私たち教員がよく生徒に言う言葉がある。
「しっかり考えろ」
しかし、「考えるってどういう風にやればいいの」という質問を生徒からよく聞く。
思い返すと、少なくとも僕は高校までの授業で「考え方」を学んだことはなかったし、教員になってからも生徒に体系的に教えたことはなかった。
だからこそ、「考える」ということを生徒に手順として示すために手に取ったのがこの本だ。
本書の内容
ちきりんがどのように物事を考えているかを平易にまとめた書。
ちきりんは有名な社会派ブロガーで、様々な社会問題を独自の切り口で批評している。
知識に騙されるな
ちきりんは言う。
知識は考える力を奪ってしまう。ある事柄を事実・正解だと思えば、そこで思考停止に陥ってしまう。
でも、それってはたして正しいんだろうか。
ちきりんが説くのは、知識と思考を分離して考えろということだ。
「知識に騙されるな」「知識と分離して考えよ」
こういった思考はゼロベース思考と通ずるものがある。ゼロベース思考とは「そもそも…○○とは?」「そもそも…なぜ○○なの」と原点に立ち返って考える思考態度である。ここからあらゆる思考が始まるのだ。
たとえば、数字を見たら、まずは「なぜ」「だからなんなの」と考える。これは資料をただ漫然と読んでしまう人には非常に有効な知的態度である。
また、思考をする際に、あらゆる可能性を検討するロジックツリーというものがある。これはある事柄を要素に分解して、可能性を検討していくというものだ。
歴史を縦に、国際関係を横に、というのは歴史を教え、政経や地理を教えるうえで非常に意義のある考えだった。
それから思考の棚に知識を整理する。これも普段からの思考の訓練の重要性を物語る話だった。
ちきりんの弱点
ただちきりんにも弱点があった。それは定義の欠如である。
たとえば、本文中でロジックツリーを使って、女性を、「母」、「妻」、「女」と分解したときも、定義がない状態で思考が進んでいった(出版物なので意図的に省略しているだけかもしれないが)。
定義なくして思考は始まらない。言葉を大切にするという思考の前提が欠けていたのは残念である。だが、思考法と思考態度のハウツーを教えてくれるという意味で本書はとても有用だった。
それから、人々に語り継がれてきた名作としての「古典」と考えることの関係についてこんな箇所があった。
ちきりんはある事柄について考えを尽くしてから「古典」を読むと言っている。それは古典を「答えの書かれているもの」としているからだ。
けれども、僕は積極的に古典は読むべきだと感じている。それは先人の考えた思考の形跡があるからだ。答えを求めるのではなく、思考の方法を求めるという点で読んでいいのではなかろうか。
まとめ
考えることは楽しい。やり方さえ知っていて、訓練を積めば誰でもできるようになる。しかも、できればとても役に立つ。
ちきりんの考え方のまとめで締めくくろう。
まとめ 考えるって結局どうするの?
・いったん「知識」を分解すること
・「意思決定のプロセス」を決めること
・「なぜ」「だからなんなの?」と問うこと
・あらゆる可能性を探ること
・縦と横に並べて比較してみること
・判断基準の取捨選択をすること
・レベルをごっちゃにしないこと
・自分独自の「フィルター」を見つけること
・データはとことん追いかけること
・視覚化で思考を進化させること
・知識は思考の棚に整理すること (P239より)