新卒教員の教科書

私立高校一年目。『新卒教員としてのオリジナルテキスト』をつくろうという試みでブログを書いてます。社会科のこととかビビッときた本の書評とか日常生活のこととか。

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人が移住する理由

現在の東京都の人口は1370万人を超える。日本全体では人口減少局面に入ったにもかかわらず、東京では人口が年々増加している。これは出生数の増加だけでなく人口流入が要因として大きい。なぜ人が集まるのか。その一つの理由は生活の糧を得られるから、すなわち雇用があるからである。

 歴史的な人口流入の例

アメリカのカリフォルニアで1848年に金鉱が発見された。翌年には一獲千金を求めた人々が殺到し、その数は30万人に上ったという。いわゆるゴールドラッシュである。時代を少しさかのぼった日本でもゴールドラッシュがあった。江戸時代、当時は幕府の直轄領だった佐渡に金山があった。そこには一獲千金を求めた人々(主に農民)が押し寄せ、たちまち佐渡には5万人を超える町が出来上がった。鉱山労働者だけでなく、その暮らしを支えるための豆腐屋や味噌屋、商品の仲介を行う商人などが集った結果として町が形成されたのだ。

一方、当時の江戸には近隣から農民などが職を求めて移住してきた。江戸100万都市といわれるが、100万人もの人々が最初からいたわけではなく、幕府の政治機構が整備され、大名などが江戸で暮らすようになったため、その暮らしを支えるための労働需要が増えていったのだ。拡大する労働需要は外部からの移住者を必要とし、そうして都市の規模が拡大していった。

寛政の改革で出された旧里帰農令(援助をするから農村に帰るよう促す法令)や天保の改革で出された人返しの法(問答無用で農村に返す法令)は、江戸に移り住んだ農民を農村に返す法令である。こうした政策があったということは、幕府が社会問題として認識するほど江戸の街に移住者がいたということであろう。当然、飢饉などで農村に仕事がないから彼らは江戸にやってきたのであるが。

 現代における人口流入

このように人々は生活のため雇用を求めて移住した。翻って現代では、人々は雇用のために移住するのだろうか。ここで有効求人倍率と人口増減率を参照してみたい。2016年度の有効求人倍率は東京都は2.06であり、次は福井県の1.91である(独立行政法人 労働政策研究所ホームページより)。しかし、福井県の人口増減率は低下しており、必ずしも雇用があるから人が移住しているとは言えない。ここで言えることは雇用以外にも移住の要因があるということである。

たとえば、東京都には有名な大学が多く、学生の数が非常に多い。しかし、彼らは奨学金や仕送りという形で生計を立てており(中にはアルバイトで生計を立てる者もいるだろう)、生活の糧をすでに持っているのである。彼らの生活を支える仕送りは親の労働の賜物であるし、それが足りなければアルバイトという形で労働に従事する学生もいる。

 雇用という視点から見てみると

ここでもう一度有効求人倍率を見てみたい。2016年度は東京都が最高値の2.06を記録しているが、最低値の沖縄県でも1.03である。つまり、全国で有効求人倍率が1を下回る都道府県はなく、むしろ選びさえしなければ仕事は飽和しているのだ。

したがって、東京に人口が流入する背景の一つとして、人々が仕事を選別していることがある。生活の糧を得るための雇用であれば何でもよいというわけではなく、やりたい仕事を選んで人々は移住するのである。だからこそ、その反動としてブラック企業に対する社会的な反応があるのではないだろうか。

もちろん飢饉等の非常時は農村に職自体がないのだから、どんな職でも生活の糧が得られればよかっただろう。しかし、農村と比較して江戸での暮らしは海の幸も山の幸もあったり、日銭を稼ぐ手段が多かったことから楽だったそうだ。ゴールドラッシュだって普段の仕事を捨て、一獲千金を狙って仕事を選んだわけである。雇用が飽和しているときは、その中から選択しているわけだ。

 ただ雇用があるから移住するのか

最初の問いに戻ろう。人が移住するのは確かに雇用があるからだ。人は生活の糧を必要とし、その手段として雇用がある。ただし、それがやりたいことであるから人は移住するのである。