授業が変わる
日本の公教育のマニュアルといえば「学習指導要領」です。
このマニュアルは10年ごとに改訂されているのですが、既に2020年度からは小学校で、2021年度からは中学校で、そして2022年からは高校から全面的に実施されることが決まっています(下図参照)。
ちなみに高校も既に移行期間に入っているので、個人的には「ついに公共始まるな、熱いな…!」とワクワクしています。
で、今回の学習指導要領改訂の特徴は、「育成すべき資質・能力」から逆算して編成されているということです。
今までの学習指導要領は学習内容ありきで編成されていました。ですから、教科を超えて体系的に能力を育む、というより、「この内容を教えるべきで、こういう順序でやったらええんじゃないかの~」というコンテンツベースで作られていたのです。
しかし、次期学習指導要領は資質・能力ベースとなります。たとえば、批判的思考力を身につけさせたい、だから各教科ではこう教えるべきだ、というふうに根拠となるロジックが180度変わるわけですね。
この辺の議論は那須先生の著作に書かれていますので、気になる方は書店へ!
社会科ではどうなるか
那須先生の議論によれば、教科を超えた汎用的な資質・能力と、学習内容を結ぶものとして、「教科固有の見方・考え方」を働かせることが重要となるそうです。
社会科でいえば、「社会的な見方・考え方」、
筆者の専門である公民科でいえば、「現代社会の見方・考え方」です。
で、見方・考え方って何なのか、ということですが、一例として「社会的な見方・考え方」を引っ張ってきました。
(a)「社会的事象等の意味や意義、特色や相互の関連を捉える視点や方法(考え方)」
(b)「よりよい社会の構築に向けて課題の解決のために選択・判断するための視点や方法(考え方)」
(橋本康弘『「公共」の授業を創る』14頁)
簡単に言えば、①世の中をただ単純に眺めるのではなく、分析や批判の際に軸となる原理であって、②社会参画や理想の社会を構想する時に判断・決定する際の考え方だと私は解釈しています。
①の例としては、たとえば、立憲主義を知っていれば、改憲案の是非を考える一助となるでしょう。
②の例としては、リベラリズムや社会民主主義を習得していれば、理想社会のあり方を考える際に判断軸となるでしょう。
ちなみに橋本先生の本では、「公共」における見方・考え方として、
幸福、正義、公正、人間の尊厳と平等、共同の利益と社会の安定性の確保、個人の尊重、民主主義、法の支配、自由・権利と責任・義務など
(同16頁)
という形で列挙されています(学習指導要領に則った形ですね)。
実際に働かせてみた
で、現実的な文脈で社会的な見方・考え方を働かせるシーンとしては、ニュースなど社会的事象を見る際に働かせることが一番多いパターンなのかなと思っています(投票の前などにも働かせてほしいですね)。
で、見方・考え方を働かせる一例として、次のような例があるのかなと思っています。
※お見苦しいかもしれませんが、ツイートをバンバン貼っていきます。
これ、報道の仕方が最悪だね。
— しらす (@dokomademoinaka) 2020年5月6日
政府の意図や背景にある仕組みが何も書かれてないから、「国民ではなく海外を優先する政府」みたいに読み違える人が出てくる。
人は見たいように現実を見る。https://t.co/IoE4Y24N8f
たぶんこれからの世界は一国内でまとまる力が強まる。つまり、トランプの出現やブレグジットのような一国中心主義で、グローバル化の反動がくる。
— しらす (@dokomademoinaka) 2020年5月6日
今はサプライチェーンが世界規模になっていて貿易が緊密になっているけど、供給が少なくなって「まずは自国が」という傾向が起きる。
となれば、食料自給率が40%の日本は、食料の確保が大優先になる。こういうときに「国際協調」の一環で、他国に恩を売るのは極めて重要。
— しらす (@dokomademoinaka) 2020年5月6日
たぶんEUとの結び付きを強めたいというのと、世界的に反中国になっている今、途上国の脱中国化(脱一帯一路)を促進したいと思うのだが、その説明がない限り、国民は誤解する。
— しらす (@dokomademoinaka) 2020年5月6日
加えて、今回は「ドル」で支援している。「円」じゃない。
— しらす (@dokomademoinaka) 2020年5月6日
つまり、円売りドル買いが行われて、円安ドル高化が進む。
今現在、安定資産として円が変われる傾向にあるから、円高ドル安化が進んでいる。だから、政府としては円安ドル高を進めて為替相場を安定化させたい。
と思う。
日本の外貨準備高はほとんどドル建て資産だから、ある程度ドル高にしないと、持ってるだけで資産が減るようになる。
— しらす (@dokomademoinaka) 2020年5月6日
これが背景にある。
でも、こんだけ批判が出てくるということは、国内的な支援の不足は確実にあって、「まずはそこから」という順序に不満を持つ人がいるんだろう。
つまり、どういうことよ?
元のニュースは「安倍政権が数億ドル規模で海外への支援を表明した」というものです。
でも、これだけ伝えられても、背景にある仕組みや政権の意図がわからなければ、自分のもっている情報だけで文脈を勝手に創ってしまいますよね。
で、理論がなければ、つまり見方・考え方をもっていなければ、「感情」でしか判断できなくなるわけです。
一人一人が理性的に判断することを求める民主主義社会にとって、多くの人が「感情的に」判断してしまえば、それは民主主義の崩壊につながります。
ですから、ニュースを分析する枠組みとして見方・考え方が必要となるのです。
今回働かせた見方としては次の通りです。
①日本外交の原則には「国際協調主義」があること、②国際社会は理念だけでなく国益に基づいて動くというリアリズムの原則、③外貨準備高や為替などの国際経済の理論
このように、見方・考え方とは、ニュースを分析する、目の前の社会的事象を分析する、理論・原理です。
これらは全て高校までの公民科で学習する内容です。
こうした原理がたくさんあればあるほど、物事の本質が見えてきます。
今後の授業では、こうした見方ができるような生徒を育てることが求められています。
とにかく教えるのではなく、考えさせる。そして、自分がもっている考え方に自覚的にさせる。自戒の念も込めて、こうした授業を引き続き続けていきたいと思います。
表題には「子どもたち」と書きましたが、本来であれば老若男女問わず持つべき者だと考えています。
※ちょっと中二病っぽいので言わなかったのですが、僕個人としては見方・考え方を生徒たちが持てるようにすることを「武器を持たせる」と言いたいなと考えてます。笑
完全に瀧本先生の影響を受けています。既になくなられていますが、瀧本先生の著作は論旨明快で、それでいて非常にパッションを伴った内容です。非常におすすめですので、是非ご一読を!
※ちなみに冒頭の絵は僕が描きました。抽象画ではありません。