大学入試問題から考える現代社会「日本で格差は拡大しつつあるのか?」
2017年 大学入試センター試験【政治・経済】より
問2 次の表は日本、アメリカ、デンマーク、ドイツにおける2000年代の低所得層に対する所得再分配の比率と、所得再分配後の相対的貧困率とを示したものである。この表から読み取れる内容として正しいものを、下の①~④から選べ。
(単位:%)
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日本 |
アメリカ |
ドイツ |
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低所得層に対する 所得再分配の比率 |
2.0 |
1.9 |
6.0 |
4.2 |
15.0 |
17.0 |
5.0 |
11.0 |
(注)表中の「低所得層」とは、所得の下位20パーセントの世帯を指す。「低所得層に対する所得再分配の比率」とは、低所得層が受け取る公的な現金の給付額(直接税および社会保障の負担を差し引いた値)が、全人口の可処分所得の総額に占める比率である。
(資料)OECD編著『格差は拡大しているか』(2010年)により作成。
選択肢
①EU(欧州連合)に加盟しているがユーロを導入していない国は、低所得層に対する所得再分配の比率が最も低く、相対的貧困率が最も高い。
②リーマン・ショックの発端となった国は、低所得層に対する所得再分配の比率が最も低く、相対的貧困率が最も高い。
③すべての原子力発電所を2022年までに閉鎖する予定となっている国は、低所得層に対する所得再分配の比率が2番目に低く、相対的貧困率が2番目に高い。
④現時点で政府の債務残高がGDP(国内総生産)の2倍を超えている国は、低所得層に対する所得再分配の比率が2番目に高く、相対的貧困率が2番目に低い。
解答
②が正解。②の国はアメリカを指している。所得再分配比率は1.9と最も低く、社会保障が整備されておらず、競争社会であることがうかがえる。また、相対的貧困率は17.0と4カ国中最も高く格差が大きいことを示している。
①はデンマーク、③はドイツ。④は日本で、アメリカについで所得再分配の比率が低く、一方で相対的貧困率が高い。すなわち、日本でも格差が拡大しつつあり、アメリカ型の自由主義的な社会へと変わりつつあることがデータからうかがわれる。
考察:日本で格差は拡大しつつあるのか?
まず用語を定義したい
相対的貧困率とは
相対的貧困率とは「所得が国民の中央値の半分に満たない人の割合」(「OECD日本カントリーノート2015年」より)を指す。
そもそも相対的貧困とは、「ある国や地域の中で、平均的な生活レベル(中位所得)よりも、著しく低い水準に置かれている状態」を指す。
一方で絶対的貧困とは「その国で人間が文化的な生活をするのに必要な最低限の所得が満たされていない状態」をいう。
明坂らは、絶対的貧困の線引きを、生活保護基準額に満たない額と定義している(どちらの定義も明坂弥香ら著「日本の子どもの貧困分析」pp.2-5より引用)。
そもそも格差とは
本記事における格差とは、所得程度の差である。
所得格差の指標として「ジニ係数」というものがある。所得配分の格差を「0~1」の数値で表したものであり、「0」は全員の所得が同じ状態で「1」は1人の者が所得を独占している状態である。
「1」に近くなればなるほど、不平等である。ジニ係数は高所得者が増加すれば、数値が大きくなる傾向にある。
ジニ係数の目安は以下のようになる
0.2~0.3 通常の所得配分が見られる社会。
0.3~0.4 若干の格差がある社会。市場経済においては通常の値である。
0.4~0.5 格差がきつい社会。
0.5以上 格差が大きい社会であり、政策等での是正が必要となる。
現在(2013年)の日本のジニ係数(所得再分配後)は0.30であり、若干の格差がある社会に分類される。ただし、所得再分配前のジニ係数は0.48であり、政策による格差是正の効果がうかがえる。
(ジニ係数の定義および目安の引用は、とうほう『政治・経済資料2017』による)
日本の現状はどうなのか
2015年度における中央値は245万円であり、したがってその半分の122万円以下が相対的貧困となる。
割合としては15.6%であり、日本の人口が約1億2500万人であることから、およそ2000万人が貧困状態にあると仮定される。1985年には12.0%だったことを鑑みれば、明らかに貧困状態にある人は増加している。
ただし、所得再分配前の数値は28.65であり、再分配後と比較しておよそ2倍の数値を記録している。ここにおいても政策による是正効果の大きさがうかがえる。
格差は拡大しているのか
所得再分配後のジニ係数は1998年の0.3326をピークに、2013年は0.3083まで下がっている。
相対的貧困率は、1985年には12.0%であったが、徐々に上昇していき、2012年の16.3%をピークとして以後低下し、2015年には15.6を記録している。
ジニ係数の数値が下がっているにもかかわらず、相対的貧困率が上昇しているということは高所得層と低所得層の開きが拡大していることを示している。
また、これは一部の高所得層に所得配分が集中していることも示している。底辺層への再分配が行き届いておらず、所得程度の差が明らかに拡大している。
かつて一億総中流といわれ、広い範囲で所得が平準化されていたことを考えれば、格差は拡大しているといえよう。
格差の何が問題か
OECDは格差の問題点としては
①低所得層の教育投資を困難にする点
②就業機会の低下
の2点を挙げている。
①については、低学歴の両親を持つ子の学力が低くなることや、高等教育を受ける確率の低下が確認されている。②に関しては、格差が大きいほど低学歴層が就業できない確率が上昇することが確認された。こうしたところから、OECDは格差縮小と機会平等政策の重要性を強調している。
結論
結論を言えば、日本で格差は拡大しているといえるだろう。
繰り返しになるが、以下のことがそれを示唆している。すなわち、
ジニ係数の数値が下がっているにもかかわらず、相対的貧困率が上昇しているということは高所得層と低所得層の開きが拡大していることを示している。また、これは一部の高所得層に所得配分が集中していることも示している。底辺層への再分配が行き届いておらず、持たざる者が増加したという点において日本の格差は拡大している。
(引用を示しているデータ以外は、平成29年度厚生労働白書より引用した。)