ドイツ経済研究所によるユニバーサル・ベーシック・インカム(UBI)研究の一環として、120人のドイツ人が3年にわたって毎月1200ユーロ(約15万円)を受け取る。
UBIは国民あるいは居住者に対して最低限必要な所得を保障する政策で、通常は政府から現金の支給という形で行われる。
そもそもベーシックインカムってなに?
ベーシックインカムは、最低限の所得を保障する政策です。
政府がすべての国民に対して最低限の生活を送るのに必要とされている額の現金を定期的に支給します。
つまり、政府が国民にタダでお金を配る制度のことです。
社会保障とよく混同されがちなベーシックインカムですが、中身は異なります。
社会保障は生存権の保障するために特定の条件をもつ人に対して限定的な給付が行われます。
たとえば、生活保護であれば貧困世帯であることが条件になります。
一方で、ベーシックインカムは貧困対策ではなく、給付の条件もないため、誰でももらうことができます。
なぜ実験が始まったの?背景は何?
そもそもベーシックインカムが導入されるようになった背景には、2つの変化がありました。
1つは特に先進国における失業者の増加。
コロナ禍で失業者が増加傾向にありますが、こうした失業者に対しては失業給付などの社会保障給付が行われます。
しかし、現状の制度下においては複雑な手続きが必要なため、受給のハードルが高くそのため、無差別に現金を給付する簡素なベーシックインカムの導入が叫ばれています。
もう1つの変化は社会保障の持続可能性についてです。
具体的には、社会保障の負担と受益の問題をさします。
たとえば、日本の年金制度においては、現役世代が年金財源の大部分を負担する賦課方式が採用されています。
しかし、将来的に人口が減少していく中で、賦課方式が維持されるのは困難であるという見方があり、社会保障制度の持続可能性という点でベーシックインカムの導入には一定の妥当性があります。
導入によって何が起きる?
労働市場の流動化は進行傾向にありますが、ベーシックインカムの導入によって加速すると考えられます。
まず、一定額の給付を毎月もらうことができるので、仕事をするかどうかという選択肢を人々は持つようになります。仕事が嫌ならつつましく生活すれば、生きるのには困らなくなります。あるいはもうすこし所得を上げたいのであれば、少し働けば済むようになります。余暇の時間を充実させ、家族との時間や趣味に没頭することで幸福度が増すかもしれません。
カナダやフィンランドでは導入事例がありますが、幸福度が高まったというデータもあるようです。
また、社会的に重要とされる一方で、給与があまり高くない仕事にも従事する人が増えると考えられます。代表的な例で言えば、保育士や教師などです。
ある程度の所得が保障されれば、転職や起業へのチャンスを生かし新たなチャレンジをする人も増えるでしょうし、ますます労働市場は流動化していくんじゃないでしょうか。
こうしたところから、労働を前提とするベーシックインカムは資本主義を積極的に肯定しているといえます。
ベーシックインカム導入の課題は何か?
ひとつが財源の問題です。
まずベーシックインカム導入に際して、年金や医療など現状の社会保障制度は全てベーシックインカムに一元化される必要があります。それは財源を確保するためです。
次に要支援者の問題です。
社会保障給付が全てベーシックインカムに一元化されるため、保険や年金が全て支援を必要とする人が十分な支援を受けられなくなる可能性があります。
そういった人々に対しては個別具体的にケアをできるような制度を構築すべきでしょう。
最後に課税の問題です。
ベーシックインカムは多くの財源を必要とするため、税金が確実に徴収される必要があります。
しかし、税金を高くしてしまえばタックスヘイブンに企業あるいは富裕層が流出してしまう可能性もあります。
ですから、ベーシックインカムを各国が確実に導入するためには、国際的な課税制度の構築が必要といえるでしょう。
社会科学は何度も実験ができないー貴重なサンプルにしよう―
社会科学は何度も何度も実験ができないという点において自然科学との違いがあります。
今回のドイツにおけるベーシックインカム導入の実験は、対象が120人、3年と限定的です。また、社会保障制度も現状のまま存続する形でベーシックインカムを活用するので、ベーシックインカム導入後を想定した完全な実験とは言えません・
しかし、今後各国におけるベーシックインカム導入の議論の際に大いに役に立つことかと思います。
参考
ベーシックインカムとは何か? なぜ、いま議論が盛り上がっているのか? | Business Insider Japan
伊藤誠「ベーシックインカムの思想と理論」https://www.jstage.jst.go.jp/article/tja/65/2/65_KJ00006711699/_pdf