次の高等学校学習指導要領では主権者教育の推進が謳われるようだ。「公民」の中で新たに設置される「公共」は主権者教育の推進の鍵となる科目である。以下は記事の一部抜粋である。
新たな科目「公共」とはなにか
「公民」の中に必修科目として新設される「公共」は「様々な選択・判断をする際に手がかりとなる概念や理論、公共的な空間における基本原理を理解する」ことなどを目的に、政治参加に向けた基礎知識について、討論や模擬選挙などの活動を通して政治に参加する資質を育む科目だ。授業では現実に直面している諸課題をテーマに設定し、安全保障問題や領土問題、国際貢献における日本の役割などを主題とするほか、情報の妥当性や信頼性をふまえた公正な判断力を身につけるメディア・リテラシーの育成も行う。(読売新聞「高校、主権者教育充実…安保・領土題材に新科目」2018年1月31日朝刊1面)
「公共」の目的の一つは、政治参加の際に手引きとなる基本原理を、討論や模擬投票などを通じて、その原理を実際に使いながら学んでいくことだと思う。たとえば、選挙の際に候補者のマニュフェストの中からどういった社会保障政策がよいのかを資本主義と社会主義の二項対立の中で評価したり、刑罰の問題について普遍主義や文化相対主義で考えたりということが挙げられよう。ある概念を実際に使いながら判断力を身につけていくのである。
ちなみに新学習指導要領には「公共」の目標が以下のように書かれている。
人間と社会の在り方についての見方・考え方を働かせ、現代の諸課題を追及したり解決したりする活動を通して、広い視野に立ち、グローバル化する国際社会に主体的に生きる平和で民主的な国家及び社会の優位な形成者に必要な公民としての資質・能力を次の通り育成することを目指す。
(1)現代の諸課題を捉え考察し、選択・判断するための手がかりとなる概念や理解について理解するとともに、諸資料から、倫理的主体などとして活動するために必要となる情報を適切かつ効果的に調べまとめる技能を身につけるようにする。
(2)現実社会の諸課題の解決に向けて、選択・判断の手がかりとなる考え方や公共的な空間における基本的原理を活用して、事実を元に多面的・多角的に考察し構成に判断する力や、合意形成や社会参画を視野に入れながら構想したことを議論する力を養う。
(3)よりよい社会の実現を視野に、現代の諸課題を主体的に解決しようとする態度を養うとともに、多面的・多角的な考察や深い理解を通して涵養される、現代社会に生きる人間としての在り方・生き方についての自覚や、公共的な空間に生きる国民主権を担う公民として、自国を愛し、その平和と繁栄を図ることや、各国が相互に主権を尊重し、各国民が協力し合うことの大切さについての自覚などを深める。
「公共」の目指す資質の獲得
こうした資質の獲得は非常に時間を要すると思う。そのためにも、教室の中で主権者教育の実践を繰り返し行っていかなければならない。態度や資質を身につける前に学校を卒業してしまえば、こういった訓練の場は失われ、社会問題への関心や思考の手順を忘れてしまう者もいるかもしれない。だからこそ、小学校や中学校など早い段階から主権者教育は行わなければならない。
判断力は選挙だけでなく、社会問題などについて考える上で非常に役に立つ。社会に出てからも継続して求められる能力だからこそ、高校からではなく小学校から継続して主権者教育を行っていかなければならないのだ。しかし、それだけでは不十分である。以下の記事が非常に示唆に富んでいた。
環境要因の重要性
この記事の終わりでは、政治に興味を持つうえで家庭の雰囲気が大事だということが述べられている。上記のような能力を獲得しても、そもそも対象について興味を持たねば思考は始まらない。主権者を育てる主体には学校だけでなく家庭も含まれている。したがって、家庭に対する啓発事業など生涯教育も併せて行わなければならないと思う。長年の訓練の成果として、関心を持ったり、考えることが当たり前の感覚となることが理想なのだ。主権者を養っていくのはかくも労を要することなのである。