東ヨーロッパのベラルーシという国をご存じでしょうか?
今、この国では大統領選挙の不正疑惑を巡って1ヶ月以上デモが起こっています。
これに対する政府の対応が人権侵害として国際連合の人権理事会で取り上げられました。
大統領選挙はどうなるのか、そしてデモの行方はどうなるのか?
今回はそれについて見ていきたいと思います。
ベラルーシってどんな国?
面積は約20万平方キロメートル(日本の半分です)。
人口は940万人ですから、東京23区よりも若干多い人口規模です。
政治的には大統領制(共和制)が採用されていますが、1994年から26年もの間、ルカシェンコが大統領を務めています。つまり、実質的な独裁国家です。
▼アレクサンドル・ルカシェンコ大統領
民族構成としてはベラルーシ人が約8割、ロシア人が約10%を占めており、また地理的な近さも相まって、親ロシア的な外交を展開しています。たとえば、ユーラシア経済同盟というEUのような市場統一を目指す経済共同体をロシアなど4カ国と共に結成しています。
元々ソ連崩壊と共に社会主義から市場経済へ移行したのですが、ルカシェンコ大統領が就任した翌年の1995年、「社会主義市場経済」を導入し、価格統制や企業のが保護政策が取られるようになりました。
補助金による価格の引き下げ、ルカシェンコ大統領の個人的な支出など放漫財政により、財政状況は芳しくありません。ただし、アメを国民に配るようなこうした政策も独裁体制支持の一因といえます。
産業としては。工業が盛んで、肥料産業が発達しています。また、世界有数の麦の生産国です。経済的には、ロシアとの結びつきが強いため資源価格の下落などでロシア経済が打撃を受けると、連鎖的にベラルーシ経済も影響を受けます。そのため、最近では中国に接近し、経済援助を獲得しています。
また、ベラルーシはウクライナと隣接しており、ソ連時代はチェルノブイリ原発事故の被害を最も受けた国の一つとされています。下の地図を見ていただくと、チェルノブイリからベラルーシの首都ミンスクは300kmほどしか離れていないことがわかると思います。だいたい東京から名古屋くらいまでの距離ですね。
▼チェルノブイリからの距離
ウクライナとベラルーシの人口変動、激増する死亡と激減する出生 人口統計上の大惨事−チェルノブイリ事故の影響、特にセシウム137 その�@
大統領選挙の不正疑惑
今、ベラルーシで何が起こっているか、ざっくりとこんな感じです。
【ベラルーシがやばい】
— しらす (@dokomademoinaka) 2020年9月22日
・26年間大統領を務めてきたルカシェンコによる独裁
・一ヶ月以上連続で数万人規模の反政府デモ
・デモの弾圧が国連人権理事会で問題視
・EUは制裁を検討
・野党指導者コレスニコワ氏が白昼堂々誘拐され、今でも行方不明
・大統領はロシアの後ろ盾があるためデモに強気
今、ベラルーシでは数万人に上る大規模デモが一ヶ月以上続いています。
事の発端は一月前に遡ります。
8月9日、大統領選挙が行われ、その結果現職のルカシェンコ大統領が8割の得票率を、野党候補は1割の得票率を獲得しました。
しかし、この選挙で不正が行われたという疑惑が生じました。
投票所で票が書き換えられたり、対立する候補が選挙登録できなかったり、警察に拘束されたり、公正な選挙が行われていないことに市民が抗議して、結果として大規模なデモにまで発展しました。
しかし、ルカシェンコ大統領はデモを弾圧。警察を投入し、死傷者まで出ています。
極めつけは、大統領に対立する野党指導者が白昼堂々誘拐されたことです。
ベラルーシで抗議活動の指導者が拉致されたとの報道 警察は身柄拘束を否定 - ライブドアニュースによれば、以下のように書かれています。
先の大統領選挙に不正があったとしてルカシェンコ大統領の退陣を訴えるデモのリーダー、マリア・コレスニコワ氏が7日、首都ミンスクの中心部で正体不明の集団に身柄を拘束された。
現地メディアは目撃者の話として、コレスニコワ氏が覆面の男らにミニバンに押し込まれ、連れ去られたと報道。また野党協議会は、その後他の活動家2人も失踪したと明らかにした。
こうした人権侵害が続く状況に対して、国際連合が動きました。
国連の人権理事会では、「深刻な懸念」を表明する決議が採択されました。
EUは8月の段階で制裁の方針を示していましたが、内部事情で制裁への合意が出来ていません。こうした中でルカシェンコ大統領はデモに対する弾圧を強めており、さらなる人権侵害が懸念されます。
今後の見通し
そもそも、なぜルカシェンコ大統領がこれほど強気なのか、というと背後にロシアがいるからです。
ロシアとベラルーシは国境を接しており、ロシアにとっては親ロシア派の重要な衛星国家。要は西ヨーロッパとロシアとの間にある緩衝材、クッションの役割を持つ国家なのです。このクッションが西ヨーロッパ側に寝返ってしまえば、ロシアの安全保障上よろしくない。
ウクライナが西ヨーロッパに接近したとき、ロシアはクリミア半島を占領しました。その時、国際社会はウクライナに大規模な介入をすることは出来ませんでした。
仮にEUから経済制裁を受けたとしても、ロシアや中国との経済的関係が強いため、さしたる問題になり得ません。
ここでベラルーシが今後辿るストーリーを考えてみると、大きく2つに分かれると思います。
一つはルカシェンコ大統領が今後も政権を握り続けるケース。
今回、EUを始め欧米諸国は制裁すら出来ていません。
仮に制裁が行われたとしても、ロシアや中国との関係が強いため、その関係を断ち切らない限りはルカシェンコ大統領はデモの弾圧に強気の態度で臨むでしょう。
(もしその関係すら断ち切れれば経済的に多くの国民が困窮するので、全国的なデモに発展する可能性があります。)
また、EUの軍事介入ですが、現状では大規模な人権侵害(ジェノサイド)のような状況は確認できていないため、困難だと思います。
仮に軍事介入したとしても、ロシアが自国民保護のため介入する可能性が高いでしょう。そうなれば、EUとロシアの武力衝突に発展する可能性もあるため、EUによる軍事制裁の可能性はほとんどないといえます。
もう一つはルカシェンコ大統領が退陣するケース。
これはベラルーシ警察・軍の動向が大きなポイントになります。
アラブの春では、各国の軍がデモに参加して、独裁政権の打倒に協力をしました。
つまり、独裁国家でデモが成功するかどうかは、国際的な圧力か警察・軍部が独裁者を裏切るかの2つしかありません。ここでの成功とは、「ルカシェンコ大統領が退陣すること」です。
さて、今回は国際的な圧力にあまり期待が出来ない状況です。
とすれば、警察・軍部がルカシェンコの命令に背き、抗議運動に参加すればデモは成功するかもしれません。
ただ、そうなった場合、確実にロシア軍がベラルーシに軍事介入するでしょう。
これはソ連による東欧の自由化運動への軍事介入、ロシアによるクリミア半島占領など過去の行動パターンから予測しうることです。なぜなら、ベラルーシというクッション国家を失うのはロシアにとって損失だから。
そうした時に国際社会が圧力をかけられるか、ベラルーシの自由と民主主義を守ることが出来るかが問われる、そう思います。
いずれにせよ、ルカシェンコ大統領の権力の正当性は、曲がりなりにも共和制国家ですから、「選挙で選ばれた」という事実に由来します。
ここが揺らいでしまえば、今後の政権運営は厳しいでしょうから、デモに対する説明責任は果たさないことには国民は納得しないでしょう。
それでは。
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