新卒教員の教科書

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新卒のあの頃の自分へ向けたメッセージをつらつらと書いております。『新卒教員としてのオリジナルテキスト』をつくろうという試みによるブログ。社会科のこととかビビッときた本の書評とか日常生活のこととか。

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5Gは教育をどう変えるのか~ミクロとマクロの両面から考察する~

 

 

5Gへの注目が高まっています。

5Gとは次世代通信システムのことで、ビジネスの分野では世界的な5G推進の競争が繰り広げられています。ファーウェイやサムスンなどの世界的企業だけでなく、中国やアメリカ、スウェーデンや韓国、そして日本など世界中の政府も本腰を入れてしのぎを削っています。では、そもそも5Gとは何なのでしょうか。

 

5Gとは何か・何ができるようになるのか

"Wonderland" by Barcelona-based designer Jaume Plensa (Calgary, Alberta)

5Gとは、第5世代移動通信システム(5th Generation)のことです。現在主流の4Gに比べると、単純に通信が速くなるだけでなく、以下の3つの点に新規性があります。

  1. 高速大容量通信
  2. 超通信・低遅延通信
  3. 多数同時接続

今までよりも大量のデータの送受信が可能になり、超高速でデータをダウンロードすることができるようになります。具体的には遅延速度は1ミリ秒と、4Gの10分の1です。多数同時接続も可能になります。現在の4Gでは基地局一つに対して約100台の端末が同時にアクセスすれば、接続できなくなります。しかし、5Gでは100倍の1万台が同時にアクセスしても接続が遮断されません。こうした特徴はIoTによるデータ収集・分析を想定した仕様によるものです。

 

教育における変化

ミクロな変化

工場や自動運転、鉱山での遠隔操作など様々な実証実験が行われています。しかし、教育における実証実験はまだまだ微々たる数しかありません。

resemom.jp

 

国内では、東京都小金井市立前原小学校で初めての実験が行われました。生徒にはデジタルデバイスを配布し、それぞれWi-Fiに接続した端末と5Gに接続した端末に分け、それぞれダウンロードにどれくらいの時間がかかるのかを比べたものです。

正直、動画のダウンロードは授業中ではなく、事前にダウンロードして用意するのが基本ですが、この実験が示唆するのは学習の個別化です。

生徒はタブレットやPCを用いて自分の興味関心のある分野の勉強を自力で進めることができます。それも、高精細でリアルな映像をすぐに見る事が出来るのです。スタディサプリなどの映像授業でも、一斉授業ではなく、生徒の習熟度に応じて個人で進める時代になっているかもしれません。しかも全校生徒が接続してもサーバーがダウンしない。それを可能にするのが5Gです。

 

また、FUJITSUの提供している動画も未来へのビジョンを提示してくれています。


FUJITSUが5Gで実現する社会~教育編~

 

この動画の中で、日本の児童とオーストラリアのマイケル君が対話するシーンがあります。自動翻訳を通じて、互いの母国語でスムーズに話をしています。

オーストラリアと日本をリアルタイムで高解像度データで結びつけるのは5Gの超通信・低遅延という特徴ならではだと思います。

 

実はこれに類似した取り組み、ある学校が既にやっています。

2018年にグローバルティーチャー賞でトップ50に入選した滋賀県米原高校の堀尾美央教諭の取組みです。彼女がしているのは、Skypeを活用した海外との遠隔交流事業です。生徒たちがヨーロッパやアメリカ、アフリカの国々と英語を通じてディスカッションを積極的にするというプログラムを実施していました。

しかし、現状は4Gという環境下での通信なのでタイムラグや通信の乱れが発生してしまいます。こうしたノイズは5Gが実現されれば除去されるものでしょうし、その点で現状の「先進的な」教育をさらにアップデートするものです。

また、自動翻訳を通じて対話がなされれば、英語だけでなく、世界中のあらゆる人々との対話へのハードルが大きく下がるでしょう。それは生徒の視野を広げてくれますし、また当事者との対話は多角的な視点から問題を考察するという点で教育的に非常に意義のある経験をもたらしてくれると思います。

 

クラスメイトという日常的に生活する人だけではなく、国境を越えた多様な人との対話が新たな価値観をもたらし、学習者に変容をもたらす可能性が大きく増えるでしょう。

 

実現のためには

次の2点に凝縮されます。それは教員の学習機会の拡充と資質能力の向上です。

上記のような教育が成立する大前提は、教員自身がデジタルデバイス等に対する造詣を深めることです。機器を使いこなせなければ、旧来の教育が残り続けます。教員に勉強する時間を提供するためにも、ブラック部活動や事務作業で疲弊する現状を刷新し、働き方改革を官民挙げて本気で推進しなければならないと思います。

第二に教員が勉強しようと思うインセンティブです。人を動かすには人事考課が極めて重要です。読売教育賞などいくつかあることにはありますが、グローバルティーチャー賞のような取り組みをもっと拡充していくべきでしょう。熱意に依存する、個々人の気質という偶然的でコントール不可能な要因に制度が依存するべきではありません。行動経済学や心理学などの学問的知見を活用して制度を作るべきでしょう。

ミクロな変化をもたらすにはマクロな変化も必須だという事です。

 

マクロな変化

Biz school

マクロな変化としては学校間での格差が拡大すると思われます。特に私学は大淘汰時代を迎えると思われます。

その理由は設備投資が可能かどうかという点にあります。

 

新たなテクノロジーは様々ありますが、AIや5Gなどは設備投資に莫大な費用がかかります。現状、志願者に困っていない(伸ばしている)学校は内部留保や銀行からの借り入れによって設備投資が可能で、かつそれらをPR材料にできますが、定員割れによって志願者が減少し、将来性の少ないと判断された学校に対しては融資は厳しいかもしれませんし、当然財力はありません。5Gが当たり前になって低廉化すれば導入も可能になるかもしれませんが、その頃には受験生は別の学校へと流れているかもしれません。

そもそもこれだけ授業動画が配信されている時代ですから、学校に直接行く意味ですら変質するかもしれません。その意味では、N高等学校は民間企業が母体ですから、多くの私学にとってかなり手ごわい競合相手です。

とにもかくにも、5Gが当たり前になりつつある世界で導入できない学校とできる学校とで格差が生じ、それが志願者数へ影響を及ぼす可能性があるということです。

 

一方、公立の学校は企業や大学と共同で実験をする機会が多くなると思います。企業にとっては、ある学校で導入した取り組みが成功すれば、その自治体の学校すべてに導入されることを意味しますから、非常にメリットがあります。

しかし、公立と異なり、特定の教育を志望して入学する私学には、企業との実験はハードルが高いものがあります。保護者に対する説明責任が生じるからです。もちろん公立でも説明責任は生じるでしょうが、学校の教育内容に興味のある保護者の数は私学の方が断然多いですから。

人口減少社会とあいまって、新技術の導入は私学にとって大きな分岐点となるのです。