Shiras Civics

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「人生をどう生きるか」がテーマのブログです。自分を実験台にして、哲学や心理学とかを使って人生戦略をひたすら考えている教師が書いています。ちなみに政経と倫理を教えてます。

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74年前の大学生は何を考えていたのか~特攻隊の手記から思うこと~

 

※主張激しめです。

 

www.j-cast.com

 

トランプ大統領が、特攻隊は酒に酔って、薬をやっていたのか?と安倍首相に尋ねました。

 

彼らの名誉のために、実際の特攻隊に選ばれた若者の手記を引用します。少し長いですが、ご容赦ください。

 

上原良司(うえはらりょうじ)

1922年(大正11年)9月27日生。長野県出身

慶應義塾大学予科を経て、1943年(昭和18年)経済学部入学

1943年12月1日、松本歩兵第50連隊に入隊

1945年5月11日、陸軍特別攻撃隊員として、沖縄嘉手納沖の米機動部隊に突入戦死

陸軍大尉。22歳

 

所感

 栄光ある祖国日本の代表的攻撃隊ともいうべき陸軍特別攻撃隊*1に選ばれ、身の光栄これに過ぐるものなきを痛感致しております。

 思えば長き学生時代を通じて得た、信念とも申すべき理論万能の道理から考えた場合、これはあるいは、自由主義者といわれるかも知れませんが、自由の勝利は明白な事だと思います。人間の本性たる自由を滅す事は絶対に出来なく、例えそれが抑えられているごとく見えても、底においては常に闘いつつ最後には必ず勝つという事は、彼のイタリヤのクローチェ(イタリアの哲学者)も言っているごとく真理であると思います。権力主義全体主義の国家は一時的に隆盛であろうとも、必ずや最後には敗れる事は明白な事実です。我々はその真理を、今次世界大戦の枢軸国家(日本・ドイツ・イタリア三国同盟の諸国)において見る事が出来ると思います。ファシズムのイタリヤはいかん、ナチズムのドイツまた、既に敗れ、今や権力主義国家は、土台石の壊れた建築物のごとく、次から次へと滅亡しつつあります。真理の普遍さは今、現実によって証明されつつ、過去において歴史が示したごとく、未来永久に自由の偉大さを証明していくと思われます。自己の信念の正しかった事、この事はあるいは祖国にとって恐るべき事であるかもしれませんが吾人にとっては嬉しい限りです。現在のいかなる闘争もその根底をなすものは必ず思想なりと思う次第です。既に思想によって、その闘争の結果を明白に見る事が出来ると信じます。

 愛する祖国日本をして、かつての大英帝国のごとき大帝国たらしめんとする私の野望は遂に空しくなりました。真に日本を愛する者をして立たしめたなら、日本は現在のごとき状態にはあるいは追い込まれなかったと思います。世界どこにおいても肩で風を切って歩く日本人、これが私の夢見た理想でした。

 空の特攻隊のパイロットは一器械に過ぎぬと一友人が言った事は確かです。操縦桿(そうじゅうかん)を採る器械、人格もなく感情もなく、もちろん理性もなく、ただ敵の航空母艦に向かって吸いつく磁石の中の鉄の一分子に過ぎぬのです。理性をもって考えたなら実に考えられぬ事で、強いて考うれば、彼らが言うごとき自殺者とでも言いましょうか。精神の国、日本においてのみ見られる事だと思います。一器械である吾人は何も言う権利もありませんが、ただ願わくば愛する日本を偉大ならしめられん事を、国民の方々にお願いするのみです。

 こんな精神状態で征ったなら、もちろん死んでも何にもならないかも知れません。故に最初に述べたごとく、特別攻撃隊に選ばれたことを光栄に思っている次第です。

 飛行機に乗れば器械に過ぎぬのですけれど、いったん下りればやはり人間ですから、そこには感情もあり、熱情も動きます。愛する恋人に死なれた時、自分も一緒に精神的には死んでおりました。天国に待ちある人、天国において彼女と会えると思うと、死は天国に行く途中でしかありませんから何でもありません。明日は出撃です。過激にわたり、もちろん発表すべき事ではありませんでしたが、偽らぬ心境は以上述べたごとくです。何も系統だてず思ったままを雑然と並べた事を許して下さい。明日は自由主義者が一人この世から去って行きます。彼の後姿は寂しいですが、心中満足で一杯です。

 言いたい事を言いたいだけ言いました。無礼を御許し下さい。ではこの辺で。

出撃の前夜記す

 

 

これは特攻に出撃する前夜に、ある青年が自らの思いを綴ったものです。

酒でやけくそになっているでしょうか。薬をキメて頭がおかしくなっているでしょうか。

私には祖国の行く末と自らの人生を総括し、軍国主義の不条理と自由主義の勝利とに葛藤しつつも、冷静に人生にけりをつけた、一人の人間がいたようにしか思えません。

 

学生たちが戦争と直面してどう感じたのか、『きけわだつみのこえ』という本に収録されています。

自由を抑圧する軍国主義は話になりません。戦争自体を美化するつもりは一ミリもありませんが、それに臨んだ人間の尊厳までを踏みつける事には同意しません。

かつて祖国を憂い、空気という不条理に飲まれつつも、その命を燃やしていった多くの若者がいたことは多くの方に知ってほしいと思います。

 

*1:特攻・特別攻撃隊・特別兵器…航空兵力の不足したアジア太平洋戦争末期に、敗勢挽回のために取った無謀な戦法。最大限の爆薬をかかえた飛行機が敵艦船に体当たりを図った