Shiras Civics

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「人生をどう生きるか」がテーマのブログです。自分を実験台にして、哲学や心理学とかを使って人生戦略をひたすら考えている教師が書いています。ちなみに政経と倫理を教えてます。

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政治家がダメでも日本がしっかり機能している理由

 

www.jiji.com

 

「自分(有能なリーダー)がいなくとも回る組織が強い」

 

ビジネスの世界でよく耳にする言葉である。

 

これは、ビジネスだけでなく、官公庁や学校などありとあらゆる組織において通ずるものだと思っている。

 

 

社会科学の欠点

 

技術担当者

 

社会科学の欠点は、自然科学と違って、意図的に(社会)実験ができないことである。

実験とは、仮説を立て、ある条件の下で、それを検証し、一定の結論を導き出すことである。

 

だが、今回のコロナ禍では、皮肉にも世界各国が(国によって異なる条件はあれども)ほぼ同じ条件下でコロナ対策に国を挙げて取り組まざるを得なくなった。

 

通常、我々は国家の政策を、他国や国内の過去の事例などと比較したり、何らかの原理に基づいて推論を働かせたり、様々な思考の営みをしたうえで結論付けている。

 

ただし、これには考える材料としての知識がないと正しい結論には至れない。その材料の最たるものが過去の事例なのである。事例というのは、政策を実際にやってみて、得た効果や欠点など、実験のレポートであり、それが考える幅を拡張させてくれる。

 

だから、今回のコロナ禍で世界各国がほぼ横並びにコロナ対策に取り組んだことは、自国の政策を考察する材料が大量に手に入ったことを意味する。同時代の政府を比較する「横の視点」を得たのだ*1

 

各国が同時にセンター試験を受けているようなものである。

 

日本の対応

 

コロナ対策をめぐる政府の対応に関して、思うところはいくつかある。

補償が後手後手に回ったり、リーダーシップが発揮されている、とは中々言い難いと思う。

だが、それでも国際的に比較すると、日本の感染者数・死者数ともに抑えられていると思われる。

 

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外務省資料「新型コロナウイルス 国別感染者数の推移」

https://www.anzen.mofa.go.jp/covid19/country_count.html

 

もちろん、昨今の政治過程における不正疑惑によって政府統計の信憑性が疑われていたり、検査数が意図的に抑えられているのではないか、という批判もあるだろうが、今日までの政府の取り組みで一定程度抑制できていることも事実だろう。

 

だが、「政府が有能だから」という理由だけで、こうした結果が出ている、とは思わない。

日本の場合、為政者ではなく、部下、そして国民が優秀であるため、こうした成果がもたらされていたと思われる。

 

有能なスタッフが組織を回す

 

Most Distinguished Leader of the Year for Minority Business Award

 

危機や有事の際、為政者のリーダーシップの有無が顕在化する。

今回、東京都の小池知事や大阪府の吉村知事のリーダーシップが大きく注目された(実態はメディアに頻繁に出て、働いているように「見せかけている」としても、だ)。

 

一方で中央政府の対応は後手後手であった。各国の首脳がロックダウン(都市封鎖)を決定し、経済活動を停滞させる企業や労働者への補償を決める一方で、永田町では「お肉だ!魚だ!」が真剣に議論されていた。ある大臣が「がんばっている清掃業者のためにごみ袋にお絵かきしよう!」と提案したときは言葉が出なかった。

そもそも政治家は何かの専門家ではない。選挙で票を集めるプロであり、専門的知識以外のコミュニケーション力や弁舌等が問われるのであって、有事の際に適切な判断を下すことに長けているわけではない。

もちろん国民代表である政治家が政策決定をするのであるが、その判断を大きく支えているのが政府の専門家会議であったり、官僚なのである。

 

www.newsweekjapan.jp

 

日本は古来より行政国家であった。当然である。巨大な官僚制を要する中国の影響を大きく受けて行政体制が形成されていったのであるから。

戦乱の世を経て、再び江戸時代になり、太平の世が訪れる。巨大な官僚機構が250年以上かけて成熟していき、明治国家にも受け継がれていく。そして、敗戦後もGHQの占領を巧みにかわした官僚制が、現在まで存続してきた。敗戦後の復興しかり、世界的な経済大国への躍進しかり、表舞台にいた政治家ももちろん重要であるが、その背後には優秀な官僚がいて、彼らが日本政治を支えてきたともいえるのだ。

 

高度経済成長下においては、その官僚とタッグを組み、猛烈に働いた企業人の努力が実を結んだのである。

 

為政者が有能ではなくとも、有能な部下が組織を回す仕組みがきちんと働いていたのである。

 

20191229 Daijuji 3

 

日本の政治を古代から眺めると、世襲で為政者になる場合が多い。

血縁と有能さには因果関係がない。だから、帝王学君主論を教育するのである。しかし、幼稚舎からエスカレーターで大学進学をして、政治家の親のコネで内定を得て、当選を果たして、果たして、それで能力は磨かれるのだろうか。

財を成した一代目は勤勉で努力を絶えず行ってきたという。明治期に政治家家系としての先端を切り開いた鳩山和夫鳩山一郎の父)や戦前の官僚である岸信介は非常に聡明であった。しかし、孫である三代目ともなれば、生まれた時から財が当たり前のものとして周りにあるわけである。かといって、昭和天皇のように乃木希典東郷平八郎から薫陶を受けるわけではない。

世襲議員に批判が集まるのは、為政者としてのリーダーシップや国家百年の大計があって「社会を変えたいという熱意があり」「能力があって」政治家になるわけではなく、すでに親がもっていた地盤・看板・かばんを引き継いで政治家になったからである。

先代が築き上げた資産を食いつぶしていれば、よっぽどのことがあれば当選する。つまり、前述した「当選するための個人の能力」もあるかは定かではないのである。

 

それでも日本がしっかり機能している理由

それでも、日本がこれだけしっかりと機能しているのはなぜか。

それは、日本を組織としてみたときに、スタッフである官僚や企業、国民が優秀だからである。また、政府へ提言する専門家会議も極めて大きく存在感を持っていた。

日本のロックダウンは欧米と異なり、強制力は極めて限定的である。それでも、繁華街への人出が大きく減ったのは、人々が「自粛」をしたからである。

加えて、人々の高い衛生観念や国民皆保険というシステムの存在が大きかった。

裏を返せば、全体主義的で「世間」という同調圧力が働いていたともいえる。けれども、事実として多くの人が外出を控え、家にいたのである。

「みんな我慢しているから、自分も控える」という連帯のようなものともいえるだろう。こうした民度の高さは誇っていいのではないか。そして、それを指揮する適切な政策を提言できる専門家を揃えられた。

つまり、有能なリーダーが不在であろうと、強固なシステムと有能な部下がいれば、組織は回る*2

 

 

だから、今回感じたことは、カリスマではなく、有能なスタッフを数多く育てる必要性である。

そもそもカリスマは学校から出てこない。スティーブ・ジョブズスタンフォード大を中退したし、田中角栄は大学を出ることができなかった。

けれども、有能なスタッフは学校教育を経ている。この辺りに次世代の教育を考えるヒントがありそうな気がした。強力なリーダーシップを育てるのではなく、チームワークで課題を解決する、そんな人々の在り方からヒントを得た。

*1:過去との比較としての「縦の視点」としては、ペストやコレラ対策に人類がどう向き合ってきたか、歴史的な書物が大量にある。

*2:とすれば、代議制民主主義を続ける理由って何ですかね。