありとあらゆる物事に当てはめます。
たとえば、机のイデアや犬のイデアなどの物質的なものに加え、抽象的な美のイデアや善のイデアなど全てのものに対象を拡げます。
まとめると以下の点になります。
国家の理想的なあり方
プラトンがイデア論を打ち立てたきっかけは、師匠ソクラテスの死でした。
この経験から、プラトンは民主主義を敵対視します。
愛する故国が、政治的に腐敗してしまった。
現実への失望は、むしろ現実を改革する強い動機となります。プラトンは国家の理想的なあり方を考え、その実現のために独自の政治哲学を構想します。
まず彼はソクラテスの思想を発展させ、個人のよいあり方について考えます。
そういえば、ソクラテスは「魂」を善くしろ!っていってましたけど、魂って何だよって感じですね。まあ、今風に言うとマインドのことです。
プラトンは、人の魂は三つの部分から作られていると考えました。
理性・意志(気概)・欲望の三つです。
理性は冷静に物事を判断したりする能力、意志は勇気ややる気など、そして欲望は~したいという欲求のことです。
プラトンは、理性が他の二つをコントロールして、節度ある生き方をすべきだと考えました。
ちなみに現代人の我々からすると理解し難いですが、ソクラテスやプラトンは人の本体は魂だと考えています。肉体はおまけです。
魂を3分割するとなんと・・・【哲学図解】『魂の三分説』 - 図解で読み解く方程式
さらに、プラトンは、魂のそれぞれの部分が正しく機能すれば、徳(アレテー)が発揮されるとしました。
魂が正しく働く=魂が良い感じの状態=徳(アレテー)だと思ってください。
知恵+勇気+節制=??【哲学図解】『四元徳』 - 図解で読み解く方程式
まず理性がいい感じの状態(徳)になると知恵が発揮されます。
早朝に起きて朝活していると脳が高いパフォーマンスを発揮している気になりますよね。あれです。
そして、意志がいい感じ(徳)になれば、勇気が発揮されます。逆は臆病です。
義を見てせざるは勇なきなり、という論語の言葉がありますけど、良い意志の使い方ですね、勇気。
そして、欲望がいい感じ(徳)になれば、節制が生まれます。欲望の限りを尽くして、強欲になってしまうと豊かな人生は送れませんもんね。
そして、この3つの徳が合わされば、正義が生まれるとしました。
知恵、勇気、節制、正義、この4つをプラトンは四元徳と表現しました。
知恵と勇気を持ち、節制して生きれば正義が生まれる。これはアンパンマンですね。
彼は知恵を持ってバイキンマンをどうやって倒すか考えています。そして、水をかけられてフニャフニャになるかもしれないけど、勇気を持ってバイキンマンに立ち向かっています。さらに、そんなパワーがあっても市民に傲慢に接することなく、むしろ優しさをもって接してます。なにより、アンパンマンはこの三つを兼ね備えた正義の味方ですからね。
そうか、プラトンはアンパンマンを理想的な個人のあり方としていたのか…。
はい。
そして、プラトンはこの考え方を国家にも応用します。
個人の魂は三つの部分から成り立っていました。理性・意志・欲望です。
実は、当時の社会も似たような構成になっていました。
貴族や王族などの統治者階級、兵士などの防衛者階級、そして経済活動を行う生産者階級です。
プラトンは統治者階級が理性を発揮して社会を運営すべきだとします。
そして、防衛者階級に必要なことは敵に立ち向かう勇気であり、戦場から逃げる臆病さではないと言います。
生産者階級はサボったり、欲望の限りを尽くして社会を乱さずに、節制して経済活動に従事することで国が豊かになると言います。
個人の魂では理性が意志と欲望をコントロールすべきだとされていましたが、国家でも同様です。知恵を発揮する統治者階級が、勇気を発揮する防衛者階級、節制を発揮する生産者階級をコントロールすべきだとします。
こうして三つの階級が良い感じに調和することで、正義が生まれます。プラトンはこれを理想的な国家としました。
そんな国あるのか、という話ですが、プラトンのイデア論は現実を超えた理想世界の話です。
現実にはありませんから、じゃあ作ろう!ということでプラトンは政治改革に乗り出しました。
国だって哲学で成り立つのです!【哲学図解】『理想国家』 - 図解で読み解く方程式
イデアは物事の理想的な姿でした。
国家にもイデアはあります。
したがって、国家の理想的なあり方を把握できるのは理性をもつ統治者階級であり、その理性を身に付けるには哲学が必要だとプラトンは考えました。
つまり、哲学者が統治者になるか、統治者が哲学を身に付けるか、どちらかが必要だと考えたのです。
プラトンのこの発想を哲人王といいます。
この哲人王は世の中のあらゆる真理をわかっているから、ありとあらゆることを彼に任せていいとします。
なんだか、独裁国家のような…
四元徳をもつアンパンマンが独裁をしてもうまくいかないような気もしますが…笑
プラトンは自分の哲学の正しさを確かめるため、シチリア島のシラクサの為政者を哲治王に育てようとしましたが、ことごとく失敗しました。哲学者が現実の政治に介入してはならないという例になったわけです。
彼はその後、アテナイにアカデメイアという学園を開いて、後進の育成にあたりました。結局、政治改革をしようとした人たちは、教育に行き着くんですね。
ちなみにアカデメイアは1000年ほど活動を続けました。
プラトンの開いたアカデメイアは、紀元529年にユスティニアヌス大帝が哲学禁止令を出すまで、1000年近く活動した。
— しらす (@dokomademoinaka) 2020年12月30日
プラトン哲学への批判
プラトンの哲学は理想を作って、現実社会を変革しようとする哲学です。
20世紀のホワイトヘッドという哲学者は「西洋哲学はすべてプラトン哲学の脚注だ」とも言っています。つまり、哲学を理解しようと思えば、そのベースにはプラトン哲学があるわけです。
ただ、プラトンに対する批判もあるので、最後にそれらを見ておきましょう。
- イデアはありとあらゆるものに当てはまる。とすれば、新たに生まれるものはなく、この世は不変ではないか
- 哲人王政治は独裁を肯定するものではないか
こういった批判がありますので、その点はご留意ください。
現代へのメッセージは何だろうか?
プラトン哲学の意義は、それまで自然的な発想、「なるようになるさ」「あるがまま」を良しとしていたギリシャ社会の発想にメスを入れた点です。
自然に対置される超自然的発想「イデア」を構想し、現実と理想という二つの世界を構想しました。
人々は理想を描き、現実を変革する手立てを手に入れたといえます。
また、目に見えないものを認識するには概念を定義づけなければなりません。
たとえば、美とは何か、良い人生とは何か、仕事とは何か…
そうして概念を明確に持つことで、世の中をより良く分析できるようになります。
そういう点で理想や概念の明確化は我々の生活を豊かにしてくれると思います。
でも、理想にとらわれすぎて現実をないがしろにするのではなく、大事なのは現実と理想の折り合いをうまくつけて生きることなのではないかと思います。
プラトンの理想主義に対して、現実主義を唱えたのがアリストテレスです。
次回はアリストテレスの哲学について見ていきます。
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