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資本主義と自由民主主義の関係は、仲が良くない夫婦と同じ

 

こんにちは、しらすです。

 

冷戦が終結して以降、「資本主義(自由民主主義)の勝利」ということが言われ続けてきました。

しかし、近年では先進国を中心に格差が拡大していることから、むしろ社会主義の人気が高まっているように感じます。

 

一方で、かつて社会主義国だった国々は冷戦終結以降、次々と資本主義体制へと転換し、中でも中国は目覚ましい経済成長を遂げました(注意していただきたいことは、これらの国々は建前としては社会主義国です)。

 

自由民主主義諸国を中心に資本主義の終焉論が叫ばれていますが、果たしてどうなんでしょうか。

今回の記事では、資本主義と自由民主主義の関係について、政治学者の知見を借りて考えてみましょう。

 

今回考えたいことはこちら。

  • 資本主義と自由民主主義の関係
  • 資本主義がもたらすいいところ
  • 資本主義がもたらす弊害
  • 今、両者の関係はいい状況なのか、悪い状況なのか

 

早速見ていきましょう。

 

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資本主義と自由民主主義の関係

資本主義が終わるといわれて久しいです。

 

近世のイタリアから始まったとされる資本主義は形を変えて今日まで存続してきました。そして、近代社会では自由民主主義と結びつき、先進国の多くで経済システムの中心に据えられています。

両者の関係性について、ロバート・ダールという政治学者は次のように述べています。

 

デモクラシーと資本主義市場経済の関係は、たとえて言えば、けんかを繰り返しながらも結婚生活を続けている夫婦のようなものである。喧嘩をしながらも、どちらも離婚をすることまでは望まないのでなんとか持ちこたえて一緒にいる、そんな関係である。(ダール『デモクラシーとは何か』P.228)

 

いついかなる時も仲がいいわけではないんですね(笑)

 

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ロバート・ダール

 

資本主義がもたらすいいところ

ダールは資本主義と自由民主主義の関係のもたらす好影響について次の3点を指摘しています。

 

①経済成長は資本主義経済によって実現されてきた。しかも、経済成長はデモクラシーにとって有利に作用する。とりわけ、きわめてひどい貧困をなくし、生活水準を改善できるので、結果的に社会的対立や政治的紛争を減らすことができるのである。…(中略)…経済成長は、分配できる資源を増やしてくれるので、個人にとっても、集団にとっても、また政府にとってもいろいろな恩恵をもたらしてくれる。たとえば、教育を充実して、識字率が高く教育の行き届いた市民たちをはぐくむことができるようになるのである。(ダール『デモクラシーとは何か』P.230)

 

社会主義経済では、経済成長が主眼のシステムが導入されませんでした。皆が労働に従事し、その分け前を等しく受け取れる、というところに美点がありますが、人口の増加や経済縮小に伴い、受け取れる分け前が減っていくので、だんだんジリ貧になっていきます。競争原理がなく、サボろうが頑張ろうがもらえるものは同じなので、みんなが手抜きで働くようになりました。生産性は落ち、経済は減速します。

ソ連はそうして皆が貧乏になり、これを見た中国は分け前を等しく配ることをあきらめ、分ける前の利益を増やす方向にかじを切りました。1978年の改革開放路線、1993年の社会主義市場経済憲法化です。

 

結局、分け前を等しく配る、という結果の平等を重視しすぎても、配るものがないと話にならないのですね。

 

②資本主義市場経済は、それがもたらす社会的ないしは政治的な成果の点でも、デモクラシーにとって好ましい役割を果たしてくれる。つまり、市場経済は財産所有者である中産階層を大量に生み出す働きをもっているのである。そういった階層に属する人々は一般に、教育、自立、個人の自由、財産権、法の支配、政治参加といったものを追求するという特徴がある。中産階層は、アリストテレスが初めて指摘したようにデモクラシーの理念や民主的な制度を本質的に支持する傾向がある(前掲書、PP.230-231)。

 

これは①の経済成長とリンクしています。

経済成長によって人々の所得水準が向上し、経済的な充足が満たされると、精神的な充足を人々は求めるようになります。法の支配や基本的人権などを重視し始め、政治体制の変革のために政治に関心を持つようになります。また、経済成長に伴い、産業が高度化していき、社会に出るまでの訓練機関としての学校教育が長期化していきます。その結果として、さらに法の支配や基本的人権に親和的な人々が生まれるわけです。

日本でいえば、特に高度経済成長期に国民全体の所得水準が向上していきました。成長の恩恵が多くの人に分配され、「明日は今日よりいい日になる」とみんなが信じていた時代でした。

中間層が民主主義には重要なのです

 

③最後にもっとも重要だと思われる点は、資本主義市場経済は、経済的な意思決定の多くを脱中央集権化し、それが独立性がかなり高い個人や社会に任せるので、強力かつ権威主義的であるような中央政府を必要としないということである。(前掲書、P.231)

  

民主主義とは、社会の構成メンバーが集団的に意思決定を行うシステムです。そして、自由民主主義の前提は、メンバー全員が自立・自律した個人であるということであって、中央政府に指図されて嫌々動くシステムではないんですね。だから、資本主義というのは極めて自由民主主義と親和性の高いシステムであるということです。

どちらも本質は自由な個人が個人として意思決定をするという点にあります。

 

けれども、先ほどお伝えしたとおり、両者の関係は仲が良くない夫婦です。いい面ばかりではありません。

 

資本主義がもたらす弊害

 

貧困, 男性, アーム, 富, 物乞い, 数字, 帝国, 意味テスト, 剥奪, お金の不足, 資金繰りが苦しい

 

ダールは、資本主義が自由民主主義にもたらす悪影響について述べています。

 

 ①民主的な国家の場合には、政府が広範囲にわたって、市場経済のもたらす有害な影響に修正を加えるための規制や介入を行わなければ、資本主義市場経済は決して存続できない(あるいは長期にわたって存続することはできない)(前掲書、P.243)

 

至言です。

野放図な資本主義は貧困に苦しむ人を大量に生み出し、市場の落伍者に対する救済もありませんでした。市場というのは、そもそも利己的な個人を前提にしていますから、少なくとも理論上は市場において助け合いは生じません。強いものが勝ち、弱いものが負ける場、それが市場です。

でも、競争のルールがそもそも不公正だったり、参加以前に資質にとてつもない格差があってはシステムの持続可能性は見込めないので、それを是正することが不可欠になります。たとえば、企業間の自由競争をフェアにするために独占禁止法が作られたり、人々の状態を良好に保つために医療が普及したり、政府は様々な領域に介入して、市場を健全に保っているのです。

政府の役割の一つは所得の再分配なのです。

 

資本主義市場経済は不可避的に経済的不平等を生み出す。そして、それは政治的資源の配分の不平等をもたらす。その結果、ポリアーキー型デモクラシー(注:自由民主主義のことと思ってください)が潜在的にもっている民主的な可能性は制限されてしまうことになる。(前掲書、PP.243-244)

 

これが、今の日本をはじめとした先進国民主主義国で超問題になってます。

 

政治的資源というのは、ある個人・集団が、社会に対して影響力を行使しようとするときに活用できる資源のことです。たとえば、武器やお金、知識、教育、法的地位など多岐にわたります。

民主主義の道徳的な原理として、すべてのメンバーは政治的に平等であるというものがあります。したがって、この政治的資源は理想的にはすべての人に等しく分配されるべきですが、現実には不平等に分配されています。ですから、民主主義という目に見えないシステムを維持するうえで、その根拠となる人々の間の平等を維持しないと、このシステムは形骸化してしまうわけです

教育格差の問題も、こうした資源配分の不適切さを象徴しています。

 

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③資本主義経済は、デモクラシーの発展にとっては好都合で、特に、ポリアーキー型デモクラシーに至るまでの発展に大きく寄与する。しかし、ポリアーキーのレベルを超えてデモクラシーが発展しようとするときには、市場経済は、政治的平等を損なう帰結をもたらすために不都合なものとなる。(前掲書、P.245)

 

これも②の問題と同じです。

つまり、資本主義は、ある一定レベルの民主化には極めてマッチしているわけです。経済成長によって、富が分配されて中間層が育つわけですから。

しかし、一定レベルの民主化が達成され、今後は成熟した民主主義国家になると、市場経済の負の側面に悩まされてしまうのです。資源配分の不平等が、市民間の政治的資源の配分に格差をもたらし、不公正な社会を作り上げてしまうわけです。

生まれや地域という本人に選べない要素によって、持ちうる資源が異なり、さらにはそれによって無限の可能性が阻害され、社会を変革する機運まで失ってしまう。そんな負の連鎖が、資本主義によって生じてしまうのです。

 

今、両者の関係はいい状況なのか、悪い状況なのか

 

離婚, 分離, 引数, 紛争, 競合, 関係, カップル, 夫, 妻, 分裂, 捨て去, 不幸です, 分割

ここまでダール教授の知見をご紹介してきたわけですが、現在の自由民主主義諸国において資本主義との関係はどのようになっているのか、最後に考えてみましょう。

 

自由民主主義諸国で問題視されているのは、格差の拡大です。

格差の拡大というのは、資源配分が偏在していることを意味しています。

その背景には、簡単に言うと政府が資源配分への影響力をかつてよりも失ったことがあげられるでしょう。

多くの国では、失業者の増加やワーキングプアなどといった労働市場の問題、高齢化などに伴う社会保障費の増大及びそれに伴う負担の増加、経済の停滞による賃金の下落など経済問題に頭を抱えています。財政的に余裕があれば、これらの多くの問題は解決してしまうのですが、1980年代以降主要国の多くは小さな政府にかじを切ったため、政府規模が縮小しています。かつての福祉国家から、労働者派遣法の解禁や民営化など市場競争を促す方向に政府が姿を変えたのです。

また、企業も経済成長が停滞してしまったため、労働者に利益を分配することが難しくなっています。そして、それにより中間層が没落し、富裕層と貧困層という形で社亜紀が分断されてしまうわけです。

 

資本主義に対する政府の介入が弱くなっています。したがって、資本主義に伴う失業や所得の再分配が機能しなくなり、資本主義が健全に機能しなくなっています

 

それに対して、政府が介入して、所得の再分配などを通じて人々の福祉を高めていくべきなのでしょうが、財政赤字が拡大する中で中々困難になっています。

 

つまり、今、両者の関係は非常に悪い。

離婚届にサインをする寸前です。

 

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これに対する解決策として考えられているのが以下の2つです。まさに弁護士の調停のような。

  1. MMTによる財政膨張
  2. 政府以外の領域での共助の促進

 

1つ目のMMTとは、現代貨幣理論のことですが、簡単に言うと、政府は(ある条件を満たせば)無限に借金ができるから、人々にお金を配ることができる。これにもとづいて、ベーシック・インカムなどを導入しようという話です。

 

2つ目は、実はすでにイギリスが経験済みなのですが、第三の道と呼ばれる解決策です。つまり、国は財政赤字で助けられないし、市場はそもそも助け合いを想定していないから、それ以外の方法を採用しよう。で、それは国家でも市場でもなく、人々の助け合いでどうにかしよう、という話です。

 

さて、どうすべきか、というところですが、それはまた別の機会に。

それでは。

 

最後までお読みいただきありがとうございました。

 

参考文献

 

過去記事

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