小学校から主権者教育を積極的に推進すべきという提言が出されました。
主権者教育とは?
学術会議が2020年8月に発表した「主権者教育の理論と実践」によれば、主権者教育とは、「政府に自己の選好を伝達できるようにすること、また政府の決定をコントロールできるような知識や技能、行動力を身に付ける教育、一言でいうならば、政治参加を自分で使いこなせるようになるための教育」です。
「報告:主権者教育の理論と実践」http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-24-h200811.pdf
政治参加の中心的な手段は投票です。
そのほかには、デモや請願、ロビイング活動、陳情などがあります。
なかなかハードルが高いですが、立候補という手段もあります(むちゃくちゃお金がかかります…)。
最近は多くの学校で模擬投票は行われるようになってきました(が、1年に1回だけ選挙管理委員会の人が学校に来て、投票したところで投票の重要性がしっかり伝わるか、投票に行くようになるのか、現場で教える身としては疑問です)。
▼2022年から「現代社会」に代わり「公共」という科目が始まります。
何で小学生から?
政治参加の前提には、理想社会の実現のためにどういった政策が妥当なのか判断したり、既存の政策を批判的に考察したり、様々な認知能力が求められます。
そうした資質・能力の育成には社会科の知識が欠かせません。その意味では広い意味での主権者教育は、小学校の生活科や社会科を初めとした教科で行われてきたといえます。
けれども、今回、文科省の有識者会議が政治参加までを意識した主権者教育を行うべきといったのは深い訳があります。
2015年に改正公職選挙法が成立して、翌年の参議院議員選挙から18歳選挙権が付与されました。
18歳選挙権が導入されて初めての国政選挙でしたから、それに向けて全国各地で主権者教育ムーブメントが生じました。マスコミ各社も学校現場の授業風景を取り上げていたのが記憶に新しいです。
その結果、年々若年層の低投票率化が進む中で、10代の投票率は46.78%。20代の投票率を10%も上回る記録でした。
しかし、昨年2019年の参議院選挙では32.28%と大きく下落しています(それでも20代の30.96%の投票率の方が低いですが…)。
もちろん低投票率には様々な理由がある訳ですが、会議の提言としては早期の教育段階から投票の重要性を含め、政治参加を意識した教育を実施すべきという話になった訳です。
また、学校だけではなく家庭や地域社会との連携も述べられています。
たとえば、幼少期から保護者と一緒に投票所に行ったり、地域社会の課題解決案を考えるために地域のNPOや行政などと学校が連携することが謳われています。
要は社会との繋がりを早い段階から意識させて、自分たちが社会を変えるんだという政治的な感覚を持ってほしいと言うことですね。
確かに、個人の裁量ではなく、投票という文化として定着すれば低投票率の改善にはつながりますね(地道な、長い長い積み重ねが必要ですが)。
選挙制度や労働環境、国家のあり方など様々な問題が低投票率と絡み合っているんですが、教育という面から考えると、なるほど確かに必要だな、とは思う施策です。
ただ、問題点としては、選挙が果たして民主主義とベストマッチングしているのか?という視点が欠けているなあと感じます。
そもそも多数決の選挙は、みんなで決めるのがベストだけど時間的制約がないから導入したという消極的な側面を持ちます。
中間報告、選挙に行かなくなっちゃった、っていう主張は伝わるんですけども、
— しらす (@dokomademoinaka) 2020年11月8日
選挙に行かなくなった理由、選挙以外の手段を拡充すべきだっていう視点が欠けてるんですよね。
だから、そもそもの民主的な市民のあり方として「社会を作る」っていう視点には大いに共感できるし、現場で考えていきたい。 https://t.co/Gf8WxxENHy
あと、中間報告の問題点は人選にもあるんではないかなと思っています。
— しらす (@dokomademoinaka) 2020年11月8日
現場で「今」教えてる先生や今の学校教育に対して俯瞰的に見れる教育社会学者、疑問を突きつける哲学的な立場の人(小玉先生は政治哲学・教育哲学系なので近いのかな)がいないなぁと感じてます。
あと政治過程論の人もいない。 pic.twitter.com/ft8LB60ma4
投票万能主義に陥らず、選挙以外の視点をもつことも重要かと思います。
先生に出来ることは?
僕個人の立場は、選挙は民意を伝える一つの手段に過ぎなくて、デモや国民投票、熟議など様々な回路を通じて民意を反映すべきだという立場です。
これはラディカル・デモクラシーと呼ばれる1990年代以降に登場した民主主義観に寄った立場です。
ですから、「投票の作法を学ぶだけの」模擬投票にあまり意味はないなと思っていて、きちんと政策を学んで、どの政策を掲げている候補者がいいのか、価値判断を伴い、思考法を学習できる模擬投票にこそ意味があると思っています。ですから、話し合いの作法の教授やディスカッションを積極的にやるべきだという立場です。
▼ラディカル・デモクラシーにおける主権者教育
そもそもリアルな状況を再現して、その場面で役に立つことを教えないと…と思います。主権者教育は学校の中でできることではなく、卒業後、社会に出てから出来ることを身に付けてもらう教育ですから。
具体的に学校で出来ることは学校単位で先生方が目標を決めて、それに向かって協力することが重要かと思います。
これは新しい学習指導要領で示されているカリキュラム・マネジメントの発想です。
現状は学校の先生は忙しく、なかなかカリキュラムをデザインする時間がありませんが、近接教科だけでも協力しあってみることをオススメします。たとえば、公民科と家庭科とか。
大事なことは目標を明確化し、それを実現する手段が何かを常に先生が考えることだと思います。
家庭や地域との連携はあくまでも手段です。どういう理想のための手段か、常に見返すことを、自戒の意味も込めて大切にしたいと思います。
▼過去記事でも主権者教育について触れています。
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