Shiras Civics

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「人生をどう生きるか」がテーマのブログです。自分を実験台にして、哲学や心理学とかを使って人生戦略をひたすら考えている教師が書いています。ちなみに政経と倫理を教えてます。

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EUってそもそもなんのためにあるの?-統合史から見るEUの機能と限界

 

イギリスがEUとの間で合意なき離脱に向かっている。ここで、そもそもEUとはどういう目的の下で作られてきたのか、というところを確認してみたい。

 

 

EUにできること-その機能

結論を言ってしまえば、EUソ連とドイツを封じ込める、いわば二重の封じ込めのために設立された。

第二次世界大戦後のヨーロッパにおいて重要な課題の1つが「ドイツ問題」だった。ヨーロッパの秩序を乱すドイツ、それをいかにヨーロッパの平和的な秩序の中に組み込むかということが戦後の課題であった。もう1つが東西冷戦下において統合が進んだという事実である。実際、統合はアメリカの後押しを背景として推進された。東側に対抗する上で共通の経済圏ができることは規模の経済を実現し、復興を容易にする上でもインセンティブがあったのである。つまり、東西冷戦への対処EU統合のもう1つの目的だったのだ。

 

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統合史の話に戻ろう。まず朝鮮戦争の勃発に伴いヨーロッパでも東西間での緊張が走った。それは西ドイツの再軍備問題へと発展する。ドイツの台頭を恐れたフランスはECSCとしての統合を提案する。この背景には、フランスが復興のために効率的に石炭を利用したいという思惑があった。結果的にドイツはECSCに加盟し、軍事的にはNATOに加盟することでヨーロッパの脅威ではなくその一員としての道を歩んでいくことになる。

 

しかし、ドイツ問題は再燃する。ブランドの東方外交によってドイツがその存在感を高めたからだ。60年代の末から70年代前半にかけて西ドイツのブラントが鉄のカーテンを越えて、東欧諸国やソ連との外交関係を深めていく。こうした独断に対してアメリカやフランスは不快感をあらわにした。フランスはヨーロッパ内でのプレゼンスを保つためにイギリスのEC加盟を認める。つまり、イギリスのEC加盟は独仏の勢力均衡争いの副産物だったのである。

 

一旦はドイツ問題は収束するも、再び燃え上がる。契機は両独の統一問題であった。再びドイツがヨーロッパにとっての危機となるか?そこでフランスやイタリアが提案したのがEUだった。ドイツのマルクをユーロという形で統合し、さらには欧州中央銀行による経済政策によって経済覇権を防ぐ、という狙いがあった。何度も燃え上がるドイツ問題、その対処のために欧州の統合は進展していったのである。言い換えれば、ドイツ問題には統合という解があったのだ。

 

その際、軍事的にはアメリカが多くを負担し、経済的にはEUが突き進むという棲み分けが行われていた。戦後の欧州の発展はこうした役割分担の下にあった。そしてそうした体制のことをEUNATO体制といった。この辺りは戦後日本の日本とアメリカとの経済と軍事の棲み分け関係に似ている。

 

冷戦後のEU

だからこそ、EUはドイツ問題と東西冷戦という問題には対処が可能なのだ。現在の問題で言えば、ドイツの権力が強まることに対してはEUはその権限を強めることで対処可能である。またウクライナ問題に関しても、東西冷戦と同様の枠組み、すなわち軍事的にロシアに対抗することは可能である。しかし、現下におけるロシアとの問題は東西冷戦時代と異なり、イデオロギー的側面が抜け落ちている。

そのイデオロギー的側面はテロリズムとの戦いに見られる。西欧近代とジハード主義の対立である。ただし、テロリズムの温床はEU内部においても育っているので完全に排除することは困難である。

 

EUにできないこと-その限界

なぜ行き詰まっているのか?それは難民問題に対するEUの在り方を見ればわかる。

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EUは域外からの人々に対しても市民権を認め、域内の人々と同様に取り扱うことを法的に決めている。寛容の理念を掲げ、手厚く人権を保障している。ただし、それは中に入れば、の話である。そもそもEUは域外からの流入民に対して冷淡であった。ところが100万人を超える難民が流入してきたのである。これは全く持って想定外であった。そして流入してきた難民がシェンゲン体制を利用することでこの体制自体が崩壊しつつある。難民の流入をせき止めるために各国が国境管理を強化したからだ。ここにおいて難民の流入という設立当初想定していなかった事態に直面したことで、EUは逆統合と域内対立を深めているのである。

 

現下の問題

EUが機能している間はそれに対する加盟各国民の支持があった。それは移動の自由や職業の資格、製品の規格など日常生活での恩恵と直結していたからだ。機能しているから統治を妥当だと感じる、すなわち機能的正当性があった。しかし、機能不全に陥った今やその統治に妥当性はない。しかも、EUの官僚は直接選挙で選ばれてもいないし、欧州議会は遠い存在である。民衆の不満が高まっていく。これが民主主義の赤字という問題である。こうした中で各国に噴出するのは「自国のことは自国で決める」という自決権であり、移民・難民の流入に対する恐怖感・雇用不安である。

 

そうした民主主義の赤字はユーロ危機の中で助長される。ユーロ危機のためには財政統合、銀行統合などEUの権限を強めることが不可欠である。しかし、各国の不満は民主的な支持のないEU政府の統治にある。今までのEUに対する支持は問題を解決してきたその機能性にあった。今、問題の解決には集権化が必要なのに、人々の意向はそれとは逆にある。全く持って袋小路の状態にEUはある。

 

まとめ

以上をまとめると次のようになる。

EUはそもそもドイツ問題と東西冷戦の対処のためにできた。実際、ドイツ問題が燃え上がるたびに統合という解を用いて対応してきた。
冷戦が終わった現在においてもドイツ問題、そしてウクライナ問題、テロの問題は当初の目的の枠組みを活用して対処ができる。
しかし、難民問題は想定外の事態だった。シェンゲン体制が崩壊の危機に直面し、各国では機能不全のEUに対する反感が高まっている。

これが現下のEUの問題である。

 

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