新卒教員の教科書

私立高校一年目。『新卒教員としてのオリジナルテキスト』をつくろうという試みでブログを書いてます。社会科のこととかビビッときた本の書評とか日常生活のこととか。

MENU

【ニュースの「なぜ?」と「だからなに?」】中距離核戦力全廃条約が破棄されるかも

 

新聞にこんな記事があった。

 

米破棄方針で存続危機…INF全廃条約 現状は

 

 中距離核戦力(INF)全廃条約は、トランプ米政権がロシアによる条約違反などを理由に今年10月、破棄方針を表明し、存続の危機にある。

 トランプ政権は今月4日、ロシア側に対し「60日以内に完全かつ検証可能な形で再び条約を順守しなければ、米国は義務の履行を停止する」と通告した。ロシアは一貫して条約違反を否定しており、条約が無効になる公算が大きくなっている。

 INF条約の破棄を打ち出したのは、核保有国である中国が条約に拘束されず、ミサイルを開発・配備できることも背景にある。トランプ政権は、中国を巻き込んだ新たな枠組み作りを模索する姿勢を見せている。

 プーチン露大統領も18日、INF条約に関連し「現行条約や新条約の交渉に他国が参加することを妨げるものがあるのか」と述べ、今後の枠組みには米露以外の国も参加可能との認識を示した。

 ロシアは、核戦力の均衡を維持する観点から米国との核軍縮枠組みの維持を重視している。軍拡競争になれば米国にかなわないと自覚しているためで、隣国・中国によるミサイル開発にも神経をとがらせる。

(読売新聞 2018年12月20日 朝刊より)

 

ざっくり言えば、トランプ大統領が中距離核戦力全廃条約を破棄すると言っているということだ。

 

新聞を読んで「だから何?」となることは多い。

新聞の背景がわからない、だからその意味するところもわからない、そんな人にこの記事を読んでほしい。

 

そもそも中距離核戦力(INF)って何?

f:id:europesan:20181220222916p:plain

中距離核戦力とは、射程距離が500~5500㌔㍍の核ミサイルのこと。

整理するとこんな感じになる。f:id:europesan:20181220215121p:plain

たまにニュースに出てくるPAC-3、あれは短距離核戦力だ。

中距離核戦力は、1980年代の新冷戦期にアメリカとソ連の核軍拡競争の中心となった兵器であり、限定核戦争(核による抑止状態が崩れても、全面的な核戦争には至らないという考え)が可能という考え方から開発された。

 

ちなみに新冷戦とは、1970年代末期から始まるアメリカとソ連の対立の激化した状態をいう。1979年にソ連アフガニスタンへと侵攻し、それに反発したアメリカがINFをヨーロッパへ配備したり、SDI(宇宙からレーザーでソ連の核ミサイルを迎撃する兵器の開発)構想を打ち立てたりと、この時期に両国が軍事拡大に邁進した。

そうした対立状況も、1985年にゴルバチョフソ連の書記長に就任すると変化する。

ゴルバチョフの新思考外交によってアメリカとソ連の対立が融和へと向かっていく。

 

中距離核戦力全廃条約にはどんな意味が?

そうした融和ムードの中で、1987年、アメリカとソ連の両国が中距離核戦略(INF)全廃条約に調印した。

この条約の意義は次の点である。

  • 史上初めての核兵器削減を決めた条約。
  • 米ソのとめどない軍拡競争に歯止めをかけた。

 

ただ、問題点もある。

  • 地上発射のミサイルのみを廃棄の対象とした点。よって、空中や海中からのミサイルは廃棄対象に含まれていない。
  • 核弾頭そのものは廃棄の対象外である点。
  • 米ソのみを対象としており、中国やイギリスなど米ソ以外の核保有国が対象外である点。

アメリカとソ連が相互に合意を守り軍縮を行うことで、信頼関係を作りながら、軍備の管理を行うという点に大きな意義があったと思う。

 

冷戦が終わり、ソ連が1991年に崩壊してからは後継国家であるロシアがこの条約を引き継いだ。

 

なぜ破棄しようとしているの?

そもそもアメリカはなぜこの条約を破棄しようとしているのか。

アメリカの言い分は、ロシアが条約違反を行ったことだ。ロシアは2008年に条約で禁止されている巡航ミサイルの開発を行った。

しかし、アメリカの本音は冷戦時代の面影のないロシアではない。軍事的躍進中の中国が念頭にある。

 

前述のとおり、INF全廃条約はアメリカとソ連のみが対象であり、中国は規制されない。

近年、中国は軍事予算を増大させ、着々と兵器を配備している。それは核ミサイルも同様である。

 

たとえば、800から2500kmが射程距離の東風21型ミサイル。そして射程距離が850km程度の東風15型ミサイル。これらを合わせると一説には600基以上が配備されている。

さらには、2015年には射程距離が3000-4000kmの東風26号が配備された。これらの核ミサイルは年々増加しているという。

 

こうした中国の軍事的拡大に対抗するという意味で、アメリカは条約の破棄を表明しているのだ。

もしアメリカが条約を破棄すれば、米中の間で軍拡競争が繰り広げられるかもしれない。

そうすれば、地政学的にアジア・太平洋地域の不安定性が増大するかもしれない。それは日本の軍事予算の増大をもたらすかもしれない。なぜなら、日本は中国の核ミサイルの射程圏内にあり、アメリカは2013年に「世界の警察をやめる」と宣言したことからも、自主防衛の必要性が増しているからだ。北朝鮮だけが敵ではないのだ。

 

と、記事を書いている途中に新たなニュースが舞い込んできた。

www.asahi.com

 

ロシアが中国も含めた新たな条約の枠組みを提案したのだ。

逼迫する経済状況のロシアは国防予算の増加を避けたい。だから軍拡競争がはじまっては困る。こんな思惑から多国間条約の締結を提案した。

そもそもソ連が崩壊したのも軍事予算が膨大化し、財政赤字が膨張したことにあった。後継国家のロシアも経済的に苦しい立場にあり、条約の破棄はいいことではないのだろう。

 

またIN全廃条約で決まった軍備管理はお互いの信頼関係があってこそ守られる。はたして米中ロで信頼関係が作られる余地があるのだろうか。

 

中距離核戦力全廃条約の動向は新たな冷戦の突入への試金石になるかもしれない。