今年の3月、コロナウイルス感染症拡大に伴って、全国の学校が一斉休校になりました。
4月になっても感染症の流行は収束しませんでしたが、各都道府県の教育委員会は学校の再開を発表。それに対して、高校生らが問題提起の動きを見せました。
彼らはインターネットで署名を募り、瞬く間に賛同を集めました。
そして、メディアがその動きを取り上げ、教育委員会は一転、休校の延長を決定しました。
選挙権を持たない高校生が、インターネット上の署名を通じて社会を動かした。
そのプラットフォームを提供しているのが、Change.org(チェンジ・ドット・オーグ)です。
Change.org(チェンジ・ドット・オーグ)
Change.org(チェンジ・ドット・オーグ)は、個人がキャンペーンを立ち上げ、賛同者をウェブ署名という形で募るプラットフォームサイトです。
"empower people to change(人々が社会を変える手助けをする)"を理念に運営されています。
このサイトを通じて多くの署名が集まり、それを取り上げたメディアが頻繁に報道することで、政治家への圧力になったり、また署名を直接政治家に提出し、立法の陳情をするケースがあります。
たとえば、キャンペーン · 非正規でも産休育休がとれる社会になるよう、育児介護休業法に改正を! · Change.orgというキャンペーンは、実際に立法措置にこぎ就くことができた成功例です。
非正規雇用で働く女性のうち育休から復帰できる割合はわずか4%という数字が出ているのですが、その一因となっている「育児介護休業法」の条項を改正してください、と訴えたものです。
ちょうど育児介護休業法の改正が議論されているタイミングに合わせて1万2000人分の署名を審議委員会に持って行ったところ、来年1月から施工される改正案(今年3月成立)で、非正規雇用者の育休の取得要件が緩和されました。彼女たちの声が実際に法律に反映されたんです。
ネット署名は世の中を変えることができるのか 署名サイトChange.orgの4年間 (1/2) - ねとらぼ
直接請求という制度は憲法上保障されていますが、法律で署名の書式が決まっていたり、リアルで多くの署名を集めるのは大変ですから、かなりハードルが高いです。
もちろんChange.orgの署名は法律上の請求書式に沿っていないので直接請求には活用できませんが、それでも立法成立事例等を見れば政治過程への影響力は非常に大きいといえるかと思います。
異議申し立てのハードルが下がったのは素晴らしいです。
デジタルプラットフォームは、理想的な民主主義へのハードルを引き下げてくれる
民主主義は2つの側面からその充実度を測ることができます。
1つは平等な参加、もう1つは異議申し立ての度合いです(厳密な数値化についてはデモクラシーインデックスという団体が民主主義の充実度を数値化して国際比較しています)。
平等な参加というのは男女普通選挙制度や被選挙権が制定されているかどうかということです。そして、異議申し立てというのはデモやリコールの請求、陳情など不満があったときに人々が声をどれだけ上げやすいのか、つまり表現の自由や請求権などの憲法上の権利がどれだけ保障されているかということを意味します。
確かに日本は制度的にはどちらも保障されているのですが、いざ人々が制度を活用しようと思うと、正直かなりハードルが高い。
選挙ですらめんどくさいと思う人が多いわけですから、署名集めとかかなりめんどくさいんじゃないでしょうか。
その点、ウェブ署名のプラットフォームの整備によって、不満があれば家から声を上げ、賛同したかったら家から署名することができるようになりました。
実名での意見表明のハードルが高い日本だからこそ、デジタルの力でそれを少しでも瓦解しようというのは、日本社会が変わっていく兆しなのかなと思っています。
「主権者教育といえば模擬投票」という学校側への疑問
学校現場に勤めていて疑問に思ってきたことがあります。
学校現場に勤めていて疑問なのは、「主権者教育といえば模擬投票!」という発想です。
— しらす (@dokomademoinaka) 2020年7月31日
確かに選挙も大事だと思うんですが、それ以外の回路も使って世論を動かすことが大事だと思うのです。
アラブの春や休校延長を求めるデジタルでの社会運動はその可能性を感じさせました。
選挙にいかない理由として、「自分の一票じゃ政治を変えられないから」という無力感があげられます。
実際、有権者のもつ一票の価値は極めて小さいですし、現行選挙制度においては一票の格差という地域ごとに一票の価値が異なるという問題もあるため、有権者は選挙では政治を変えづらいとひしひし感じているようです。
というのも、まず小選挙区制という制度自体が、当選者以外の全ての票を死票にしてしまいます。また、そもそも一人の代表者が多くの利害を持つ有権者の願いを全て叶えることは不可能なので、民意と政策の乖離が生じます。
こうしたところから、自分の政治的な影響力の小ささを感じてしまうのです。
でも、ウェブ上の署名サイトでは単一争点でキャンペーンが展開され、それに賛同する人の数がカウントされるので、ある意見に対する世論が可視化される仕組みになります。それは応援する人、キャンペーンを立ち上げた人双方にとって追い上げになりますし、政治家にとっては脅威になります。
選挙の時点で問題にならなかったことでも、後々問題化することは往々にしてあります。そうした時に次の選挙を待つだけでなく、自分たちの思いを政治に訴え、実現する手段として、ウェブ署名はかなり有効な手段だと感じました。
学校の中でも選挙だけでなく、自分たちの気持ちを伝えるトレーニングが必要だと感じます。
そうしたトレーニング経験の有無はわかりませんが、高校生が社会の不正に声を上げ、社会を変えた経験を積めたことは民主主義の成熟に非常に良かったと思います。
お時間あるときに、是非Change.orgをのぞいてみてください。
応援したいキャンペーンがあるかもしれません。
それでは。