新卒教員の教科書

私立高校一年目。『新卒教員としてのオリジナルテキスト』をつくろうという試みでブログを書いてます。社会科のこととかビビッときた本の書評とか日常生活のこととか。

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これからの時代のリーダー

「多数派」というものが形成されにくい世である。

現代社会は多様な価値観が共存する社会である。ウルリッヒ・ベックはこうした現代社会の現象を「個人化」と呼んだ。個人化とは、従来の価値観や慣習が共通認識・了解とはならず、個人が多様な価値観や慣習を選択するようになった現象を指す。たとえば、「定年まで一つの企業で働く」という雇用モデルは労働市場の流動化でもはや成り立たなくなりつつあるし、そもそも人生100年時代と言われる中で定年という概念が今後も妥当性を持つかは全く分からない。また、結婚や出産などのライフスタイルも、事実婚などといった形で多様化している。

個人化、グローバル化少子高齢化

現代社会が直面する社会変化は個人化にとどまらない。それがグローバル化少子高齢化であり、それらの急速な進行は様々な問題をもたらす。すなわち、今後の社会は個人化が一層進むと同時に、外国人の流入に伴うトラブルや少子高齢化による人口減少や社会保障給付の問題など、課題が頻発する社会となる。そうした中で求められるのは、主体的に課題解決に取り組む姿勢を持つ人材である。

それには理由が2つある。第1に、個人化が進んだことで政府の課題解決能力が著しく低下したからである。高度経済成長期においては、「多数」の有権者と政治家の利害が一致していた。たとえば、地方からは公共工事を通じたインフラの整備が求められたり、経済界からは護送船団方式が求められたり、多くの場面で「多数派」が形成されていた。それは一定程度の社会的な共通了解があったからである。生涯ある地域に暮らしたり、特定企業に生涯勤めるということが当たり前の時代においては、共通の利害を形成しやすく、それゆえ多数派が形成されやすかった。

第2に、経済が縮小したことで、政府の課題解決能力が低下したからだ。日本の財政支出はおよそ97兆円である。しかし、財政収入のうち税収でまかなえているのは58兆円である(2018年)。税収の不足分は国債で賄わなければならない。日本では1975年から毎年特例国債が発行されており、借金の増加は財政の硬直化をもたらす。つまり、借金返済に毎年追われているため、従来の財政政策のパフォーマンスが発揮されないのである。たとえば、高齢化の進行に伴って社会保障関連予算は毎年増加していくが、同時に国債費(借金返済のための支出)も増えていくので、その支出を賄うために国債を発行するために、財政政策の裁量がどんどん減少していく。限られた予算は分配対象の減少をもたらす。少ない予算の奪い合いが起り、脱落者、すなわち政府によっては救済されない人々が生じるのである。そもそも、個人化が進めば財政政策へのコンセンサス自体が得られない可能性もあるのだ。

現代社会のリーダー像

こうした背景を踏まえれば、これからの社会に求められるものは民間の課題解決能力といえる。では、具体的にどのような人材が求められるのか、すなわちどのようなリーダーが必要とされるのかを検討してみたい。まず必要な感覚は共感できることである。社会には様々な課題がある。課題というのは「誰か困っている人がいる」からこそ、「課題」といえる。困っている人に手を差し伸べる原動力となるのは、「その人を助けたい」「自分がその立場だったらつらい」といった共感する心だろう。

そして、次に必要な能力は発信力である。いくら社会課題を解決しようと考えても、一人でできることには限界がある。そうした時に、同じ課題の解決に興味を持つ人を惹きつけ巻き込んでいくには、自分の思いを表現することが重要な手段となる。SNSが発達し、遠く離れた人とも瞬時につながることのできる現在において、自分の感覚と近い人間とすぐつながることができる。そのときに表現力を持っているかどうかはフォロワー獲得に大きな影響を与える(この場合の表現力とは文章だけでなく、動画や画像などのメディア、プレゼンなどのバーバルコミュニケーションジェスチャーや目線などのノンバーバルコミュニケーションなどコミュニケーション全般に関連する能力と言えよう)。個人化が進んだ社会においても、同じような感性を持つ人間を探すのはSNSを用いれば容易にできるだろう。

最後に、情報収集・課題発見・分析などの知的能力が求められる。そもそも課題を発信するにはまず課題を発見しなければならない。そして社会課題を発見するには、社会に関して一定の知識を持つ必要がある。どこに何が生じているのかを理解するには、社会の構造や現象、そしてそれに伴って起きる問題など前提となる知識を身につけなければならない。そうした知識を用いて分析を行い、どのような解決方法があるかを考える。つまり、社会に関する知識と課題の背景や解決策の分析、そして表現は連関した営為なのである。そして、その前提には共感というパッションを有するという条件があるのだ。発見した課題を困っている人から聞き取り、真摯に向き合うこと、すなわち傾聴力が必要なのだ。

確かに、現代において多数派は形成されづらい。だが、それは時代の変化を表す一側面に過ぎないし、むしろ個人が動きやすい時代だということを意味している。だからこそ、民間の活力ある社会を目指して教育活動に取り組んでいきたい。次回はこうした人材を育てるにはどのような教育が必要か考えてみたい。